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Weird sisters story

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Atropos 14




規則的に鳴る心電の音。
既に、他の三つの『ゆりかご』は空だ。
残ったひとつだけが、ぼんやりと機能していた。
「大佐」
傍らでモニターを見ていた男から呼ばれ、視線を画面へと移す。
「どうした?」
「脳波に、微弱なシグナルが確認されています」
見れば、弱々しい、消えかかった信号が記録されていた。
しかし、自分にはこういった医療関係の知識に疎い。
だからすかさず、訊ねた。
「…このシグナルの意味は?」
「催眠状態の脳の中で、夢を見ているのではないかと」
「夢?」
「我々が見るものと同様の現象です」
なるほど、と納得する。
あれでも人並みに、夢も見るらしい。
「…記憶に、障害が残る可能性は?」
「ないとは言えませんが」
「なら、消すべきだな」
わかりました、と答えが返ってきて、機械的に記憶が操作していく。
その度に、僅かながら胸がチクリと痛んできた。
小さな溜息を吐いて、ゆりかごを見る。
あいつの夢でも見ているのか、中に眠るレイの瞳に、涙が見えた、気がした。







「シンー?」
部屋に備え付けられたコールボタンを押して呼びかけてみるが、返事はない。
また、ハンガーに行っているのかと、ルナマリアは肩を竦める。
インパルスの事について早急に聞きたい事があったのだ。
仕方なく足先はハンガーへと向かう。
あの、戦闘後。
地球軍とザフト、両陣営共に莫大な被害をもたらせたあの戦闘は、原因不明のジャミングにより混乱に陥った。
その為、今は双方共に暗黙の一時休戦の形を取っている。
しかしどちらも戦力は著しく低下していた。
兵士も大多数が戦場に散り、中には軍から退く兵も居た。
ザフトの中心であるこの基地も、随分と寂しくなったものだ。
そんな事をひしひしと感じながら、ルナマリアはハンガーのドアをくぐる。
正常に稼動している機体は、ほとんど見られない。
これだけ量があると、整備班もお手上げだろう。
だから、だろうか。
(もう捨てる気なのかもね…)
放置されている半壊した機体を横目に、ハンガーの奥、一際人の出入りが多い場所へと向かう。
そこに悠然と佇む、二つの機影。
その一つのコントロールを弄っている、シンの姿が見えた。
「シン」
近づいて、呼びかける。
画面ばかり見ていた瞳が、ふっとこっちを見た。
「何?」
「何、ってこっちが聞きたいわよ。どうしたのよ一体。ロクに休んでないんでしょ」
あの戦闘から帰還したシンは、ほとんど休まずにこの新型の開発に携わっている。
この前まで、あれほど無気力だったのに。
何かあったのかと訊いてみても、いつも適当に笑って誤魔化すだけ。
今だってそう。
小さく笑って、何も言わない。
ああ、でもその笑顔は、昔の笑顔にそっくりだ。
何を訊いても無駄だと呆れ果て、本題を口にする。
「…インパルスのユニットについて、訊きたいことがあるんだけど」
シンが乗っていたあの機体は、新型のロールアウトに伴いルナマリアが搭乗する事になった。
と言っても、あれほど特殊な機体だ。
慣れるまで相当な時間が要る。
「あぁ、じゃあこれ終わったらそっち行くから」
そう言って、また顔をディスプレイに戻す。
出来るだけ早めに来るように言うと、インパルスのある区画に向かおうとする。
だけど。
「ルナ」
呼びかけられて、ふっと足が止まった。
振り返っても、シンの背中しか見えない。
「あの人は?」
その背中越しに、問いかけられた言葉。
『あの人』と言われて思い当たるのは一人だ。
あの時、海に沈んだセイバーから、シンが救出してきた人。
「…ザラ隊長なら、まだ意識が戻らないって」
「そう、なんだ…」
それっきりで、会話が終わってしまった。
ルナマリアは、再び背を向け、歩き出した。
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ