二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

FORCE of LOVE

INDEX|12ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

05-3 再出発


 それからのことを話そうと思う。
「…た…ただいまぁ」
 染岡くんとの長話を終えて帰途について、家の鍵を開けて中に入ると、部屋は完全に真っ暗だった。まだ十一時なんだけど、と何となく冷や汗を覚えながら様子を伺ったらどうやら本当にもう豪炎寺くんは寝てしまったようで。それも自分の部屋で。
 僕は本格的に罪悪感でいっぱいになった。
 そもそも普段豪炎寺くんの部屋のベッドは飾りみたいなものなのだ。僕等はここに住み始めるときから一緒に寝ることを暗黙の了解にしていて、豪炎寺くんの部屋にセミダブルを、僕の部屋にはキングサイズのベッドを買った。僕の部屋で二人で寝るのを前提にしてのことだ。だからたとえ僕がいなくたって、豪炎寺くんは一人でも僕の部屋で寝る。それが今日は自分の部屋で寝てる。一人で先に。
 豪炎寺くんと喧嘩するのはそう珍しいことでもないけれど、今回は完全に僕が悪い。これじゃ一方的すぎて喧嘩とも言えないかもしれない。
 謝らなきゃと思った。豪炎寺くんの部屋を覗いたら案の定電気はついていなくて、僕はおろおろと話し掛ける。
「ただいま…もう寝てる?豪炎寺くん」
 小声でドアの隙間から声を掛けたが返事はなかった。寝ているならまだしも、これが無視だったら僕は少なくとも、一晩泣き明かすくらいには落ち込む。そんなの辛すぎる。
「豪炎寺くん、あの、ごめんね。本当にごめんね」
 そろそろと部屋に入って、枕元でまた話し掛けけど、豪炎寺くんは壁側を向いて丸くなったままぴくりともしなかった。寝ているのだろうか。どちらにしろ、今日中には許してもらえそうもなかった。
「…僕、反省してるから、こんなとこで寝ないでお願いだから、僕の部屋に、帰ってきてよぉ」
 聞こえていないと分かってて話し掛けた。背中は依然として静かなままだ。悲しくて背後から触れると、ぴくりと、僅かに肩が動くのが見えた。
 あ、起きてる。
「豪炎寺くん…ごめんね、久し振りに染岡くんと話せてちょっと浮かれてたんだ。染岡くん、豪炎寺くんに会いたがってたよ。今度は絶対三人でって言ったよ」
 何を言っても反応はなくて、僕はもう半泣きでベッドの脇に座り込んで、長いこと返事を待っていた。
「豪炎寺くん」
 どうしても震えてしまう声で呼んでもう一度その肩に触れようとしたら、びっくり箱も驚きの凄まじい瞬発力で腕を掴まれて、僕はその場に組み敷かれた。冷静に説明したけど僕は狐につままれたような顔をしてぽかんと豪炎寺くんを見上げるばかりだった。あれ、怒ってない。そこには怒りより心配でいっぱいだって顔をした豪炎寺くんがいた。
「…妬いた?」
 豪炎寺くんは何も言わない。ただ口元だけ怒ってる風を装っているのがおかしいんだけど、笑ったら悪いから僕は努めて真剣な顔で口を開く。
「もしかしてまだ僕が染岡くんのこと好きだと思ってる?」
 表情はほとんど動かなかったけど、僕の手首を掴んでいる右手がびくんと強張った。感情に任せて抱いたり暴力を振るったりする人じゃないことを知っているので僕には余裕があって、豪炎寺くんは捌け口もない分僕よりずっと追い詰められた顔をしている。
 僕はばかだ。こんなに大事にしてくれる人を傷付けてまで欲しいものなんて、何もないのに。
「豪炎寺くん…染岡くんのことは今でも好きだけど、気持ちの整理はとっくについてる。今はもう大事な友達としてしか、染岡くんのこと見てないし」
 ずるいことを言おうと思えば言えたけど、誤魔化したら僕はまたいつか同じことで豪炎寺くんを傷付ける気がして、嘘のない気持ちで真っ直ぐに見つめた。届け、届けと思って僕は目を逸らさない。しばらくして豪炎寺くんはらしくない萎れた声で、呟くように言った。
「それでも俺には、笑ってお前を待っててやれるだけの自信なんてない」
 目を見開いた僕を、豪炎寺くんは怯えたような表情で見下ろす。僕はこんな自信のない豪炎寺くんを、初めて見た。
「…なんで?僕こんなに、君のこと大好きだよ」
「それでも…俺はそんなに強くない」
 僕はどうして良いか分からなくなりそうで言葉を失う。豪炎寺くんが僕に弱音を吐くなんて初めてかもしれなかった。僕はもう何年も豪炎寺くんの一番傍にいたはずなのに、ずっとただ甘えていて、彼の抱えているものを同じように背負おうとか、悩みを聞こうとか、そんなこと考えもしないで寄り掛かっていたんだろうか。だとしたらあまりに不甲斐ない。僕はずっと、ただ豪炎寺くんに背負ってもらっていただけだったとしたら。
「ちゃんと、言ってよ…僕は君みたいに頭が良くも優しくもないから、気付けないこといっぱいあるよ。だから、もっと我儘も不満も不安も、口にしてよ。僕と染岡くんと二人で会うの、嫌なら、そう言えば良いんだよ」
「い…嫌なんじゃない」
「だって、そんな顔してるじゃないか」
 僕は自分が情けなくて泣いた。豪炎寺くんがいてくれて僕は幸せで、でも豪炎寺くんは幸せじゃなかったら、そんなのは嫌だ。
「違う。分かってるんだお前が裏切らないってことくらい。でも、俺は、染岡じゃないから」
 涙で視界は歪んでいるけど、暗闇に目が慣れて、細かいとこまで見えるようになったら、皮肉なことに、とても分かりやすい事実に気付いた。豪炎寺くん寝間着に着替えてない。寝てたわけじゃなかったんだ。僕を待っててくれたんだ。いざとなったら何を言ったら良いか分からなくなって、顔を合わせづらくて、それで、寝たふりをしていたんだんだろうか。近すぎて、彼の目ばかり見ていて、今の今まで気付かなかった。何に関しても僕はきっと、いつもそうなのだ。自分のことばかりで、大事なことが見えてない。
「…染岡じゃないから…お前の中の、全てを埋めてはやれない」
「僕は君のこと一番に思ってるよ!」
「それは分かってる…分かってるけど」
 こんなに深く豪炎寺くんにとって割り切れない傷になってたなんて、僕は微塵も思ってなかったのだ。それは言葉の通り豪炎寺くんが一番大切だというのが当たり前になっていたからだ。でもそれは僕の中での結論でしかなかったということ。豪炎寺くんは、ずっと一人で答えも出ないまま苦しんでて。
「俺と染岡はちがうから、俺じゃあいつの代わりにはなれないってことも、お前が俺に対するものとは別の意味で染岡を大切に思ってるってことも、受けとめてるつもりだった」
 豪炎寺くんは僕の胸に額を押し付けて、真っ暗な部屋の闇に掻き消されてしまうくらい、か細い声を絞り出していた。僕はそれを抱き締めてあげたいのに、両腕は豪炎寺くんの体重と罪悪感でぴくりともせず、恐ろしくなる。このまま二人して闇に消えてしまいそうだった。
「でも今日、あいつに会いに出ていくお前の背中を見たら、自分でもどうしようもないくらいイラついて」
「…ごめ」
「だけど頭では分かってる!」
 責めてるわけじゃないんだ、と唸るように言って、それきり豪炎寺くんは黙った。