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隣のバンゴハン 【俺ティ】

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 ・・・・それから30分後。




居間の長テーブルの上には沢山の料理が所狭しというように隙間なく並んでいた。
家族団欒を髣髴させる賑わいに思わず瞳を潤ませてしまったが、感動に浸る間も無いまま背後より飛んできた「自分ら全員はよ手を洗ってこい!」という怒声に突き飛ばされる事となる。
傾ぐ身を辛うじて堪え、何事かと背後を振り返り見てみれば右手にシャモジを持った綾部家長男が ―― これがまた似合っているから笑えるのだが ―― 仁王立ちしてこちらを睨んでいたのだ。さて、又も彼を怒らせるような事をしてしまっただろうか?思い出そうと首を捻り掛けたところ、タイミングを合わせたかのような動きで綾部家兄弟が一斉に今を飛び出して行くのに茫然とし、案山子の様に突っ立ったままこれを見送っってしまった。
だが、我に返れば改めて、綾部が告げた言葉を振り返り。

「あ。そうい」
「くぉら黒崎ぃ…早よ手ぇ洗ってこぉんかぁい」
「う、ぎゃ!?いっ、行ってきます!!」

そう言う事か、と頷こうとしたところ何時の間にか背後に立っていた綾部の、不意打ちによる低音催促に悲鳴を上げると逃げるようにして居間を飛び出した。
猛ダッシュで辿り着いた洗面所では、真冬の形相に驚き目を丸くさせる兄弟の姿があったが、誰の、「ど、どうしたの?」という質問にも答えを返すことが出来なかった。
本当に、彼は予測できない人だ、と思わざるを得ない。

(いやいや、出来てたまるかっ!)

ストレスで強くなる人間なんて、聞いた事が無いのだから当然。
膝に手を付き息を整えながら、思った。
きっと、これから先も、彼には敵わないのではないだろうか、と。
色んな意味で。
こうして順番待ちしながらもそれぞれ手を洗い、途中喧嘩しつつ全員が手を洗い終えれば仲良く居間へと戻る。
そうして各々決まった場所に腰を下すと、長男による食事前の挨拶が始ま・・・・・・る前の手洗い確認が。

「……よし。みんな手ぇは綺麗やな?」

誤魔化しなんて許さへんで?という隠された声を聞いた気がするのだが、これもまた気のせいなのだろう。
自身に言い聞かせるように繰り返す真冬は一人、うんうんと首を縦に振っていたのだがその横では綾部弟妹が乱れを見せぬ動きを見せていた。皆一斉に両手を掲げ、長男へと見せていたのだ。気付いた時は思わず三度見してしまった真冬だったが、お前もや、という目線を寄越され慌てて手を上げ彼に見せる。
こうして全員の手をチェックした綾部の許可が出たことで漸く、食事にありつく事が叶ったのである。
ここが自分の席や。
そう言われ座った場所に並ぶ、真冬用の食事。
真冬の為に作られた、分。
そう思うと何だか、くすぐったいような感覚に襲われて・・・・・正座していた為組んでいた足先を少しだけ、もぞ、っと動かした。
今住んでいるアパートの隣室へお邪魔すれば美味しいご飯に在りつける。それは事実だ。皆、それぞれ得意料理があって、それらは明らかに美味い!と叫べるほどのものだった。
だが、全てはその部屋の住人の為に作られたもので。
真冬の為に作られた物は何一つなくて。
御相伴に預かる際何も思わぬまま食していたが・・・・、こうして真冬用として作られた料理を並べられ、食え、と勧められると本当に、不思議なのだが彼女達が作る料理とは別格のモノに見えてくるから何処までも、首を捻るばかり。

「……いただきます…」

そして、促されるままに食べた、一口。
咀嚼して、嚥下するとまた、思う。
本当に。
あやべんて。

すご 「あやべんはきっと、お嫁さんを泣かすよね…」

「…は?」

ああ、もう一つの本音までもがポロリしてしまった。
案の定、隣から怪訝そうな声が寄越されるが、しかしその声に答えを返す事ないまま左手の中に納められた、お茶碗を見つめた。
中にはホカホカの炊き込みご飯が。
丁度良い醤油味は真冬の心を奪うに足りる物。

「これまた食べたぁい」
「いやだから、自分は何を云っ」
「このお肉も美味しいぃぃぃ」
「あ、そやろ?味付けにはちょお自信が…って!」
「私さぁ、卵にはちょっとうるさいんだけど…この煮卵最高だよね…」
「そ、そぉかっ?せやったらほれ、もっと食った……ちゃう!!」
「えっ!?食べちゃいけないのっ!?」
「そっちやない!」
「へぇっ!?ど、どっち!?」
「…………お前ちょぉ…飯から思考離せや」
「………す、すみませ…?…?」

隣に座る綾部の瞳が座っているのがどうにも恐ろしい。
もういい加減認めよう。
どう見たって同い年の少年なのに、言動がまるっきり『母親』な彼。
悪いと思ってなくても反射で謝ってしまう。

「え、えと?私、何、…え?え?」

何かやらかしましたっけ?と、怯えつつ尋ねると、一息ついた綾部は居住まいを正し真冬に向き直り。

「自分、さっき何て?」
「…なんて、って…なんて?」
「せやからっ!よ、嫁、とかなんとか…」
「ああ。それか」
「それや」
「別に、何も」
「意味が分からん」
「…や、だから…あれじゃん?」
「あれとはなんだ」
「えぇ?やぁ…だから、ほれ…」
「はぁ?」

ほれ、と言いつつさてどう説明したものか、と悩む。
もしもこの話が彼の心に傷を作ってしまったら大変な事になる。なんて、思う筈も無いけれど。大体が、掃除が好きで料理が嫌いでない男子である綾部にしてみれば寧ろ、喜ぶ話なんだろうと思うから。
次の一口を口の中に放り、もぐもぐと咀嚼しながら考え進めれば待たすなと言う様に真冬の名を呼ぶ彼に、一つ、溜息を吐き出すと。

「あ~、分かった分かったっ!」

ゴクンっ、と飲み込んだ後に、箸を持ったまま降参、と言うように両手を上に掲げ。

「だからつまり……いや、お嫁さんじゃなくてもね、付き合った彼が自分よりも家事上手なんてさぁー………それこそ私みたいに家事全般駄目な女なんか特にだと思うんだけど…女としてのプライド傷つけられて泣く羽目になりそうだよね、っていうね…」

勿論悔し泣きだけど。
付け加えて説明してみたけれど、加えなくても大差ない結果だろう。
どちらにしても泣くのだから。

「ホンット、おいしいよね~、あやべんの御飯」

うんうん。
こりゃやっぱりあやべんの彼女になる人はかなぁりの料理上手じゃなきゃやってらんないねぇ。
次から次へとおかずを摘み、口へと放る。
あれも美味しいこれも美味しいと食べ続ける真冬の中、既に綾部と交わした遣り取りは過ぎた過去の話となっていた。
だから、気づかなかった。
未だ、隣で真冬の事をじっと、見つめている綾部の姿があった事に。
そしてその姿に梅次と一華のみが気づいていた事にも。
何一つ気付かぬまま、夢中になって夕食を食べ進め。
残り少なくなったおかずを巡り双子と攻防を始めた事でこの日最後の、それも特大のお叱りを受ける事と成ったのである。

その叱り方がまさしく、母親のそれと被ったためまたも土下座する勢いで謝ったのは言うまでもない。