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IS  バニシングトルーパー 037

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stage-37 妖精、天女、そして温泉




 「何だあのISは!!」
 「圧倒的ではないか!!」
 「十機以上の敵を一瞬で全部破壊してしまうとは!!」
 会議室のモニターに映っている、さっきまでこの会議室を完全包囲した無人機たちを一機だけで全滅した蒼き魔神の姿に、代表達は驚愕の色を隠せない。
 この会議に出席している人間は、IS関連の技術者出身の人間も多い。
 しかしさっき目撃した、あの正体不明のISが放ったオールレンジ攻撃はどうやってできたものなのか、まるっきり理解できない。
 一つだけはっきりと理解したのは、あの機体に応用されている技術は今の世界より何歩も先をリードしていることだけだった。
 あの機体の力は、現存するすべての機体を遥かに上回る。

 「危ないところでしたね。皆さん」
 呆然としている代表たちを現実を呼び戻したのは、依然として余裕的な表情を見せているブライアンの穏やかな声だった。
 
 「この襲撃は、明らかに我々を狙ってきたものです。おそらくこの会議の内容をどこかで知ったのでしょう。保険をかけておいて正解でしたな」 
 無人機の侵入から全滅されるまで、三分も経たなかった。しかしこの三分間に、ISに銃口を向けられる恐怖に腰を抜けた出席者も少なくない。まったく動じなかったのはブライアン、イングラムそして彼の後ろに立つリンの三人。
 その時に、代表たちはブライアンの後ろに立っているはずだった少年が姿を消したのに気付く。

 「保険って、まさか……」 
 「そうです。万が一の事態に備えて、頼もしい護衛を手配させて頂きました。イングラム君」
 「はい」
 ブライアンに名を呼ばれて、イングラムは席を立ってブライアンの隣に移動して、代表達に向けて一礼した後、口を開いた。

 「では皆さんにご紹介致しましょう。我が社が予算の三分の二を注ぎ込んで開発した、技術検証用試作IS『グランゾン』です」
 「グランゾン……それがあの機体の名前か」
 「はい。詳細な技術情報は企業機密にさせて頂きますが、その力はご覧の通りです。あくまで技術検証用ですので後に解体する予定ですが、そこで得た技術を我々は我が社のこれからの製品に反映させていくつもりです」
 「そ、そうか……」
 説明を終えて、イングラムは一礼して自分の席へ戻った。続いてブライアンは何事もなかったかのように、深刻そうな顔をしている代表達にさっきの話題を再開した。

 「これで皆さんにお分かり頂けましたでしょうか。世界を蝕む悪意の前に、誰だって無関係にはいられませんし、屈する必要もありません。我々は戦争をしようとしている訳ではありません。ただ自分の安全を守るために、剣を手に取ったまでのことです!」
 ブライアンの力強い言葉に、反対するものは誰一人居なかった。一度命を危険に晒された直後にあんな言葉を聞かされたら、誰だって反対する気にはなれない。

 「では皆さん、話を本題に戻しましょう。『特殊戦技教導隊』の運用条約を既に諸君らの端末に転送してあります。この条約に参加してくれた国の要請により我々は特殊戦技教導隊を派遣し活動させます。しかし皆さんは思いますでしょう。どんなに優秀でも所詮は四人しかないこの部隊は、すぐに限界が来るのではないかと」
 確かに、非公開メンバーのギリアムを入れても五人しかない。世界をカバーするには確かにやや心もとない。
 でも足りないなら、補充すれば済む話だ。

 「この部隊は設立したばっかりですが、これからは皆さんの賛同の元で、人員を増やしていくつもりです。無論、隊員の質を保つために、人数は十名までと制限させていただきます。この十名のメンバーには、我々を支持してくれる技術組織に技術支援してもらうか、専用機を開発してもらう権利を与えるつもりです」
 あくまで腰の低い態度で、ブライアンは出席者達に具体的な発展構想を開示した。

 人員を十名まで増やしたいと言うのなら、残りの枠は六名。つまり、この条約にサインして、本国から優秀な操縦者を推薦して入隊すれば、あのグランゾンの力の一端を手に入れるチャンスがくるかもしれない。しかも、遅れたら他国に枠を奪われてしまう恐れがある。
 もちろん技術を買い取ろうという発想もありますが、わざとらしいくらいにさっきのタイミングで出したということは、恐らくここに居る代表を釣るための餌だ。金では多分手に入れない。
 しかし明らかに餌だと分かっていても、そのあまりの美味しさについつい引き寄せられてしまう。そこまで考えた代表達は、すでにさっさと帰国して会議する気満々になった。
 無論、他の技術企業としてもこのまま黙っているつもりはない。ハースタル機関に美味しいところを持っていかれたが、さっきのカーウァイ・ラウ大佐が使ったのはアメリカ製のゲシュペンスト。あのレベルの技量を持っている操縦者がこの部隊に集結するのなら、これからのメンバーはきっと機体の性能を最大限に発揮してくれる。
 そこに、絶好な宣伝チャンスが生まれる。
 これでさっきまで渋っていた出席者達は全員、この部隊に賛同する方向で問題を考え始めた。

 「ふん……勝ったな」
 自分にしか聞こえない小声で、ブライアンは僅かににやけた顔でそう呟いた。
 この会議の成功はイングラムの仕込んだ演出による部分が大きいが、教導隊の五人は全員、イングラムよりブライアンの方を信頼している。
 大丈夫、自分は紅ノ牙を手に入れた。グライエンの操り人形でも、イングラムの傀儡でもない。これからは自分を信じてくれる人間とともに、自分の信じる道へ行けばいい。
 たとえ、それが茨の道であろうとも。


 *


 会議はそろそろ終わりそうな頃に、ビルの屋上に、二機のISが着陸した。
 一機は無人機ISを全滅させた蒼き魔神、グランゾン。もう一機は、会議室への戦況を中継した凶鳥の眷属、エクスバイン。二機は同時に機体展開を解除して、パイロットの愁とクリスは服の乱れを整えながら向き合う。
 
 「お疲れ様、白河博士。凄かったな、グランゾン。正面から遣り合ったら勝てる気がまったくしないよ」
 「ほう……それを分っていて私に銃を向けたのですか?」
 涼しい顔して、愁は目の前に立つ少年へそう問いかけた。
 愁が無人機を殲滅している間に、クリスはずっとエクスバインで監視しながら、グラビトンライフルでグランゾンを狙っていた。
 白河愁という男は謎が多すぎて、クリスは彼を信頼しきれない。イングラムとは奇妙な協力関係を築けているようだが、グランゾンという絶大な力を手に入れた以上、油断はできない。
 だがそれは無駄な行動だった。
 グランゾン相手にエクスバインでぶつかったら、一瞬で殺される。それだけの力の差が、はっきりとしていた。

 「仕事のうちだ。大目に見てくれよ」
 「まあ、いいでしょう。これでイングラムの借りは返しました」
 ポケットから白い封筒を取り出して、愁はクリスへ差し出した。
 封筒の上に、「辞表」の二文字が大きく書かれていた。
 これは白河愁と言う男が、組織から抜けるということを意味する書類だった。クリスに預けるのは、イングラムへ渡すため。