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Weird sisters story

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Atropos 2




発進を告げるアラートがけたたましく鳴り響いていた。
その轟音も、ヘルメットを被りコアスプレンダーのコックピットに入れば幾分弱まり、代わりにコントロールからのアナウンスが通るようになる。
『…発進スタンバイ、モジュールはフォースを選択します』
どこか機械的に聞こえる声を、シンは何気なく聞き流していた。
初めての実戦であるのに、操縦桿を握る腕は震えもしない。
何故だろうか。
『カタパルト、エンゲージ、セイバー発進、どうぞ!』
少しだけハンガーが揺れた。
セイバーが、あの人が発進したのだろう。
何も一番に発進する必要はないのだが、その辺りがあの人らしい。
リフトが上がっていくのがわかる。
インパルスはその特殊さ故に、専用のカタパルトを用いた。
閉まっていたハッチが徐々に開放されていく。
見えたのは、海と空だけ。
『カタパルト、推力正常。進路クリア、コアスプレンダー発進、どうぞ!』
スロットルを回す。
急激な加速に身体が後方へ押し潰されるが、もう充分に慣れた圧力だった。
海と空だけの青い世界へと飛び出した。
それはどこか、懐かしい色をしていた。






海と空しか見えなかった。
雲ひとつとして存在しない目も冴えるような青を見上げれば、遠い感情が甦ってくるようだった。
レイ・ザ・バレルは、ギュッと己の右手首を押さえていた。

「好きなんだ」

いつまでも、耳元で囁かれた彼の声が離れない。

「…どうしようもないくらいに」

触れられた体温の暖かさ。
絡められた指の拙さ。
じわりと残る、口付けの儚さ。
レイは押さえつけていた己の手首を見遣った。
もう、あの痕はどこにもない。
そこにあるのは、無残な傷跡のみ。
(消えて…しまった……)
もう、彼の名残を示すのは己の記憶の中だけ。
だけどあと少しで、それも消えてしまうだろう。

「忘れないから、俺は。お前のこと」

あの時彼が印した痕と同じ場所に、そっと、唇を押し付けた。
海風に遊ぶ髪の隙間から、一滴の雫が風に乗って霧散する。

ネオ・ロアノークは、声を掛けようとして、躊躇った。
そしてそのまま、踵を返して背を向けた。






『作戦通り、行動を開始する。各隊、配置に付け』
飛行形態…MAに変形したセイバーが先頭を切って、カーペンタリア基地まで一直線の空路をとっていた。
コマンドと呼称された先遣隊は、セイバー、インパルスに続き、バビやディンなどの主に機動性を重視した編制となっている。
『まもなく、敵の索敵レーダー圏内に入る。各人、作戦目的を忘れるな』
アスランの落ち着いた声が聞こえてきた。
そしてそれがほぼ終わると同時に、機体のアラームが鳴った。
ロックされたのだ。
画面の隅に小さく見えていた黒い粒が拡大され、敵機の機種をライブラリからオートで検索、割り当てる。
熱紋照合―――ムラサメだ。
そのビームライフルが放たれる前に、アスランの指示が飛んだ。
『各機、散開!』
散らばったフォーメーションの中央を薄緑に光るビームが走っていく。
恐らく、あれはアスランの機体を狙った一発だったのだろう。
シンはそんな事をちらりと考えながら、ライフルを構えた。
ロックをかけたと同時に撃ち放つ。
真正面から向かってきた機体はあえなく海へと落ちていった。
わき目も振らず敵へと滑空するインパルスを取り囲もうと、側方から回り込もうとしていた機体を撃破。
それに続く敵機もすれ違い様に2機、撃墜する。
海面近くまで来ると、追って来た機体をギリギリまで引き付け、急上昇。
ブーストの急激な噴射で水飛沫が上がり、それに視界を塞がれている間に更に3機、墜とした。
『シン、あまり敵戦力を奪うな』
「………わかってますよ」
上空でドッグファイトを繰り広げているらしいアスランから忠告が入る。
コマンドの目的は、敵戦力、並びに増援部隊の誘導だ。
僅かに押されつつ、目ぼしい機体は撃破、僚機は出来るだけ生存させなければならない。
次々に敵を撃ちつつ、空からコックピットのみ残した残骸が降ってきた。
以前見せられた地球軍の資料にあった時と同様に、あの人は極力、不殺を貫いているようだ。
押しつ押されつつの戦闘を繰り返していると、不意に上空より新たなロックがかかる。
インパルスはそのまま機体をスライドさせ降って来たビームを避けたが、急な襲撃に間に合わなかったのか後方に居たバビ2機が落とされた。
「あれは…」
シンの顔が険しくなる。
全体的に緑を基調としたカラーリング、機動兵装ポッドが元の場所へと収まっていく。
そして同時に、水面からビーム砲が発射された。
直撃したディンと、その余波を受けたバビの双方が均衡を失った。
撃ったのは紛れもなく、アビスだ。
『カオスにアビス…!?オーブに配属されていたのか!』
舌打ちをして、上空で牽制しながらアスランが全回線を開いた。
『全機に通達!作戦を一部変更する。挟撃隊B2、3は遊撃隊へ!コマンド、DからFは戦闘隊形を回避行動に!インパルス、パイロット…シン・アスカ!』
「……なんです?」
アスランの呼びかけに、シンはあまり感情の無い返事をした。
通信画面が開き、アスランは真っ向からこちらを見据えている。
『カオスとアビス、あの2機を俺達で仕留める。…出来るな?』
念を押されたその問いには答えなかった。
ただ、急速にインパルスの推力が低下する。
自由落下し始めたインパルスだが、水面スレスレで再びバーニアを噴射した。
予想通り、水中にある機影が追いかけてくる。
いくら機動性に優れるフォースシルエットであるとは言え、カオスを相手にするには、元々空中戦用に作られたセイバーの方が有利だ。
それを見越して、シンはアビスに狙いを絞る。
海面ギリギリで滑空する機体に、馬鹿にされたとでも思ったのかアビスが怒涛のように追撃してきた。
確実に狙ってくるビームを避けながら、どこか冷めた自分の感情を、シンは他人事のように思っていた。


作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ