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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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3. 軍神



「―――遅すぎる。何ぞあったのではないのだろうか?」
 苛々を募らせ、右に左にと移動するパンドラを目で追いながら、ラダマンティスは静かに声をかけた。
「宴など催されて、戻るに戻られぬだけではないでしょうか?」
「ありえぬ!あの方は今までそのような催しに参加など、なされておらぬと双子神たちは申しておる。向こうでハーデス様の御身によからぬことが起きたのだ」
「では、双子神たちに様子を見に行かせては?」
 淡々とした口調で今度はアイアコスがパンドラに勧めるがパンドラは首を横に振った。
「あれらは天界には行けぬ。ハーデス様のお許しがない限りな」
「―――我らも双子神同様勝手に冥界を離れることはできぬ……とあらば、あの男に頭を下げて頼みますか?クック……」
 イスに腰掛けたまま、頬杖をつきながら小馬鹿にしたように笑うミーノスを他の三人が厳しい表情を向けた。
「それしか方法がないというのならば……いた仕方あるまい?」
 眇め見るようにしてラダマンティスがミーノスに告げるが、当のミーノスといえば平然と突き刺すようなラダマンティスの視線を受け止めていた。
「とんだ恥さらし、となっても構わないのですか?よく考えた上で行動すべきだと、私は言いたいだけなのですが」
 前髪の奥に隠れている瞳を煌めかせ、億劫そうにイスから立ち上がるとラダマンティスの前に陣取り、顔を覗き込む。ラダマンティスは顔を僅かに強張らせ、小さく舌打った。
「天上の者は強かで傲慢だというのを知らぬわけではなかろう?此度とて本来ならば双子神と共に行くはずであったのが、急遽ハーデスさまおひとりでとの思し召し。ふざけた真似をしおる!」
 よほど腹に据えかねるのであろう、パンドラは手身近にあったグラスを掴むと壁に向かって投げつけた。耳に破裂音が響くと思ったその時、グラスは宙に留まり、金色に輝く手の中に静かに納まった。
「―――っ!ヒュプノスさま」
 続いて姿を現した銀色の神、タナトス。
「タナトス様まで……何故、ジュデッカに?」
 エリシオンからはあまり出てこない双子神が揃って現われ、呆然と二神を眺めていたパンドラと三巨頭であったが、すぐにスッと片膝をつき礼をとった。
「あまり気を乱すな、パンドラ。おかげで招かざる客が堂々と入り込んだではないか」
 金色の瞳を眇め、パンドラを通り越した視線は絵が飾られた壁へと向けられていた。
「―――ふん、招かざる客とな……片腹痛いわ」
 その場所に現われ出でたのは、見た目こそ年端も行かぬ少年だった。
「何者……!?」
 照る陽光の下で野を駆け回り、悪戯をしては親に叱られていそうな活発な雰囲気を持つ少年が、その姿とは似合わぬ鷹揚な口調。そのアンバランスさにパンドラや三巨頭は怪訝に眉を顰めながら、正体を質す。
 すると、明朗活発にしか見えないその少年はうっすらと笑みを浮かべると、秘めていたのだろう、小宇宙を解放してみせた。
 その強さは並大抵ではなく、剥き身の剣のような危険さを醸し出していた。一瞬にしてその場に緊張が走り、サッと素早い動きで三巨頭がパンドラを守るように囲む。
 冥王不在時では実質的には長として役目を担うパンドラに何かあっては困るのだ。殺気漲る中で各々が少年を睨み付けたが、ヒュプノスは驚きもせずに凍るような視線を差し向けながら、来訪者へと声をかけたのだった。
「これは、これは。ハーデスさまご不在にもかかわらず、このような冥界奥深くまで足を運ぶとは……しかも、そのような出で立ちで。何の気まぐれか?―――軍神よ」

 ―――軍神、アーレス。
 血と殺戮を何よりの悦びとし、冥界を潤してもいる男。

 忌々しいとばかりにヒュプノスは一体何の用向きでわざわざ冥界まで訪れたのか、その真意を推し量っていた。
 ハーデスとは血の繋がり以上にその本質の近さから、親しい間柄でもあるアーレス。ハーデスが無慈悲で冷徹な神だとすれば、アーレスは欲深き残虐な神だとヒュプノスは思っている。
 子供のような無邪気さで、じわじわといたぶり、苦しみ果てていく姿を嗤いながら、さらなる苦痛を与えるのだ。ある意味タナトスとも近いと言えたが、純粋に死を快楽とするタナトスとは違って、それに至るまでの耐え難い苦痛を快楽とするアーレスとでは雲泥の差がある。
 平和そのものの世界をいとも簡単に醜い争いの渦中へと変え、崇高な使命もこの男にかかれば愚かな獣性へと貶められ、結果、残されるのは暗愚な魂ばかり。
 ハーデスがこのような男と今もって長い付き合いを続けているかは様々な利権にも関わることゆえにわからぬでもないヒュプノスではあったが、いつか足元を掬われはしないかと油断ならぬ相手として最も警戒する者でもあった。
 また、アーレスはいつも冥界に訪れる際にはハーデスのように手近な憑代にて訪れる。本体とは長く邂逅した覚えがないこともヒュプノスにすれば礼儀を欠いたことであり、不愉快さを増長させていた。
 古い記憶に残るこの男の姿といえば、軍神と呼ぶに相応しい体躯を赤銅色の鎧に覆っていたことと、素顔もおぞましい造りをした仮面の下に隠されていたことだけ。
 不快感を言葉の端々に忍ばせながら、用心深い眼差しでヒュプノスは禍々しさに包まれたアーレスを舐めるように見た。
 アーレスは子供の瞳には相応しくない鋭い眼光を放ちながら、挑発的な態度をとるヒュプノスに皮肉っぽく見つめ、口元を歪める。
「おまえが俺をどれだけ嫌っていても、手は出せぬ。ハーデスにとって唯一無二の友の俺にはな。臣下らしく、主の友に礼儀を尽くすがよい」
 背丈の高いヒュプノスに向かって、下から挑むような視線でそう言い放つと、不快な笑みをわざとらしく浮かべてみせた。
「何を勘違いしているかはわからぬが、我ら双子はハーデスさまにのみ忠誠を尽くす。他の神々など知ったことではないわ」
 臆面もなく言い切るヒュプノスにアーレスは今度こそ、声を上げて笑う。それとは裏腹に据えられた眼差し。
「―――らしくて良い。が、つまりは主に背いていると解釈するぞ?」
 すっと手をアーレスが翳すと、その小さな手のひらには大きすぎるものが現われた。それを見て驚愕したのはヒュプノスだけではなく、その他の者たちもハッと息を呑んだ。
「!?それを―――なぜ、貴様が!?」
 目の前に突きつけられたのはひとふりの剣。
 ハーデスが片時も肌身離さず携えている愛剣だった。ハーデスの力の象徴であり、すなわち冥界の象徴ともいえるそれはハーデスの身によほどの事態が起こらぬ限り、奪われることは恐らくない。
 つまり、ハーデスが意図して貸し与えたということ。アーレスがハーデスの名代であるということを示す以外の何物でもないという意味を暗に含めていた。
 苦々しげにヒュプノスは顔を歪めるのをアーレスは心底、楽しそうにほくそ笑む。
「こうやって気位の高い古の神をいたぶっていたいのは山々だが、目的は他にある。口答えするであろう、おまえたちに有無を言わせぬために『これ』は預かっただけだ。ハーデスはしばし、天界にて逗留する。せざるえない状況だ。それゆえ、懸念である聖域からの預かり物を持ってくるよう頼まれただけ。わかったなら―――アテナの賊がいる場所へ、案内するがよい」