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雪割草

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〈80〉目覚め



朝日がまぶしい…。
もう、朝か…。
いかん、寝ちまった。
目を離したら、危ないのに…。

しかし、助三郎は腕の中に温もりを感じた。
まぶしくて目が開けられなかったが、手探りで確かめた。
腕の中で、寝息が聞こえる、心臓の音がする。
ちゃんと生きている。

…本当に怖かった。危うく大切な人を永遠に失うところだった。


誰になんと言われようと、二人で生きていく。
国を捨て、身分も家も何もかも全部捨てて、早苗と二人で、寿命が尽きるまで一緒にいる。


もう二度と離さない。



もう一度しっかり抱き締めた。

…柔らかいな。

…ん?

なんで柔らかい?
それに、なんでこんなに小さい?

目を開けて腕の中を確かめた。




…早苗?



助三郎の眼に入ったのは、女の早苗の姿だった。
大きさが合ってない大きな白装束を身に着けたまま眠る姿は、まるで羽衣をまとった天女のようだった。


なんだ、まだ夢の中か…。
ほんとダメだな俺は。まだ女の早苗の姿に未練があるのか?
情けないな…。

自嘲していると、目の前の早苗が目を開けた。


かわいい…。
いかん、もう忘れるんだ!
早苗の中身がこの世にいるだけで俺は幸せなんだ!
女の姿に未練を残していたら余計こいつを傷つける。
早く目を覚まさないと。


「…あれ?もう朝?」

声まで聞こえる、なんて夢だ…。


「…わたし声だけ戻ったの?」

「夢だ…これは夢だ。」

ひたすら夢から覚めようと、自分に言い聞かせた。

「夢じゃない。…行かないと。」

「え?」


腕の中からすり抜けた早苗がつぶやいた。

「絶対に追いかけてこないでね。…さようなら。…今までありがとうございました。」

ふらふらと立ち上がろうとする彼女を見ながら、助三郎は自分で頬を抓った。


痛い…。
ということは、現実か?


「行く必要はない!死ぬんじゃない!」

必死に腕を掴んで引きとめた。

「へ?」

「…全部戻ってる!早苗だ!」

「…何言ってるの?」

「…良く見てみろ。落ち着いて確認するんだ。」

「何を…?」

腕を掴むのをやめ、彼女の手をそっと握った。

「ほら、俺より手が小さいだろ?腕が細いだろ?着物が大きすぎるだろ?」

「…ほんと。」


恐る恐る自分の姿を確認している早苗に声をかけた。

「…早苗。」

「…戻ったの?」

「そうだ。戻ったんだ。だから…。」


声が突然出なくなった。
さらに、ずっと見ていたかった顔が、いきなりぼやけた。


「泣かないで…。」

「……。」

「泣きやんで。」

涙をぬぐって確認した。
間違いなく早苗だ。この世で一番大切な人だ。

再び、涙で見えなくなった。
それは、自分の不甲斐なさ、恐怖、怒り、絶望の涙ではなく、純粋な嬉し泣きだった。

俺を見てくれた。
拒まないでそばにいてくれている。
死なないでくれた。



すすり泣きが収まった頃、早苗がつぶやいた。

「…泣きやんだ?」

「あぁ。もう大丈夫だ。ごめんな。」

彼女を優しく抱きしめた。
やっと、そっとだが、早苗も触れてきた。



今ならいいかな。そうだ、いい機会だ。
昨晩猛烈に拒まれたけど、今なら…。
本当に、心の底から愛してる証に…。



早苗を自分の身体から少し離し、じっと見つめた。
その顔は、昨晩同様無表情なままだった。


「なに?わたしのか…」


 


そっと身体を引きよせ、唇を重ねた。



今までしてやれなかった。
気恥ずかしい、照れくさいと先延ばしにしていた。
それが永遠にできなくなるところだった。
愛する女に何もしてやれなくなる寸前だった。
もう二度と、後悔はしたくない。
もう二度と同じ過ちは繰り返さない。
早苗を守り抜く。



再び早苗の目をじっと見つめ、ささやいた。

「…愛してる。もう死ぬなんて絶対言うな。」

「……。」

「…お前が居ないと、俺は生きていけない。」

「……。」

「…俺はずっとお前の隣にいる。だから、お前もどこにも行かないでくれ。」

半分放心状態な様子で黙っていた早苗はやっと、助三郎の言葉に返事をした。

「…はい。」

「約束だぞ。いいな?」

「…はい。」

表情がなかったが、今までで一番生気を感じられる顔だった。
ほっとして再び抱きしめようとしたとたん、早苗の身体が崩れ落ちた。


「…おい、早苗?早苗!?」


眼の前で彼女は倒れ、動かなくなった。
助三郎は頭が真っ白になり何をどうすべきか皆目わからなくなった。


しばらく放心していたが、はっと気付くと、大声で人を呼んだ。


「誰か、誰か来てくれ!!」

由紀が走ってやってきた。


「どうしたんですか!?」

「いきなり倒れた…。どうしよう…。息してるよな?生きてるよな?」

うろたえる助三郎を尻目に、由紀は落ち着いていた。

「助さん、生きてます。寝てるだけです。」

「…本当か?」

「ほら、寝息聞こえるでしょ?」

「…大丈夫なのか?」

「はい。だからお布団ひいてください。ね?」

「わかった。」


布団をひき、早苗をその上に寝かせた。
由紀は早苗の様子を確認すると、助三郎に一言光圀に知らせると言うと、部屋を後にした。


しばらくすると、光圀がやってきた。

「どうじゃ、早苗は。」

「いきなり倒れました…。」

「睡眠不足じゃろう。そっとしておきなさい。…それはそうと、なにが原因でこうなったかわかったか?」

「…私のせいです。私が早苗の心をボロボロにしました。」

「心痛ということじゃ。男になろうとしたせいで、心が疲れきった。だから余計戻れなくなった。」

「…治りますでしょうか?」

「心の傷はなかなか癒えん。それに、お前さんしか治せない。しっかりやるのじゃ。いいか?」

「はい。」

「では、由紀、お銀。頼むぞ。」

そう言って、去った主と入れ替わりに、
女二人が、助三郎を追い出しにかかった。

「さぁ、助さん出てってくださいね。」

「なんで?ずっとそばにいる!」

「ダメ!着替えさせるの!出てって!」

「なんで着替え?」

「こんな大きい着物着せててもダメでしょ?それに不吉だし。なんでこんなの着てるのかしらね…。」

「死装束だ。…格さんの身体の大きさのままだな。」

「…とにかく早くでってって!助平さん!」

「スケベじゃない!」

口答えしたが、女二人に押し出され、ふすまを鼻先でピシャリと閉められた。


しばらく何をするでもなく、庭を眺めてボーっとしていると、中の由紀から声がかかった。

「さぁ、お着替えさせたのでどうぞ。でも、スケベなことしたらお銀さんがタダじゃおきませんからね。」

「俺はそんな馬鹿な男じゃない。…あれ?髪が。」


髪は結いあげておらず、下ろして紐で結んであるだけだった。
一瞬、不吉な感じがして怖くなったが、寝息が聞こえたので、一応安心した。

由紀が、静かに助三郎に言った。

「簪も、櫛も使えません。あの子の荷物見たんですが、すべて売り払ったみたいなので…。
それに、下手に髪紐やかんざし付けてそれでまた自害未遂になったら困るでしょう?」

「そうだな…。」
作品名:雪割草 作家名:喜世