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ネメシスの微睡み~接吻~微笑

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ネメシスの微笑 8 



「目が覚めたか──」

 聞き慣れぬ声。一瞬混乱に陥りながら、上体を起こした。長い悪夢を見ていたのだろうか……。
 そんな疑問も沸いたが、鋭く駆け巡った痛みが直ぐさま、否定した。

「ぐっ……」
「無闇に動くな。傷がひら──おい、動くなと言っているだろうが」

 命じられる言葉と悲鳴を上げ続ける全身の痛みを振り払うようにして、歯を食いしばりながら足を降ろし、立ち上がりかけた。しかし、意に反して足に力は入らず、そのまま床へ崩れ落ちた。

「二度は言わない。動くな」

 冷淡な声音を発する者に向けて顔を上げる。瞳を閉じたまま、小宇宙を通して脳裏へと映像を結びつける。淡々と私に命じてばかりの人物は短髪の黒髪に切れ長の鋭い瞳をしている。感情の揺らぎはまったくといっていいほど感じられず、武人という言葉が当て嵌まりそうな人物だった。
 見覚えのないその男は掛けていたイスから立ち上がり、目の前まで近づくと私を見下ろした。そこで、ようやく私はある記憶に辿り着いた。

「──あの時の……一人、か」
「ああ。そうだ」

 ぼやけていた思考が徐々に鮮明となっていく。あの時──そう、まさしく教皇へ全身全霊をかけた最後の一揮いを行おうとした瞬間、現れた3つの小宇宙。
 ひとつは二人の間を引き裂き、ひとつは教皇の盾となって、もうひとつは我が身を貫いた。そのうちのひとつ、一人の聖闘士……我が身を貫いた剣。

「こうやって話を交わすのは初めてか。俺はカプリコーンのシュラだ」

 差し出された手。掴まれということなのだろうが、無視して自ら振るい立った。

「なるほど。手は借りぬ、か」

 シュラと名乗った男は無表情のまま、手を引っ込めると元いた場所へと戻り、イスに掛け、長い足を組んでみせる。

「立っているのもやっとのはずだが……さすが教皇が目をかけただけのことはある、というべきか。バルゴのシャカ」

 鋭い眼光で見据え、一挙手一投足を捉えているらしい。不穏な動きがあれば一太刀浴びせるといったところだろうと判断する。

「教皇は?」

 ここが何処なのかも判らないでいたが、それよりも教皇のことが気になった。

「知ってどうする?続きでもするつもりか」

 より一層鋭さを増した眼光とともに、その身から増幅された小宇宙が溢れ出ていた。いつでも戦闘準備は整っていると意思表示しているのだろう。

「この状態で挑むほど私は愚かでは……ない」

 右後ろの腰付近にじわりと生暖かい感触が肌を伝い降りて行く感じが、何とも言えず不快で眉を顰めた。そして、立っていることも辛く、先程まで横になっていたベッドへと腰を下ろす。

「うっ……く」
「やはり、傷が開いたな」

 警戒しながらも近づいたシュラが押さえていた私の手をそっと退けたあと、状態を確認し、呆れたような溜め息を一つ吐いたのだった。
 じわりと吹き出す脂汗が皮膚に纏わりつき、体温を少しずつ奪って行く。指先がひどく冷たく、感覚は鈍くなる一方だった。

「なぜ教皇に向かって、あのような馬鹿な真似をした?」

 本来ならば大罪ともいえる愚行。その動機を尋ねるにあたり、詰問されるならまだしも、まるで駄々を捏ね、親の機嫌を損ねた弟を優しく叱る兄のような風情で尋ねられて面食らっていると、乱暴に扉を開けて侵入してくるものがあった。と、同時に掴み上げられる。

「おい!やめろ」
「うっせーすっこんでろ、シュラ。とんでもねぇ、くそガキだな?おまえ。教皇に何をしたんだ、言えよ?ああ!?」
「デスマスク、その手を離せ!一体、何があったんだ」

 強引に割って入ったシュラによってデスマスクと呼ばれた男の手から開放される。随分と血腥い匂いを纏う男だった。それも仕方のないことなのかもしれない。実際に無数の手傷を負っていたのだから。

「何がだって?なにもクソもねぇな。ありゃ、当分駄目だ。使いもんにならん。さっきようやく教皇宮の野郎総出で瞑想室に押し込んだがな。何人か……潰されたよ。今もアフロディーテが見張りについてはいるが。とにかく、話もなにも出来る状態じゃねぇ、手負いの獣よりも質が悪い」

 おかげで俺もこの様だと吐き捨てた。