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葎@ついったー
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die vier Jahreszeiten 013

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013



公園を出てコインランドリーへ戻る道すがら,足元をちょこまかと歩くチビがちらちらと俺の方を見ているのに気がついた。

「何だよ」

わざとタイミングを計って視線を捕まえて尋ねると,びく,と顔を強張らせて唇を引き結ぶ。
怯えてるのとは違うっぽいけど,なんかそんな顔。

「云いたいことがあるなら云えって」

重ねて云っても,ちっこい顔がますます強張って,なんかこれ以上つつくと泣くんじゃねえか?て顔になる。
とはいえこっちも気にしたままでいるのは気持ちが悪い。
どうしたもんかと思いながら,でもいい方法も思いつかず結局そのまま歩き出した。
すると,背中で消え入りそうな小さな声が聞こえた。

「…あ?」

声があまりにも小さすぎたせいで上手く聞き取れず,聞き返しながら振り返るとチビが俯いたままちっこい拳をぎゅーっと握り締めて細い肩を震わせている。

「何だよ。おい」

俺は慌ててちびの元へ飛んでいった。
って云っても大股で二歩の距離。二秒もかからない。

勢いで目の前にしゃがみ込んで見たものの,どうしていいかわからない。
触っていいもんか,顔を覗きこんでいいもんか。
下手したら泣き出しちまいそうで,泣き出されたらそれこそどうしていいかわからない。

両手の持って行き場すら見失って途方に暮れた俺の目の前,ぎゅっと俯いたままのチビの口から小さな声が聞こえた。
今度は距離が近いせいか聞き逃したりしなかった。
でも,聞こえたところで意味がわからねえ。
なんで「ごめんなさい」なんて云う?

「なぁ,おい」

びく,とチビの肩が震える。

「こっち向け。あ,でも泣くなよ?」

俺が促すと,チビは口をぎゅっと引き結んだまま,澄んだきれーな青い色の目に涙の膜を目一杯張ったまま俺のことを見た。
泣くなよ。泣いてくれんなよ,と祈るような気持ちで見開かれた両目を覗き込む。

「なんで謝ったんだ」
「…………」

物言いたげな顔。
なのに,何か云おうとすると唇が震えてしまって上手く喋れないらしい。
あー,泣くの堪えてっからか,とわかったが,俺は俺でどうしてやることもできない。
二人してツラつき合わせて途方に暮れてしまった。

先に動いたのはチビの方だった。
ぎゅっと握り締められていた手が開いて,俺の方へ伸ばされる。
そして触れたのは肩の下…ちょうど胸元。
何だ?と視線をそこに向けると,さっき肩車したときにチビの靴が触ったんだろう。
ブルゾンの生地が泥で汚れていた。

「…これ,気にしたのか?」

こくん,と頷くチビ。

「怒られると思ったのか」

今度は迷うように動きを止めて,頷くかな,と思ったけどそのままだった。

「怒られねぇとは思ったけど,悪いことしたって思ったのか?」

今度は迷わずにこくん,と頷く。
俺はほっとするやら呆れるやらで,がっくり項垂れるとはぁぁぁぁぁ,と深い深いため息を吐いて,それからおもむろに顔を上げてチビを見た。

「バーカ」

鼻先と鼻先がくっつくほど近くまで顔を寄せて,そう云うなり細っこい身体の向こうに腕を回し,ぐい,と抱き寄せそのままひょい,と担ぎ上げた。

「ちびっこいくせにくっだらねーことで気ィ使ってんじゃねーよ」

わざと不安定に抱え上げると,チビは慌てて俺の首に腕を回してしがみ付いた。
よしよし,それでいい。
俺は喉の奥で笑って,顔を横に向けてチビの耳元で言葉を継ぐ。

「服なんてのはな,汚れたら洗えばいいんだっつの。男がそんなちっせーこと気にすんな。わかったか?」

チビは俺の首にしがみついたまま,それでもこくん,と頷いた。
俺はそのまま歩き出す。
チビの頬っぺたがくっつく首の辺りに濡れる感触があったが気づかないふりをしてやった。
頑張って嗚咽を堪えたけれど,それでも涙は無理だったか。
しょーがねーヤツ。でもまーちっこいからな。仕方ねぇか。
ランドリー着いたら下ろすからな。それまでには泣き止めよ?
胸の裡で呟いて抱えた背中をぽんぽん,と叩いてやる。

抱えた荷物が重てーからだ,と自分に言い訳して,歩く速度を倍も落としてのんびりとランドリーまでの道を歩いた。





ランドリーに戻ると赤い籠を載せた洗濯機は既に止まっていた。
濡れたせいで重みは増したが嵩の減った洗濯物を籠に放り込んで部屋へと戻る。
時刻は十時少し前。
これ干してもう一度出かけても,まぁ時間は足りるだろ。

チビを抱えてここまで歩く間に俺は当座必要な買い物リストを頭の中で作っていた。
まずは着替え。
それがねぇとチビは風呂にも入れねぇ。
ほかにも歯ブラシだの,食器…は今日でなくともいいか。
まずは服だ。服。ついでに帽子とマフラーとかもあったがいいな。
アイツがしてるマフラー俺んだし,やっぱ一回使うと手放せねー。

鼻歌交じりで窓辺にぶら下げたピンチに洗濯物を吊るして,全部干し終えて空になった籠を洗面所に戻す。
そのまま玄関に向かってブーツに足を突っ込みながらチビに声をかけた。

「もう一度出かけんぞ」

ぱたぱたぱたと足音が聞こえて,チビが駆け寄ってくる。
玄関のドアを開けたまま押さえてやり,靴を履き終えて立ち上がるのを待つ。
ちっこい頭が俺の身体とドアの隙間をすり抜けるのを確認してドアに鍵をかけた。

並んで歩き出すと,チビが物言いたげに見上げてくるのがわかった。

「何だよ」
「どこに行くの」
「あー,買い物。お前の着替え要るだろ?でもその前にコンビニ」

わかった,という風に頷くチビを見下ろして,俺は足を止めた。

「ちょい待ち」

足を止めたチビの首元に手を伸ばして,緩みかけたマフラーを直してやる。
チビは俺の手が離れるとちっこい掌で巻きなおされたマフラーに触れて「ありがとう」とはにかんだ顔で礼を云った。

「んじゃ行くぞ」

ブルゾンのポケットに両手を入れて歩き出す。
さっきチビを抱えて歩いていたときはそうでもなかったけど,やっぱり今日はめちゃめちゃ寒ィ。
頬っぺただの首筋だのに風が吹き付けるたびにぞくっとするのはどうにもならなかった。

コンビニに立ち寄ってATMで現金を下ろす。
適当に二万と金額を決めて引き出しながら,残高の記載された明細を見て俺はげんなりした。
残高が正確にではないが記憶にあった額のおおよそ倍になっていた。
何考えてんだクソオヤジ。
二人分の生活費ってか?あーその前に生活必需品をこれで揃えろって心遣いか。
どっちにしろアイツは馬鹿だ。三回くらい死んだ方がいい。

舌打ちだけでは気がすまなくて,ブーツの踵で床を蹴る。
足元でびっくりしたように身体を強張らせて俺を見上げるチビに気づいて,お前のせいじゃねぇよ,と云う代わりにイヤマフを被った頭をぽんぽん,と撫でた。
自分が怒られてるわけじゃないらしい,とわかったからか,チビはほっとした顔で俺に向かって手を伸ばした。

何だ?と目顔で尋ねると,伸ばした手をすぐに引っ込め,首をふるふると横に振った。
大きく足を踏み出してチビの両肩をがしっと掴み,ドアの方を向いた顔を真上から覗き込む。

「なんだよ?」
「な,んでもない」
「なんでもなくねーだろ?ほら,云えって」
「なんでもない,から!」

……意外と頑固?