二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
らんぶーたん
らんぶーたん
novelistID. 3694
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

小説インフィニットアンディスカバリー

INDEX|24ページ/65ページ|

次のページ前のページ
 

第三章 新月の民


<一>

 照りつける太陽は世界で最も大地に近く、視界を埋めるのは黄金色の砂と赤茶けた岩石ばかり。遠くには猛烈に吹き上げる竜巻の姿も見える。そんな過酷な土地にさえ生活圏を広げられるのは、フェイエールの国民の逞しさ、と言うよりも、月印の恩恵によるところが大きかった。
 カペルたち解放軍一行が、ブルガスとフェイエールを繋ぐ陸路、オラデア砂丘に入ったのは、ブルガスを発ってから一週間ほどが経過した頃だった。
「あーつーいー」
「ほらそこ、だらだらしない!」
「ブルガスはあんなに過ごしやすかったのにさ。フェイエールは暑すぎるよ……。っていうか、アーヤはなんでそんなに元気なのさ」
「言わなかったっけ? 私、フェイエール出身なの」
「ああ、それで」
「そう……もう、あんたがそんな顔してたらこっちまで暑くなってくるじゃない!」
「僕じゃなくて太陽に怒ってよ……」
 今歩いているのは、ブルガスとフェイエールを繋ぐ街道で——と言っても整備されているわけではなく、ところどころに道標が立っているだけだが——散在するオアシスを基点として東西南北に広がる交通網の中でも、比較的穏やかな気候ではあるらしい。砂丘の中でも辺境部になると、岩石さえも風化して延々と砂だけの世界が広がっているという話だ。想像しただけで背筋が凍る思いだが、生理的には熱い汗が噴き出すばかりだ。
「ああもう、うるさい! 暑いんだから、静かに歩け!」
 黙々と前を歩いていたエドアルドもまた、この暑さにはまいっている様子で、カペルたちのやり取りに業を煮やしたのか、立ち止まるといきなり怒鳴り散らし始めた。
「エドアルドの方がうるさいじゃないか」
「ぐっ……カペル、お前……」
「がーっはっはっはー。なんだお前ら、だらしねえぞ」
「だらしねーぞ」
 大汗をかきながらもむしろ元気になって見えるバルバガンが言うと、すっかり仲良くなったルカとロカが真似てみせる。
「ほんとよ、まったく。参ってるのなんてあんた達だけじゃない」
 そう言われて顔を上げたカペルとエドアルドが皆を見回すと、アーヤの言うとおり、暑さにやられているのは二人だけだった。苦笑を浮かべているユージンに、微笑を湛えるソレンスタム。日傘を差しているミルシェが微笑みかけるが、カペルには答える元気が無かった。
「ソレンスタムさん、そんな厚着で暑くないんですか?」
 全身をすっぽりと覆ったローブは見るからに暑そうで、その格好で涼しい顔をしていられるソレンスタムがカペルには信じられなかった。
「蒼竜王に無理を言って同行を許してもらったのです。最初から根をあげるわけにはいきませんからね」
 それで暑くなくなるのなら自分も蒼竜王に無理を言っておくべきだった、と埒もない思いを抱いたカペルだったが、そのとき、ソレンスタムの手から何か光るものが落ちるのを視界の端に捉えた。
「滴? ……あっ!」
 よく見れば、ソレンスタムは氷の塊を握っていた。こんな場所で氷が取れるわけがない。だとしたら……、そうだ、魔法だ。だから魔術師連中は涼しい顔をしているのだ。
「ずるいですよ! 僕にもわけてくださいよー」
「よろしいですか?」
「ダメ」
「ちょっと、なんでアーヤに聞くんですか!?」
「ダメよ、暑さなんて慣れればどうってことなくなるんだから。もうすぐオアシスだから我慢しなさい」
「そんなぁ……」
「……」
 何か言いかけたエドアルドはアーヤの言葉にぐっとそれを飲み込んで、トボトボと歩き出した。カペルも仕方なく歩き出す。二人は肩を並べて、同じようにうなだれながら進み始めた。
「シグムントさん、暑くないんですか?」
 先頭を行くシグムントに追いつくと、カペルはそれとなく尋ねてみた。
「……暑い」
 汗一つかいていない。カペルは嘘だと思った。


 日暮れを過ぎてからもなかなかオアシスには到着しなかった。ようやくたどり着いた頃頃には、昼間の暑気が嘘のように、少し肌寒ささえ覚えるようになっていた。オラデア砂丘の気候とはそういうものらしい。
「さーむーいー」
「ほらそこ、ぐだぐだ言わない!」
「昼間はあんなに暑かったのにさ。夜になったらこれだもん。汗も冷えちゃったし、ご飯もまだだし——」
「はいはい、わかったから薪を集めに行くわよ」
「アーヤ、よろしく」
「あんたも来るのよ!」
 そう言って、アーヤはカペルを引きずるようにして行ってしまった。
 シグムントがその様子を見ていると、隣にいたユージンが話しかけてきた。
「あの二人、ずいぶん仲良いみたいじゃないか」
「ああ」
「アーヤくんが僕らと一緒に来るって言ってきた時は、なんていうか、張り詰めていて危うげな感じだったけど、カペル君と会ってからは生き生きとしているように見えるよ。そう思わないか、シグムント?」
「そうだな」
「彼は不思議な子だね……なあ、シグムント。カペルくんのこと、どうする気だい?」
「どういう意味だ」
「彼は鎖を斬れるっていう話だろ。もし本当なら、しばらくは彼に任せて少し休んだらどうだい。身体の調子、悪いんだろう?」
「……」
 ユージンとは物心ついた頃からの付き合いだった。人付き合いの苦手なシグムントには、友人と呼べる人間は数えるほどしかいないが、彼はその中の一人だ。だからこそ、隠していてもばれてしまうこともある。
「カペルの意志次第だ。嫌だと言えばやらせようもない」
「それはそうだけど」
「まだ戦える。自分の身体のことは自分が一番よく知っているさ」
「あまり無茶はするなよ、とは言えないか。女皇様も心配していらっしゃるだろうから、僕にだけはきちんと話すんだよ」
「ああ」
 シグムントはハルギータ女皇国の女皇、スバルの顔を思い浮かべた。シグムントはハルギータ女皇国の出身で、孤児だった。それを育ててくれたのは女皇スバル自身だ。国民すべてを我が子のように慈しむ女皇の心は、今、月の鎖に苦しむ人たちを思う心となっている。だからシグムントは戦いに出た。スバルの心労を少しでも軽くするために。
 その最初の戦いで、自分が月の鎖を断つことができるということがわかった。それからは連戦だった。疲労が抜ける前に次の戦いへ。傷が癒える前に次の戦いへ。月の鎖の所在がわかる度に、シグムントはその地に赴いた。鎖を断てるのは自分だけだからだ。自らが望んでの事だったが、心とは違い身体は正直だった。
 プレヴェン城の戦いのあと、シグムントは血を吐いた。誰にも見せなかった。
 気がつけば、身体はどうしようもないほどに蝕まれていた。月印の力は届かない。それを知っているのは治癒術師であるミルシェだけだ。そのミルシェには口止めをしてある。自分の死期というものに、何となく思いを巡らすことが多くなった。そんな時に現れたのがカペルだった。
「お館様」
「エンマか」
 影の中からエンマが現れた。エンマとその配下には、オラデア砂丘周辺の調査を命じてある。その報告に来たようだ。
「南に新たな月の鎖が打ち込まれたようです。避難してきた者の話によれば、南にある小さな村の近くだと。正確な場所は部下が今、調査しております」
 月の鎖。その言葉に、シグムントの身体の奥で傷が小さく疼いた。
「封印軍は?」