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FORCE of LOVE

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02 卒業目前


 僕の見解からすれば、豪炎寺修也という人間は結構なわからず屋である。他人からすれば些細なことに思えるかもしれない喧嘩から始まって、口論が口論を生み、お互いに不満が爆発して、僕等は情けないほどすれ違っていた。もう丸二日は会話をしていない。腹が立つのは、鳴らないケータイや冷めた食事が、僕の胸を抉ってやまないことである。まさかこんなことで彼の存在の大きさを思い知らされることになるとは、人生は全くもって皮肉の連続だ。話がしたくて笑ってほしくて、低俗なことだが、触れてほしい。僕は我が儘を言っているんだろうか。
「…キャプテンはどう思う?」
 僕が未だに彼をキャプテンと呼ぶのは別に惰性なわけでも習慣でもなく、卒業したら僕が入籍することが決まっているチームのキャプテンが彼だからなのだ。僕はもう、卒業を間近にしている。豪炎寺くんと毎日一緒にサッカー出来ていた夢のような時間は既に終わり過ぎ去っていて、もしかしたら僕は不安になっていたのかもしれない。本当に彼はこのまま僕と一緒にいてくれるんだろうか。一緒に住んでくれる言ったあの約束は、ちゃんと今でも有効なままだろうか。心変わりや浮気なんてする人ではないけれど、僕が不甲斐なくて頼りないから、呆れてしまったというのは十分に有り得るのではないだろうか。
「うーん…俺も豪炎寺にはよく叱られたけど、喧嘩はしたことないからなぁ」
「そもそもキャプテンって人と喧嘩になったことあるの?」
「そりゃあるさ。でも俺は…あ!」
 パスタをくるくるとフォークに絡ませてはほどくのを繰り返していたキャプテンが突然目を輝かせて身を乗り出した。僕は話の内容よりも、年をとってなお澄みきっているキャプテンの瞳に釘付けになってしまう。羨ましいことだ。
「喧嘩したらサッカーで勝負すれば良いんだよ!そうすりゃ分かり合える!」
「…ああ…うん…」
 言うと思った。
 キャプテンの理屈はそれはそれで好きだけど、この手の喧嘩がサッカーで解決出来るとは思ってない。お互い忙しくて会えないときは良い。メールや電話は一言でも嬉しいし、離れていたって心は繋がっていると信じられるから。でも今は、会えない時間が余計心を引き離していく気がする。彼は今何をして、何を考えて誰とどんなことを話しているのか。笑っているだろうか。それともまだ僕のことを怒ってる?僕のことを考えていてくれるならまだ嬉しいような気がする一方で、嫌いだと思われるのが怖くて怖くて胸がずきずきと刺されるように痛い。食欲もない。半分も食べていないパスタを差し出すと、キャプテンは僕を励ますみたいに無理無理全部平らげてくれた。ごめんね。そう言うとキャプテンは、困ったみたいに笑って首を振る。
「それは豪炎寺に言えよ」
 まったくもって正論だ。分かってるのに、今回はどうしてもそれが言えないのだ。

 重い足取りで家に帰る。また僕は一人になるんだろうか。また僕はこうやって誰かに依存して立っている。それがいけないのは分かってる。分かっていて僕は、昔から何も変われていない。変わりたいと願って、変われたと信じていたのに。きっと僕は強くなるために、いつか何かを決心しなければならない。でも今は彼がいるだけで、それだけで良いのに。ぐるぐると纏まらない考えでアパートに着くと、自分の部屋の電気がついていることに気付いて走り出した。
「豪炎寺くん!?」
 勢い良く開けようとするとドアの鍵は締まっていて、慌ててポケットから取り出して開ける。その際肩から鞄が落ちたけれど、拾いもしなかった。
「豪炎寺くん…豪炎寺くん!豪炎寺くん!」
 広い家じゃない。台所にも、お風呂にもトイレにも誰もいないことを確認すれば、彼が来ているわけじゃないことは分かる。がっくりとソファーに崩れ落ちて、期待が裏切られたショックが突然押し寄せて、うっかり涙が溢れる。電気消し忘れただろうか。僕はそんなに彼に会いたかったのか。そうだよ。悪いかよ。僕は彼が好きなんだ。大好きで大好きで毎日会いたくて、豪炎寺くんがいなきゃ眠れないしご飯食べたくないサッカーしてても楽しくない。しょうがないじゃないか。好きなんだ。それの、なにが悪いんだ。
「う…っ、うわあああああん」
 遠くにいる豪炎寺くんに聞こえれば良いと思って泣いた。声を上げて子供より子供みたいに。色々我慢してたものがあふれだして、止まらなかった。喧嘩なんてしなければ良かった。今なら泣きついてでも、ごめんと言える。言いたい。会いたい。
「うぐっ…うっ、ええう、ぐっうっ」
「…わるかった」
 心臓が止まりそうとは正にこのことだと思う。顔を上げようとしたら頭を抱き締められて泣き顔は胸で塞がれて、懐かしい大好きな匂いが脳まで届いた。なんて単純に僕の涙はとまるんだろう。
「わるかった。ごめん。だから泣くな」
「ご…えんじ、く…?豪炎寺くん…」
「分かった分かった」
 背中を撫でてくれる手は、二日前と何もかわらない。喧嘩なんて忘れたみたいに優しくて、僕をばかだと言ったくせに豪炎寺くんの方が先に僕をあっさり許してしまったみたいだ。なんだか彼の方が大人なみたいで悔しいなんて思っても、裏腹に僕の腕は強く彼の体を抱き締めて離れない。同じなんだろうか。僕が彼に会いたかったように、喧嘩しても会わなくても、一緒にいるとき以上に、お互いのことを、考えて。
「あんなに怒ってたくせに」
「お前こそ」
「…忘れちゃったよそんなの」
 本当に、どうしてこんなに僕なんかを大事にしてくれるのかが不思議だ。髪を撫でる掌の大きさに止まった涙がまた滲んで、豪炎寺くんのシャツに染みを作る。
「あぁもう、やだな…とまんない」
「泣き虫」
「誰のせいだと思っ…」
 唇がじんわりとあたたかくなった。ずっと抱き締めてくれたおかげで、寒い中帰ってきて冷たくなっていた体は彼の体温と馴染んできている。この人結構、甘えん坊なんだ。そのくせいつも、自分のことは二の次で。
「俺のせいか」
「そう。君が僕ばかりを、甘やかすせいで」
 きょとんとした顔がくしゃっと崩れて、眉が下がる。僕は不意を突かれて笑ったときの彼の声が大好きなのだ。

 僕のお腹空いたコールに催促されて夕食を作ってくれる豪炎寺くんの背中を見ながら、幸せが戻ってきたことをひしひし実感して僕はご機嫌だった。
「ていうか君どこにいたの」
「…押し入れ…」
 飲み込もうとした味噌汁を吹き出すと、真っ赤になった豪炎寺くんにティッシュで口元をこすられた。大笑いしてお腹が痛くなるまで床を転がった僕の上にのし掛かってきた豪炎寺くんにしがみついて、文句を言おうとしたもう口は開かない。
「大好き」
「知ってる」
「もうワガママ言わないから」
「…言ったって良い」
 たまになら。ぼそぼそ呟く声が耳元にあたってくすぐったい。
「明日、バイト休みとってきたから、一日サッカー付き合ってやる」
「本当に?」
「…今日は泊まってく」
 ひょっとして。実は豪炎寺くんの方が仲直りしたくて仕方なかったのかな。アツヤと喧嘩したときも、謝るのはいつもアツヤの方だった。思い出して、ちょっぴり反省する。僕はいつも愛されて甘えてばかりだ。
「ごめんね」
「もうその話はいい」
「明日、晴れると良いね」