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やる夫が強大な力に立ち向かうようです

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プロローグ やる夫とマサラタウン



今から600年前、カントー地方、ジョウト地方が甚大な被害にあった。
山や道路は滅茶苦茶に荒れ、海は内陸部に進入し、森は焼かれ、削られ、倒された。
何故こんなことになったのかは、もう現代の人達の間では曖昧になってしまっている。
天変地異や、巨大な地震、という説も流れた。
この話は、2つの地方を襲った強大な力に立ち向かう、少年・少女たちの、愛と勇気と涙に満ちたお話。



1番道路。
夏の澄み渡った青空に、白い雲がよく似合う。
2人の少年は、ピカピカの日差しの中で再開のバトルをしていた。
「レイシャ、れいとうビームだお!」
その瞬間、相手の襲い掛かるタマゴばくだんをスレスレで避け、高く跳ね上がった。
ギリギリのタイミングだった。
少年の指示に、彼女「グレイシア」の攻撃は、その体の2倍以上もあるナッシーに向かって放たれた。



【やる夫が強大な力に立ち向かうようです。】



「強くなっただろ、やる夫」
先ほどのナッシーの持ち主、やらない夫が言った。
「やらない夫こそ、リーグ戦以来、格段に強くなってるお」
やらない夫に会うのは、本当に久しぶりだった。
旅を始めた日からお互いライバル同士、いつも競いあった。
図鑑の完成度、ポケモン達の育成、バッヂの数。
果てはポケモンリーグ。
やる夫がセキエイ高原に着く少し前、既にやらない夫はリーグを制覇し、チャンピオンとして、最初で最後の挑戦者であるやる夫を待っていた。
「あの時は、コンマ差でやる夫にもって行かれちまったもんなぁ。それに続いて、久しぶりの再開でもお前に負けちまう。」
やらない夫は少々プライドが高い人で、マサラを出るときから、やる夫の事を下に見ていた。今ではすっかり対等に接してくれてはいるが。
「そんなに落ち込むことないお。やらない夫の実力は確かだお。ほかのやつらが挑んでも、きっとやらない夫に勝つことは不可能なハズだお」
嘘はついていない。だが、すべて正しいという訳ではない。8割くらいか。
あのリーグ戦以来会うのは初めてだが、あの時とは何かが違うことに、やる夫は、さっきのバトルで感じ取っていた。
「やらない夫」
聞いてみよう。
彼とは小さいころからの付き合いで、いわゆる親友、というやつだ。
親友を心配するのが、同じ親友である自分の役目、と思ったからだ。
「ん、どうしたやる夫? 喉でも渇いたか? なら、お前の分も自販機でなにか買ってきてやるよ。」
「いや、違うんだお。 やる夫はやらない夫に聞きたいことがあるんだお」
「おう、ならなんでも聞いてくれ。俺様にわからないことはなにもないだろ。常識的に考えて。」
やる夫はすこしためらいながら、その重い口を動かした。
「あのリーグ戦の後、なにかあったかお?」
一瞬、やらない夫が身じろいだのがわかった。
やはりなにかあったのだろうか。
彼の表情からはまだ読み取れない。
そしてすぐさま、やらない夫はこう言った。
「やっぱり分かるか・・・?」
間違いない。なにかあった。
予想通りの反応だった。
「なにがあったんだお?」
やらない夫はすこし間を置いて、俯き気味にこう言った。
「わからなくなったんだ。俺が戦う理由。コイツらと一緒にいる意味が・・・」
衝撃的だった。
昔はあんなに自分と競い合い、戦う意味、仲間といる意味を誰よりも噛み締めながら旅をしていたのに。
それが今では、"わからなくなった"というのだ。
どうやら、やらない夫はチャンピオンになったあの日、大きな達成感に飲み込まれ、そのさきの目標を見つけられずにいたらしい。
すべてがどうでも良くなって、宛てもなくピジョットに跨り、街を転々としていたようだ。
だが、相変わらずポケモン達からの信頼は厚く、どんなときも一緒にいてくれたと言った。
次第に、やる夫の中で沸々とこみ上げるモノがあった。
そして、
「歯ぁ、くいしばれよ・・・」
と小さく呟くと、やらない夫の左頬を目掛けて、重い握り拳を右手で叩きこんだのだ。
そして、崩れていくやらない夫の襟を掴んで持ち上げ、
「お前は・・・ 忘れたのかお!」
と、怒号を浴びせた。
完璧にこちらの勢いにたじろいでいる。
「あの日、2人でマサラを出るとき、ポケモンリーグの制覇とは別に、もうひとつの目標を立てたのを、お前は忘れたのかって聞いてんだおっ!!!」
実は、2人が最初に手にしたのは、この時代で最も希少価値のあるポケモン、「イーブイ」だった。
カントー地方、ジョウト地方を合わせても、合計7体しか存在していなかった。
そこで、2人はリーグ制覇を目指しながら同時に、自分達を除いたイーブイを持つ5人のトレーナーを探し出し、シロガネ山にジムを建てるという目標を立てたのだ。
やる夫にとっては、そのトレーナー探しのほうに全力を出したかった。
チャンピオンという高みに上ってしまえば、いずれその達成感によって目標を捨ててしまうのは明白だ、と悟っていたからだった。
現に、今のやらない夫がそうだ。
それに、まだ誰も見つかっていないのも現状だった。
次第に不安は募り、やらない夫の一言で、その不安は怒りに変わり、耐えられずやらない夫を殴ってしまった。
「あぁ。おかげで目が覚めただろ。すまなかった」
良かった。
そう思い、やる夫は安堵のため息をついた。
ここで、やる夫はある重大なことに気付く。
「1匹・・・足りない・・・!」
そう。先ほどのバトルでやる夫が戦ったのは、サンドパン・フーディン・ナッシー・キュウコン・パルシェンの5体だった。
最後のナッシーを倒したとき、いかにもバトルが終わったかのような雰囲気が漂っていて、やる夫は勝手に手持ちのポケモンたちを引っ込めたのだ。
「気が付いたか、やる夫?」
やらない夫はニヤリとした笑みを顔に貼り付け、腰のベルトについている最後のモンスターボールを手に取り、
「やる夫ぉぉおお! 俺はこの1匹に、全身全霊をかけて、お前を潰してやるぜっ!!!」
「上等だお!!! 同じブイズを扱うもの同士、手加減は無しだお!!!」
「いってこい! サンダース!」
「レイシャ! あいつに一泡吹かせてやれお!」

こうして、最終局面が幕を開けた。

「先手必勝! サンダース、あまごいだ!」
「なに! あまごい!?」
「はっはっはぁ! 実際に覚えるんだぜぇ? か・ら・の、かみなり!」
「しまったお! レイシャ! 最大出力れいとうビームで相殺するんだお!」
上空で爆発が起こる。
危なかった。
やはり、やらない夫はとんでもなく強い。
それに、今の攻撃でレイシャもかなり消耗してしまった。
さっきのナッシー戦で削られた体力は、全く回復していなかったのだ。
「どうしたやる夫! まだまだこんなもんじゃないだろ! サンダース、でんこうせっか!」
相手のサンダースの頭が、レイシャの右肩を捕らえ、そのまま数メートル先までふっ飛ばしてしまった。
「レイシャぁあああ!」
ヤバい。
やる夫は急いで彼女の元へと駆けていった。
「大丈夫か、レイシャ!」
小さく、コクリと頷く。
この状況を乗り切る一番の打開策を、やる夫は必死に模索した。
「そういえば・・・」
やる夫は、自分のバッグの中におもむろに手を突っ込んだ。
そして、
「あった!」