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IS  バニシングトルーパー 032-033

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stage-32 若者達の休日 前編




 
 深夜十一時。
 IS学園からそう離れていない所にある住宅区や、やや古風な商店街は既に静けさの中にあった。
 聞こえるのは暗い街灯の光に群がる虫や、夜風に吹かれて擦れる木の葉の音だけ。 
 近くにIS学園があるからって、別にここが賑やかになるわけではない。
 住民たちには早寝早起きの習慣を身につけている。
 とは言え、例外とは常にあるものだ。
 商店街の一角にある、シャッターが既に閉められている本屋「金曜堂」の二階の部屋のカーテンの隙間から漏らしている、僅かな光が見える。

 薄暗い部屋の中では、ラベンター色のショートヘアをしている少女がデスクトップパソコンに向かって一心不乱にキーボードを叩いていた。
 モニターから洩らして来る光りを頼りに、部屋中央のテーブルの上にある「ラトゥーニ・スゥボータ」という名前を書かれているノートと、床で無造作に積み上げている薄い本の山と、散かっているお菓子の袋や靴下などが見える。
 そして部屋の主であるラトゥーニは今、ジャージと丸メガネを着用してネット三昧の真っ最中にある。

 「……っ」
 メッセンジャーでの友達のメッセージを受信したのに気付き、ラトゥーニはマウスでクリックしてメッセージを開いた。

 『Satさんがうpした動画を拝見させて頂きました。今回もめちゃいけ……じゃなくて、相変わらず素晴らしいダンスでしたわ』
 ハンドルネーム「fairyshine」からのメッセージだった。内容を読んだ後ラトゥーニは直ぐに返事を返した。

 『有難うございます。振り付けとか考えるのに脳細胞が燃え尽きかけたのですが、そう言って貰えるのは嬉しいです』
 『やはり今回もご自身で考案なされたのですか。お疲れ様でした。わたくしもジョイスに言われてバレエを習っておりますが、動きが乱暴だとよく先生に叱られますの』
 『ジョイス?』
 『あっ、えっと、うちの執事でございます。いつもネットは程ほどに、政務……じゃなくて、宿題をしなさいって口がうるさくて』
 『執事って、fairyshineさんはもしかしてお金持ちのお嬢様?』
 『それは……秘密にさせて頂きますわ。そう言えば例のサークルの新刊、先日やっと手に入れましたわ。でも早くお読みしたいのに、中々自由時間が頂けなくて……』
 『忙しいんですか?』
 『はい、特に最近は来週のアメリカで……あっ、ジョイスが来ました。申し訳ありませんが、今日はこれにて失礼させていただきますわ』
 『はい、ではまた』
 別れの挨拶が済んだ後、fairyshineのアイコンがすぐログアウトを意味する灰色になった。

 「……」
 デスクトップの時計に目をやると、時間が既に日付が変わる寸前まで来ていることに気付いた。
 今頃ジャーダとガーネット、そして桜花姉さまは既に各自の部屋で熟睡しているのでしょう。
 明日は日曜日。朝に桜花姉さまと一緒にショッピングモールへ行って夏服と生活品を買う予定がある。もう少し動画サイトを漁りたい所だけど、やはりやめておこう。
 そう考えたラトゥーニはパソコンの電源を落として、ベッドに入った。

 六月の夜がやや熱くて、なかなかに寝付けない。横へ向けると、カーテンの隙間から半月の浮んだ星空が見えた。
 静かな夜だ。夜空を見てこんな穏やかな心境になるなんて、施設に居た頃には想像もつかなかった。
 ここでは怖い老人の理不尽な虐待に襲われることはもうない。今では普通に学校を通って、ネットで友達を作ることもできる。
 今の生活はとても幸せだ。満足している。

 しかし桜花姉さまはどうだろう。
 ガーネットのお腹にいる赤ちゃんはそろそろ生まれる頃だ。そうなるとジャーダの負担がますます重くなる。それを気付いた桜花姉さまは高校を卒業したら進学を諦めて、就職して家から出て行こうと考えている。
 正直に言うと、お姉さまと離れたくない。でも自分と桜花姉さまはジャーダとガーネットの本当の子供ではないから、いつまでも甘えるわけにはいかないし、今の自分では桜花姉さまを支えることも難しい。
 あと一年くらい経てば、桜花姉さまもこの家からいなくなるのかな。
 そしていつ誰かと恋愛して結婚し、新たな家族を作るのかな。

 この家に尽くしてきたお姉さまが知らない男と一緒に笑いあう光景なんて想像できないけど、もしお姉さまを泣かせるようなやつだったら、総受け本を作って無料で配ってやる!!
 と、そんな恐ろしい計画を立てながら、ラトゥーニはベッドの上で緩やかな寝息をこぼし始めた。

 *

 やがて一夜が過ぎ、日曜日の朝がやってきた。
 今日も六月の朝らしく、澄み渡る快晴の空に一片の曇りもない。
 そんな朝の九時、IS学園から都心への電車にIS学園の制服を着ている二人が乗っていた。
 やや眠そうにあくびを何度か繰り返している銀髪少年と、隣で上機嫌な笑みを浮かべながら少年の顔を見上げている金髪少女だった。

 「クリス、昨日夜更かししたの?」
 「まあな。溜まった報告書と予備パーツ申請書とかね」
 目尻に溜った涙を拭いて、クリスはたるそうな口調でシャルロットに返事をした。溜った仕事を一気に終わらせたお蔭で、午後の時間が空いた。
 せっかくの休日、シャルロットのイベント参加用服装を買っただけで帰るなんて、勿体無い話しだ。

 「それよりお前、あのラウラと相部屋で大丈夫か?」
 「大丈夫って、何が?」
 「ラウラってほら、ちょっと世間知らずと言うか何と言うか」
 なにしろ、事件の翌日にいきなり別クラスの教室に乗り込んで男にキスを強要した後夫婦宣言までしてしまうと言う、予想の斜め上を行き過ぎた行動を取るような子だ。

 「そんな心配しなくても大丈夫だよ。ラウラは最近すっかり隆聖君ラブだから、色々と相談してくるんだよ?」
 「相談?」
 手すりに頬杖をついているクリスが、やや訝しげな表情でシャルロットを見る。

 「男の子と何を話せばいいとか、ズボンをスカートに換えた方がいいのかなとか」
 「それで、恋愛経験豊富なシャルロット先生はなんて答えたの?」
 「もう~からかわないでよ。とりあえず、まずは相手の趣味から入ればいいんじゃないかって教えたの」
 「趣味か。趣味ね……」
 最近一夏に起きている異変を考えると、何だかラウラのことが心配になって来た。
 そう言えば隆聖のやつ、週末はいつも母親のお見舞いに行ってるな。今日はラウラもついて行ったのなら、楠葉と鉢合わせる可能性が高い。
 修羅場になるのかな。あはは、なると面白いな。後で電話してみよう。

 「そう言えば、レオナは昨日から姿が見えないね。何か用事かな」
 何かを思い出したかのような仕草をして、シャルロットは話題を変えた。

 「あいつは昨日京都へ行ったよ。多分月曜には戻る」
 「京都?」
 「墓参りだ。あそこにはレオナの大事な人の墓がある」
 エルザム少佐の亡き妻カトライアさんへの墓参りはレオナにとって、何年ぶりだろう。
 あの真面目なレオナのことだ。ドイツから日本まで墓参りのために仕事を休むなんて考えられない。
 京都にはカトライアさんの実家もあるし、レオナは多分あそこに泊まることになるだろう。