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少年純情物語中沢くん

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第一話 出会い


爽やかな秋晴れ。中間テストが終わって二週間。
英語教師、早乙女和子が山積みのプリントを、教壇にドンと乗せた。
「それではテストを返却します。出席番号順に取りに来るように」
「はぁ〜」
クラス全員が絶句した。昨日、中間と全く同じテストが行われたからだ。
平均点35にショックを受け、みんなに追試を受けさせたのだ。
これは生徒がバカというわけではない。
最高点76という、難しい問題ばかり出題されたのだ。その理由を生徒たちは知っていた。

早乙女先生は結婚を夢見る乙女。しかし破局が相次ぎ、苛立っていた。
生徒たちはそのとばっちりを受けていたのである。

追試の前日に予告はあったものの、難問の山を一日で復習するのは容易ではなかった。
それでも、平均点は60にまで上がっていた。
「中沢くん!」
「はい」
二年生の中沢は、俯きながら、テストを受け取る。
「もっと頑張りなさい、中沢くん!」
早乙女先生は怒り気味にテストを渡した。恐る恐る点数に目を向ける。52点。
「ふう〜、ちょっとは勉強したしこんなものか」
ちなみに中沢の中間が37点、平均より上だったことは、中沢自身すっかり忘れていた。

中沢が周りを見回すと、女子たちが楽しそうにテストを見せ合っている。
小柄で大人しい保健係の鹿目まどかは、一人テストを眺めていた。
「まーどーかーっ!」
「きゃっ!」
親友の美樹さやかが後ろから、まどかのテストを取り上げた。
「おおお、71点! よく頑張りました〜!」
「さ、さやかちゃん……ところでさやかちゃんは……」
「あ、あたし? あたしは……ほれ!」
さやかは得意げにテストをまどかに見せる。
「65点……」
「ね。あたしにしちゃ、よくやったでしょ」
「うん。すごいすごい」
いつもながら仲の良い二人だと思いながら、中沢は顔を左後ろに向ける。
一つだけぽかんと開いた、入院中の友達、上条恭介の席に。

「はぁ……くそう、何でこんなことになっちまったんだよ……」
早く戻ってきてほしい。しかしそれが難しいことはよくわかっている。
交通事故による、全身複雑骨折の大怪我。
一流バイオリニストを志し、幼少より練習を重ねてきた上条にとって、
それは大きな致命傷となっていた。
「上条、俺はお前のバイオリンもう聴けないのか?」
資産家の御曹司なうえ、バイオリン一筋でプライドが高いが、
小市民に冷たいというわけではない。
一曲弾いてと頼めば、遠慮なく弾いてくれる。
そして中沢は、視線を美樹さやかに向けた。

御曹司と小市民。生まれは違っても、さやかは上条の幼馴染だ。
練習に打ち込む上条を、さやかはずっと側で支えてきた。
上条の天才的な演奏技術は、さやかの支えがあったからこそなのだ。
しかしその支えも虚しく、悪夢が上条を襲うのだった……
「そうだ、いつまでも嘆いててどうする。もっと辛いのは美樹じゃないか」
わがまま言ってちゃダメだと、中沢は自分に言い聞かせた。

さやかがまどかと話していると、もう一人女子が入ってきた。
まどかとさやかのもう一人の親友、志筑仁美。
「まあ、なんですの? その点数は? 二人揃ってうちで勉強なさいましたよね?」
「あ、あはは……勉強しても、やっぱ難しいものは難しいなあ……って」
「そうそう、仁美ちゃんは……何点だったの?」
「92点ですわ」
「おお、さっすがー!」
「一度やった問題ですのよ。全く同じ問題を復習すれば、どうってことありませんわ」
「いやー、だから、その問題が難しくて……」
「本当に、今回は難しかったね……」

仁美は、上条と同じく名家の生まれ。
お茶にお花、ピアノに日本舞踊、英会話、護身術など多くの習い事を掛け持ちながら、
成績は学年でもトップクラス。教養豊かなお嬢様なのである。容姿も端麗で、
一日にラブレターが三通も届くなど、ざらにあることだ。

中沢は仁美にラブレターを送ったことはない。たしかに仁美は美人だと思っている。
しかし手の届かない高嶺の花より、
面倒見が良くて優しいお姉さんタイプのほうが好みであった。
いつか、そんな人が目の前に現れたら……と、
中沢は時々思ったりしていた。

まどか・さやか・仁美は三人そろって、いつも仲良く登下校したり、
教室でおしゃべりしている。
そんな彼女たちを見て、中沢はぼそっと呟いた。
「いい世の中になったなあ」
小市民のまどか・さやかと、お嬢様の仁美。生まれなんか関係なく仲良くできる。
中沢と上条も同じように……

生まれのいいヤツは生まれのいいヤツとしか仲良くできない。
そんなルールはどこにもない。
もしそれがまかり通るっていうんなら、そんなもの跡形もなく粉砕してやる!
それが中沢の本音であった。

そんなことを考えながら隣の女子を見ると、机に置かれたテストの96点が目に入った。
「うそ、マジかよ……!」
それを見て、中沢は唖然とした。凶悪な怪物にでも遭遇したかのように。
追試ということもあり、仁美のような上位ランクなら違和感ない点数。
しかし、それを取った人のほうが問題だった。
なぜなら彼女は昨日転校してきたばかりだからだ。

さらさらとした黒いストレートが印象的な、転校生の暁美ほむら。
ほむらにとって、このテストは初めて。中沢たちの中間と全く同じ条件、
いや、転校初日にテスト予告されたのだから、むしろ悪いといっていいだろう。
それにも関わらず、仁美でさえ苦戦した難問の山を、あっさり解いてしまったのである。
「やっぱり、千年に一度の大天才だ……」
数学の難問を軽々と解き、体育の背面跳びで、校内史上最高記録を出すなど、
その奇才天才ぶりを転校初日から見せつけたほむら。
転校して早くも史上最強の中学生として、学校に名を残したのであった。

下校のチャイムが鳴り、生徒たちが教室を出ていく。
まどか・さやか・仁美も3人揃って仲良く廊下に出る。
中沢が席を立つと、背中をポンと叩かれた。
「よ、どうした中沢。ちょっと元気ないんじゃない?」
「もしかして、上条君のこと?」
振り返ると男子二人が立っていた。二人とも上条の友達で、勉強できる教養タイプ。
はっきり言ってしまえば、上条を取り巻く中で、中沢は一番バカなのだ。
「うん。まあ……」
「僕だって早く戻ってほしいと思ってるよ。でも医者は無理って言ってたみたいだしな……」
「でも全くダメってわけじゃないよ。だから諦めるのは……」
メガネの言うとおりだ。中沢は諦めていない。上条は戻ってくると信じている。
大事な友達を見捨てること。それは中沢が最も嫌うことだった。
「おお、そうだそうだ。上条は絶対戻ってくるよね。医者もビックリの奇跡かなんか起きちゃってさ……」
あり得ない適当なことを言っても、余計虚しくなるだけだった。
「じゃ、さよなら」
中沢は二人に不安顔で見送られ、教室を後にした。

「はあ〜最近つまんねーなー……本屋にでも寄ってくか」
中沢は駅前の方へと歩き出した。

見滝原駅前。喫茶店に雑貨屋、ファッションショップが立ち並び、
ショーウィンドウに飾られた派手な服が目立つ。
夕方になると、学校帰りの中高生、大学生が溢れだす。
中沢は人ごみに紛れ、古本屋、BOOK・OKに入っていった。
作品名:少年純情物語中沢くん 作家名:おがぽん