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FORCE of LOVE

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01-2 大学時代


「あーあ、終電逃したね」
 夕飯を食べて強請られるままに吹雪を抱いて、幸せを噛み締めている頃、水を差すように吹雪がからかった。
「…まあ良い。白衣は、一限目サボって取りに行くから」
 結局夢中になって何回したんだか分からないまま、疲れ果てて二人で風呂に入って、髪を乾かしあって子供みたいにじゃれて、布団を敷いて無理矢理二人で入り込み、狭いながらお互い寄り添って笑い合っていた。下らない話を二言三言交わしてはキスをして、俺はなんとなく照れて、吹雪は笑って。
「…君がこの先サッカーをやめちゃっても、僕は君を好き」
「根に持つな」
「君こそ後悔してない?医者になったら後悔しない?」
 しないよ、と呟けば吹雪は一瞬寂しそうに顔を歪めて頷いた。小児科なんてそんな仏頂面でよく目指せるね、と暴言を吐いて顔を上げた吹雪はもういつもの吹雪だったが、多分こいつは一生、俺がサッカーをやめると決めたことを、引き摺り続けていくのだろう。俺だって今でも本当は、いつもどこかで悔やんでる。でも、両方は掴めないのだ。
「あと三年かぁ、短いね」
「お前が卒業したって俺はまだ学生なんだから食事くらい奢れよ」
「…僕、ちゃんと一人でやってけるかな」
 吹雪の声は枕に顔を押し付けていてほとんど聞き取れなかったが、生憎と俺は目敏くて、吹雪の肩が小刻みに震えているのが寒さからくるものではないことに気付いてしまう。こんな時に限って素直に寂しいとさえ口に出来ないなんて、損な奴だな、と思ったとたんに小さく見え出した背中を抱いてもう一つキスマークを残して、髪を掻き上げ顔を覗き込む。ばかだな。やっぱり泣いていた。
「サッカーは一人でやるものじゃない」
「分かってる…」
 でも君は隣にいないんだろうと拗ねたように呟いた吹雪に思わず笑って、睨まれた。
「あのね、僕本気で…」
「ジャガイモの皮も剥けない奴が、偉そうに一人でやってこうなんて考えるからだ」
 吹雪が一人で生きていくには、世間はおそらく広くて冷たい。なにせアツヤがいない今、世界で一番吹雪に甘いのは他でもない俺なのだ。俺がいなければ吹雪の面倒なんて誰がみてやれるだろう。そう思わせてくれるこいつが俺にとっても必要なのだ。俺は吹雪に、本当は俺がいなきゃ駄目なんだと言って欲しい。
 だから包丁もポイントカードも、一生俺が持っていれば良いのだ。吹雪は俺の隣でサッカーをして、いつまでも子供みたいに食事をねだって甘えて笑っていれば、それで俺は俺が諦めた大好きなものを、後悔なんかに変えないで済む。大好きな人を、大好きなものを、夢を夢のまま、傍に。
「お互い大学を出て、お前が優勝して俺が国家試験に受かったら、いつか緒に暮らそう」
 吹雪が返事もしないうちに枕に突っ伏して大泣きしてしまうから、お預けを食らった俺は小さく背中を叩いて嗚咽がやむのを待っていた。やれやれ。宇宙人だなんだと騒いでいた頃を思うと今が、つくづく平和だなと思う。吹雪の涙腺が緩くなった代わりに、俺達は迷わず泣ける居場所を見つけたのだ。
 明日の朝目が覚めたら挨拶の後真っ先に、写真の中から、あるいは空から、吹雪を見守る吹雪の家族に、息子さんをくださいと頭を下げることにするとして。墓前には、春になってから吹雪と二人で会いにいこう。大切なものを不意に失う悲しみを、二度とこいつに味わわせません、と、誓いに行くのだ。写真の中のご両親は優しげで理解がありそうだから、最大の難関はやはりアツヤだろうか。賄賂は何が良いかと考えて、まあ負ける気はしないけれどと強がってみる。
「…や、休みの日には、サッカー、一緒にしてくれる?練習、付き合ってくれる…?ご飯、一緒に、食べてくれる?一緒に寝て、二人で」
 はいはい。泣きじゃくる吹雪はやはり子供みたいだったので、俺は恋人にも兄にも父親にもいっぺんになって、人の三倍、幸せになるのだなと思った。吹雪のことはその三倍は幸せにしてみせるから、天国のアツヤ、どうかもう少し、お前の大切な兄貴を俺に守らせて欲しい。
 年をとって俺と吹雪がアツヤの元へ行ったときにはきっと、三人でサッカーをしよう。そう考えながら見つめ返すと、心なしかいつもより晴れやかな顔をした吹雪が、おおよそ吹雪らしからぬ強気な目をしてふと笑うと、寂しげな声でたのむなと呟いた。