ベン・トー~if story~ vol.3
「ちょ…先輩。ここ、人が…」
「気にすることはないだろう。私達は付き合っているんだから、普通じゃないか?」
いや、でも……ええい!なるようになれ!
ぱくっ、もぐもぐ…。
「……う、美味い!」
「だろう?このお好み焼き、とても美味しいんだ」
「何か、今まで食べた中で一番美味しいかも知れないです」
「それもそのはずだ」
言いながら先輩は月桂冠のシールを見せてくる。なるほど、美味しい訳だ。
「月桂冠ですか」
「ああ。私も獲った時に気付いたんだがな」
こうして二人で食べ進めていった。
晩ごはんを食べ終えた後は、先輩と二人で祭りを見て回った。
「金魚すくいか」
「藤島、やってみたらどうだ?」
「いや、俺下手くそなんですよ」
「それなら私がやってみよう」
先輩は店主にお金を支払い、ポイを貰う。
真剣に狙いを定め、掬う。……が、あと一歩で破れてしまった。
「惜しかったな、嬢ちゃん。ほれ、サービスだ」
店主から一匹、金魚をもらっていた。
「残念でしたね、先輩」
「…子供の時以来なんだ、仕方ないだろう」
プイッとそっぽを向く。先輩、もしかして拗ねてる?
「……あ、射的がありますね。先輩、俺やってみます」
射的の屋台へ向かう。店主にお金を渡す。どうでもいいが、10発300円は高くないだろうか?
「……」
狙いを定める。後ろでは先輩が見ている。目的の景品は大きなぬいぐるみだ。だが、一発そこらじゃびくともしない。そこで俺は考えた。他に客は今のところ来ていない。そこで店主に了解を得て(上手く説得して)、複数の銃を使わせてもらうことにした。全てに弾を込める。射的の腕には自信があった。だから、この作戦に出た。
深呼吸する。それからまず二丁持ち、撃つ。びくともしない。すぐさま持ち替えてまた撃つ。少しぐらつく。すかさず持ち替えてまた撃つ。あと少し。また持ち替えて撃つ。一発外れる。これがラストの弾だ。狙いを定め、撃つ。見事ヒットし、ぬいぐるみは落ちた。
「やった!」
いつの間にか、俺の周りにはギャラリーが集まっていた。俺はぬいぐるみを受け取った。
「先輩」
俺は先輩にぬいぐるみを渡す。
「良いのか?」
「はい。先輩のために頑張ったんですから」
「そう、か。ありがとう、大事にする」
顔を赤らめ、先輩はぬいぐるみを受け取ってくれた。その顔は嬉しそうだった。周囲からは様々な野次が飛んできた。
やがて二人で歩いていると人気があまり無い場所に出た。二人で近くにあったベンチに腰かける。
「ふう…」
「少し疲れたな」
「そうですね」
二人して空を見上げて呟く。
「……まだ出会って数ヵ月なのに、色々あった。そうは思わないか、藤島」
おもむろに先輩は口を開いた。
「確かにそうですね。あの日あの場所で先輩を見かけていなかったら、今は無かったですよ」
「そうだな。そして部室に来てくれていなければ、同じく今は無かっただろう」
「モナークを相手にした時は、もうダメかと思いましたよ」
「あの場で、あの状況で告白されるとは思ってもみなかったぞ」
「いや、あの時はもう勢いでしたよ」
「だが、嬉しかった。誰かに好かれて告白されたのは初めてだったからな」
「そうだったんですか」
「ああ」
お互いに見つめあうと、しばしの沈黙が場を支配する。今なら…。
先輩も何となくでも察したようで、目を閉じる。お互いの顔が近づいていく。やばい、すごいドキドキする。
そしてーーー……。
花火が上がる。その時。俺と先輩の唇は、確かに重なりあっていた。
俺にとってのファーストキス。多分、先輩もそうだろう。
永遠とも呼べそうなくらい、時間が長く感じた。やがて、ゆっくりと唇を離す。
「……」
「……」
お互い無言で、今更ながら恥ずかしくなってしまった。だが、満ち足りた気持ちで心は一杯だった。
「……先輩、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、だ」
照れ臭くて、そんな会話しか交わせなかった。
だが幸せな気持ちで一杯で、二人で次々に上がる花火を見ていた。
作品名:ベン・トー~if story~ vol.3 作家名:Dakuto