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IS  バニシングトルーパー 028-029

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stage-29 学年別トーナメント 前編




 

 「うわ~なんがいっぱい来てんな」
 「なんだこの数は……」
 ISスーツに着替えた一年生たちが集まっている待機室のモニターに映っている観客席の光景を見て、隆聖と一夏は口をぽかんと開いた。
 今日からは学年別トーナメント本番。各国の政府関係者、技術者、企業エージェントなどの面々はIS学園アリーナの観客席を埋め尽くしている。

 「まあ、当たり前だな。使えるやつは早めにチェックを入れて、使えないやつはさっさと支援を止めて税金の無駄扱いを抑えなければならん」
 右手のグローブを調整しながら、クリスは二人の後ろから話かけた。
 IS学園の運営費用は学生が納めた学費だけでは到底維持できなく、各国からの資金支援があればこそまともに運営できる。しかし世間に出せるIS操縦者を養成するには大量な金を要るため、見込みのある生徒とない生徒を見極めて分別するのも政府にとっては重要な仕事だ。
 納税人達の税金を使って国の役に立つ若者を養成しているのだから、当然である。
   
 「へえ……」
 「まだ一年だから関係ないと思ってるなら大間違いだぞ。お前と隆聖は男で、俺とシャルルみたいに立場を固めているわけではない。試合の活躍次第ではすぐにスカウトの話が来るかも知れん」
 いまいちピンと来ないような顔している一夏に、クリスは忠告をした。

 「そうなのか?」
 「ああ、そうさ。男の操縦者は使い方によっては実力以上の意味を持つからな、今のところは」
 「マジかよ……」
 「まあ、深く考えずに全力を出せばいい。お前らはやるべきことがあるだろう?」
 隆聖と一夏の肩を叩いて、クリスは二人に笑いかけてた。
 少し離れた所で、眼帯をつけている銀髪少女は腕を組んで壁に寄り掛かって、とても複雑そうな目で隆聖と一夏を睨んでいる。

 「ああ、分かっている。」
 彼女の視線を真っ直ぐに受け止めた隆聖は手で拳を作り、握り締める。
 彼女の歪んだ心を正すまで負けるつもりなど、毛頭ない。

 「ならいいけど。あとあれの使い方だけど、ちゃんと覚えたか?」
 「バッチリだよ。俺達は毎日肩が痛むほど練習してたぜ」
 「どんだけ好きだよ……気持ちは分かるけど。なら最後に一つだけ、忠告しておく」
 「な、なんだよ」
 やや深刻そうな口調になったクリスに、隆聖は思わず身を硬くして畏まる。

 「ああいうタイプの女、一度決めた相手には全力で仕留めにくるだから、覚悟しろ」
 「なんの話だ……?」
 「はぁ……フラグ立ては計画的にしましょうって話しだ。分からないならいい」
 さっぱり訳が分からないって顔で聞き返してくる隆聖に、クリスは深いため息をついた。
 ダメだこいつ。一夏よりマシかと思っていたが、やはり同レベルなのかもしれない。楠葉もきっと苦労してたんでしょう。

 「ここに居たか、クレマン。待たせてすまなかったな」
 男子三人の元に、黒髪の少女はその長いポニーテールを揺らしながら近寄ってクリスに話しかけた。

 「対戦スケジュールはまだ発表してないから大丈夫だよ、篠ノ之」
 「そうか、ならよかった」
 僅かに安堵したような表情をして、箒は胸を撫で下ろした。

 「今日は互い頑張ろうな、箒」
 「あっ、ああ。一夏も伊達と一緒に頑張れ」
 笑いかけてくる一夏の励ましに、箒はやや硬い表情で返事をした。
 このトーナメントに優勝したら、晴れて一夏と正式に付き合える。箒の方はそう思っているけど、へらへらと笑っている一夏はどういう意味であの約束を捉えているか、怪しいものだ。
 そんなふたりを見たクリスはやれやれと肩を竦めて、箒の肩に手を回した。

 「このトーナメントの優勝は俺と箒が貰う。悪いがお前らが相手でも手加減はできないな」
 「えっ、ちょっと、クレマン?!」
 わざと一夏の前で箒の名を呼び捨てにして彼の反応を試すつもりだが、クリスのいきなりの行動で混乱した箒は赤面して口をぱくぱくさせる。

 「へえ……箒と随分仲良くなったね。でもこっちだって負けないぜ?」
 「……そうか」
 意気をこめた返事をした一夏の表情に、変化が見当たらない。全く気にしてないのか、それとも気にしてないように装っているのか。
 収穫ゼロだと判断したクリスは箒を連れて一夏たちから少し離れた後、彼女から手を離した。

 「いきなり呼び捨てしてすまなかったな」
 箒みたいな一途な性格をしている女の子は、思い人以外の異性に触れられることに不快を覚えることが多いから、さっさと謝った方が無難だと考えたクリスは彼女に詫びた。
 「いえ、クレマンに呼び捨てされるのは別にその……嫌って程じゃないから」
 意外にも、箒はまた少し赤い顔を逸らしてそう言った。

 「ならよかった。今後も箒だと呼んでいいか?」
 「あっ、ああ、構わんぞ」
 「ありがとう。ついでに俺のこともクリスって呼んでくれよ。クレマンなんて余所余所しいし」
 「わ、わかった。ど、努力してみる」
 普段の冷静な調子を取り戻した箒は咳払いして、クリスの瞳を見据えて口を動かした。
 「一緒に優勝を目指そう。く、クリス」
 「ああ、頼りにさせてもらうぞ、箒」
 クリスの返事を聞いた箒は、心の奥底から湧き上がる嬉しいという気持ちを確かに感じた。

 ここまで心を開いたのは、一夏以外に初めてだ。
 いつもちゃんと周囲のことを考えて、無条件に自分の味方をしてくれるから、こんなにも信頼できるのだろう。
 これが友達ってやつか。なんか、いいな。
 そう思うと、意外と照れくさくなってきた。

 「それは無理ね。あなたは私たちが敗者にしたあげるわ」
 「レオナとシャルルか……遅かったな」
 突然に背後から聞こえた話声に振り返って相手の顔を見ると、クリスは二人に笑いかけた。
 腕を組んで微妙に不機嫌そうにしているレオナと、ちょっと硬い笑顔を浮かべているシャルロットだった。

 「手強いのは認めるけど、自信過剰は感心しないな」
 「ふんっ」
 鼻を鳴らして、レオナは眉を顰めて顔を逸らした。
 とは言え、このペアの実力には不透明な部分が多い。
 レオナの専用機「ズィーガー」は機動性を重視した機体だが、現時点で見せた性能では些か火力不足のイメージが否めない。いつもブレードレールガンでジワジワと相手を削ってたし。
 しかしゲシュペンストMK-IV程の極端改造したわけでもないし、容量的にはまだ余裕があるはず。その残りの容量には多分何かを隠している。
 そしてシャルロットの「ラファール・リヴァイヴ・カスタムSP」に至っては、外見設計図を見ただけで、実機はまだ見たことない。
 それと比べてこっちはエクスバインと打鉄、手の内はほぼ全部知られている。そう考えるとやや不利だが、別ペアと戦うのを観戦すれば済むことだ。

 「あれ、何か機嫌悪くないか?」
 「そんなことないわよ」
 「まさか俺が黙ってたのを、怒ってる?」
 昨日の夜、シャルロットは自分の正体、そしてクリスとの関係をレオナに正直に話した。それを聞いたレオナは特に反応を見せなかったが、空いた湯飲みを10分以上に飲み続けながら黙り込んでいたらしい。