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ネメシスの微睡み~接吻~微笑

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ネメシスの微笑 1 



 夜空に瞬く星の欠片によって光の軌跡がうっすらと描かれた。冷えた透明の空でまた一つ、流れ落ちていく欠片。残像が消えるのを見届けたあと、夜明けの匂いがする方向へと意識を集中させた。
 内なる小宇宙が熱量を増し、急速に拡がりをみせる。呼応するようなバルゴの震えが肌を通して伝わった。いつものことだが、まるで歓喜の歌を高らかに歌っているかのようだと思う。
 我が身を包み込むようにして心地よく響くバルゴの歌声に耳を傾けながら、鉄壁を誇る結界のある場所へと瞬間移動を試みた。
 幾重にも張り巡らされた障壁。それを破るには身を裂くほどというよりも、心を引き裂くような痛みすら感じたが、気に留めることはせずに前へと進んだ。
 ほどなくして最終の壁へと辿り着く。バルゴの守護がなければ、跡形もなく――それこそ、星の欠片の如く、砕け散っていたかもしれないな、と不吉なことを思いながら、いよいよ開かれた光の扉へと手をかけた。


「――なるほど。よくもまぁ人がせっかく造り上げた結界をものの見事に崩してくれると思えば、犯人はあなたでしたか。はじめまして、バルゴのシャカ。お噂は予々聞いておりましたよ。お会いできて光栄です」

 辿り着いた扉の先に立ちはだかっていた男が、不遜な笑みを浮かべて出迎えた。笑みと同時にパンッと甲高い、空気の破裂する音が鳴った。

「アリエスの――ムウ。わざわざ出迎えてくれなくとも良かったが。君の結界を破るのはなかなかに骨が折れる作業だった。君も噂に違わず、といったところか」

 素早く右に顔を傾けた。流れた髪の数本が切り取られ、床に落ちた。目に見えぬ空気の刃を放ったムウは僅かに感心したように目を瞠ってみせた。僅かにでも動作が遅れていれば恐らく、首ごと床に落ちていたであろう凶器の力を放ちながら、ムウは涼しげに笑みを浮かべたままだった。

「お褒め頂いたと解釈致しても?」
「ああ」

 しげしげとムウは私を見つめていたが、ようやく全身に漲らせていた殺気を沈めた。

「立ち話もなんですし、どうぞこちらへ」
「私を中に引き入れてもいいのかね?」
「さぁ……どうでしょうね。あとで後悔するかもしれませんが。まぁ、いいんじゃないでしょうか」

 くるりと背を向けて前を歩き出したムウ。警戒心はまだ解いてはいないようであったが、黙って彼の後ろに続いた。奇異な造りをした塔をゆっくりと登っていく。
 彼が日常生活の場としているらしい一室へと通されると、彼と同じ血族の証を施した年端もいかぬ子供が、床の上で寝そべったまま顔だけを上げ、不思議そうにこちらを伺っていた。

「この子は貴鬼といいます。いずれは私のあとを継ぐ者。どうぞよしなに。貴鬼、こちらへ……この人は聖域からわざわざ足を運んでくださったバルゴのシャカ」

 貴鬼と呼ばれた子供は起き上がり、ムウに手招かれて前に進み出たけれども、警戒しているのかすぐにムウの後ろに隠れ、少しだけ顔を覗かせて私をじっと見つめていた。好奇心の塊といった瞳はきらきらと輝いている。
 子供はムウの肘を引っ張ると屈み込んだムウの耳元でぼそりと小声で何事かを囁いた。そして、もう一度ムウと一緒になってちらりと私の顔を見た。何故だかムウは困惑顔である。

「うん?さぁ……それはどうでしょうか。そう言われてみればその可能性もあるかもしれませんね。子供の頃に確かめた事もなかったですし。でも、もしも、そうだとしたら重大な規則を破っている事になりますね。それに少々私としても厄介なことになりそうで困ってしまいますが……」
「一体、何の話をしているのかね?」
「ふふふ、秘密です。追々確かめればいいだけの話ですから……さぁ、貴鬼。ドルマさんのところまでお遣いに行って来てくれますか」
「はい、ムウさま」

 はきはきと返事をした貴鬼は次には鮮やかにその場から姿を消した。どうやら、あの子供も特殊な能力を持っているのだなと感心していると、「こちらへどうぞ」とムウが椅子を勧めた。
 一度は辞退するが「長話になるんじゃないのですか」のムウの一声で、それもそうだなと腰を落ち着かせた。
 椅子に座った途端、ムウの方が早速口火を切ってきた。

「――さて、それであなたも他の者たちと同様、聖域への帰還を促しにいらっしゃったのでしょうか」

 剣呑さを増しながらも、あくまで優雅にしか見えない微笑を浮かべるムウに「腹の底の知れぬ男」と呟いた教皇の言葉が脳裏を掠めた。教皇はムウに対して、幾度も強引な手法を取ったけれども、彼は頑としてこの地からは離れようとはしなかったということだ。
 真っ向から歯向かうかのような態度。彼は黄金聖闘士の一人であり、また唯一聖衣を修復することのできる、聖域にとって貴重で欠くことのできぬ存在である。それゆえに是が非にでも手元に置きたいと教皇が願うのも無理からぬ話だ。
 彼と同じ地位にある黄金聖闘士を遣わすのも今回が初めてではなく、すでに私で4人目だと聞かされていた。なぜムウがそこまで頑に拒絶するのか、理由は知らなかったが、恐らく教皇が秘密裏に代替わりしていたことに関係あるのではないだろうかと推測した。
 だとしても、他の者たちと同様に教皇に従うべきことではなかろうかとも思いながら、私はこの地を訪れたのだった。