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ベン・トー~if story~ vol.3

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9部 夏祭り


バイトが終わってから3日。今日は夏祭りの日だ。
夕方。約束の時間になると、俺は先輩のマンションへ向かう。部屋の前でインターホンを鳴らす。
『はい。ああ、藤島か。少し待っていてくれ』
「わかりました」
先輩の言葉を聞いて、俺は言われた通り待つ。
「待たせたな」
数分後、先輩が出てくる。
「せ、先輩…その格好…」
「ん?」
先輩は浴衣を着ていた。
「どうして浴衣を…?」
「その、やはり一緒に行くのだからな。お前が見たいと言ったんだろう?……変だろうか?」
「い、いや!全然そんなことないです!似合ってますし、綺麗ですよ!」
「そうか、ありがとう」
「でも、浴衣じゃ激しい動きは…」
「大丈夫だ。下にちゃんと着ている」
そう言って先輩は浴衣の胸元を開いて下に着ているインナーを見せてくれる。薄手だから浴衣でもそんなに目立つことはなさそうだ。
「それじゃ、行きましょうか」
「そうだな」
俺と先輩は祭りの会場へ向かう。

祭り会場は既にかなりの賑わいを見せていた。
「けっこう人がいますね」
「ああ」
先輩は辺りを見回している。一緒に視線を追うと、見知った顔の狼達がちらほらと見えた。
「もう来ている狼もいるみたいですね」
「まぁ、もう少しで時間だからな」
佐藤達はまだ来ていないようだった。
と、ここで俺は気付いた。
「……先輩。何か今日、いつもより背丈が低く感じるんですけど…?」
「ん?……ああ、そうか。ブーツでないからだな」
「えっ、大丈夫なんですか?」
「流石に浴衣で履いてくる訳にもいかなかったのでな。大丈夫だ、多少攻撃力は落ちるだろうが何とかなるだろう」
「なら良いんですけど…」
そんなこんなしているうちに時間はやってきた。
「会場にお集まりの皆様。只今より特別イベント『狼達の夜』を開始いたします。危険ですので、参加者以外はこれから作られる禁止区域に立ち入らないようお願い申し上げます。参加者の方はロープの内側にお入りください」
そんなアナウンスが流れた後、会場の一角に係員達が立ち入り禁止区域としてロープを張っていく。
「では行ってくる」
「頑張ってください、先輩!」
先輩はロープの内側に入る。他の狼達も続々と入っていく。中に佐藤と奢莪の姿もあり、先輩と話しているようだった。やがて今日の獲物の説明が始まる。

「先輩、こんばんは」
「佐藤。それに麗人、やはりお前達も来たか」
「当然。狼として、このイベントに参加しない訳にはいかないでしょ」
「そうだな。ところで佐藤、お前はどれを狙う?」
「俺は…あれですね。『祭りと言えばやっぱこれ!たこ焼きそば弁当、大盛り』。あれにします」
「そうか。では私は、『7種の具材を使ったスペシャルお好み焼き弁当』にしよう」

メニューは普通のものから異彩を放つものまで多様だった。だが何れも他の出店より安値段で売られている。先輩は、何を選んだんだろう?
やがて戦いの火蓋が切って落とされた。いつの間にやらギャラリーも集まっている。
佐藤も奢莪も、相変わらずの強さだ。並み居る狼達を次々と打ち倒していく。茶髪や坊主、顎髭も善戦していた。西区優勢だな。
先輩は…と見ると、珍しく苦戦を強いられているようだった。やはりブーツ無しでは打撃力に欠けるのだろう。それでも強かったが、恰幅のいい狼と対峙した時、弾き飛ばされた。
「やっぱり、このままじゃ…」
俺は考える。ここから先輩の家までは走って往復五分弱。近場で開催されていたのは都合が良かったかもしれない。続いて、先輩から借りている先輩の家の鍵のスペアを見る。風邪の看病をして以来、先輩から託されていたものだった。もう考えるまでもない。俺は駆け出していた。

「はぁ、はぁ…」
息を切らして先輩の家の前に着く。鍵を開け、適当な袋を借りて目的のものを袋に入れる。そして先輩の家を出て、俺は再び祭り会場へ向かう。間に合ってくれ。そう思いながら。

祭り会場へ戻ると、まだ続いていた。参加者が多いのが幸いしたな。俺は大きく息を吸い込むと、
「先輩!!」
大きな声でそう叫んだ。先輩がこちらに気付く。俺は手にした紙袋を見せる。それで先輩は理解したようで、俺の方へやってきた。俺は紙袋を渡す。先輩は紙袋を受け取ると中身を取り出して靴を履き替えた。
「行ってくる」
「はい!」
先輩は駆け出すと、それまでの遅れを取り返すかのように次々と狼達を打ち倒していった。やっぱりブーツを持ってきてあげて正解だった。
そして先輩は、今日も狙い通りの獲物をゲットした。

戦いが終わって戻ってきた先輩は満足げだった。再び草履に履き替える。
「藤島、ありがとう。お前が靴を持ってきてくれて助かったよ」
「先輩が苦戦してるのを見たら、いてもたってもいられなくなったので…」
「もっとスマートに勝ってくるつもりだったんだが…恥ずかしいところを見られてしまったな」
「いえ、全然そんなことないですよ」
「そうか、良かった」
「それじゃ、適当に座りましょうか」
空いている席を見つけて、先輩と一緒に座…らなかった。
「先輩、少し待っててください。俺も晩飯買ってきます」
「ああ、わかった」
先輩にそう告げてから、俺は晩ごはんを買いに歩き出す。さて、何にするかな。
しばらく探してあるいていると…。
「……藤島君?」
サイドから呼ばれた気がした。そちらを向く。
「ん?おっ、倉敷。お前も来てたのか」
「うん。茜達と一緒にね」
「そうか」
少し沈黙。やがて倉敷が口を開く。
「あ、あの藤島君。もし良かったらこのあと、私と一緒に…お祭り、回らない?」
「え?でも友達と来てるんだろ?」
「あ、う…そ、そうなんだけど…」
何だか歯切れが悪い。いつもの倉敷じゃないように思えた。
「倉敷、熱でもあるんじゃないか?」
「え!?そ、そんなことないよ!」
「そうか?でも、いつもと様子が違うような…」
何気なく倉敷の額に触れる。
「あ、あわわ…!」
と、倉敷は顔を真っ赤にする。
「顔赤いぞ?やっぱ熱があるんじゃ…」
「だ、大丈夫!」
「そうか?まぁ、でも。俺も実は人を待たせてるんだよ」
「あ…そ、そうなんだ?」
「ああ。だから、どっちにしろ無理だ」
「そっか。うん、わかったよ。じゃあ、また今度ね」
「ああ、またな」
倉敷を見送ると、俺は晩飯を買って先輩の所へ戻った。

「弥生、どうだった?」
「ダメだったよ~…」
「ありゃー…。でも、夏休みは始まったばっかだし、まだチャンスはあるわ!旅行だってあるしね」
「頑張ろうね、弥生ちゃん」
「ありがとう。茜、夕美」

「遅かったな。冷めてしまうかと思ったぞ」
「すいません、先輩。ちょっと知り合いに会っちゃって」
俺は買ってきた飯と二人分の飲み物をテーブルに置く。
「食べましょうか」
「ああ。いただきます」
「いただきます」
二人揃って食べ始める。
「やっぱ祭りって言ったら焼き鳥、たこ焼と焼きそばは確実に欲しいですね」
「よく食べるな」
「ま。お祭りですから。先輩も、良ければどうぞ」
「そうか?なら、お言葉に甘えて…」
先輩はたこ焼を1つ摘まむと、それを食べる。
「うん、美味しいな」
「はは、ですね」
先輩はお好み焼きを一口分箸で切ると、いつもの調子であーんをしてくる。
作品名:ベン・トー~if story~ vol.3 作家名:Dakuto