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ドラゴンクエスト・アナザー

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第十三話 「レナ」


 一行はハムルの村に着いた。
中に入ると子供たちが花畑で遊んでいる。
のんびりとした村のようである。
歩き出したカイは何かにつまずいて転んでしまった。
「いててて!」
見ると何かが地面に刺さっている。
それは錆ついたカギであった。
「何だこの古ぼけたカギは」
カイはカギを投げ捨てた。

 まず村人たちに話を聞いてみる。
ある女性が言うには、夜になると近くの廃屋の前に、犬のような魔物が現れるそうである。
人は襲わないものの気味が悪いので、早く退治して欲しいと言っていた。
また、ある老人からはこんな話が聞けた。
「昔ゴンじいと呼ばれる老人が、犬のペスタとこの街に住んでいたのじゃ。しかしゴンじいは人嫌いで、ほとんど外には出てこんでな。噂では何か宝物を持っていて、それを守っているのじゃろうと言われておった。あるときゴンじいは亡くなったのじゃが、それ以来ペスタが宝物を守るように、家の玄関の前に座っていたんじゃ。今ではそのペスタも死んでしまったがのう」
一行は礼を言って老人と別れた。
さらにゴンじいには孫がいて、今はどこかに引き取られたという情報も得た。

 カイが切り出す。
「今までの話をどう思う?」
「廃屋に現れる魔物ってやっぱりペスタじゃない? だとしたら退治するのはかわいそうね」
「問題はゴンじいが何を守っていたかだ」
「それじゃ、これからゴンじいの家を見に行ってみるか?」
一行がたどり着いたゴンじいの家は、人々が話していた廃屋であった。

 セーラたちは中に入ってみる。
「うわっ 蜘蛛の巣だらけだ」
「床もごみがいっぱい」
一行は家の中を念入りに探したが、何も見つからなかった。
「何もなかったな」
「噂は噂ってことか」
「きゃっ。体中蜘蛛の巣だらけ! セーラ、お風呂行きましょ!」
「はーい!」
「アレフ、オレたちも……あれ?」
廃屋から出て気がつくと、アレフはどこかへ行ってしまっていた。
「まあいいや。後から来るだろ」
三人は宿へ向かった。

 そのころアレフは、聞こえてくる悲しげな歌が気になり、花畑の方へ来ていた。
そこには花を摘んでいる少女がいた。
少女はアレフを見ると話しかけてきた。
「こんにちは。わたしはレナ。あなたは?」
「俺はアレフ。ずっと北のアルメリアという村から来た旅の者だ」
「アルメリア……それではあなたも……」
「え?」
「あ、いえ。ごめんなさい」

 近くで子供たちが遊んでいたが、その中の一人が転んでけがをして泣きだしてしまった。
レナがその子供にホイミをかけてやるとけがはすぐ治り、子供はレナにお礼を言ってみんなのところへ駆けていった。
「君は回復魔法が使えるのか」
「ええ。でもわたし、二つしか呪文が使えないんです」
アレフはもう一つの呪文のことを聞こうとしたが、それより先にレナを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、叔父さんだわ。ごめんなさい。わたし行かなきゃ」
レナは自分の家へ走って行き、アレフはその後ろ姿を眺めていた。

 その後アレフは宿に戻った。
「どこに行ってたんだ?」
「ああ、ちょっとな」
「そういえばマリアやセーラと話をして、今夜は疲れたから明日また調べようということになったぞ」
「廃屋を守っている魔物の件か。じゃあ明日行こう」
横になりながらアレフはレナのことを考えていた。
レナの歌う悲しい曲が頭を離れなかった。

 朝になり、一行はまず買い物に出かけた。
その途中レナに出会った。
「やあレナ」
「アレフさんこんにちは」
「今日はどうしたんだい」
「ええ、叔父に買い物を頼まれたので」
他の三人は顔を見合わせた。
「アレフ君、オレたちのことも紹介してくれないかな」
「ああ。レナ、左から順にセーラ、マリア、カイだ」
「レナです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
「はじめまして。セーラです」

「ところでレナ、君は夜になると廃屋の前に魔物が出るという噂を知っているか?」
「はい。だけど怖いので見たことはありません」
「実はオレたち今日の夜その魔物を確認しに行くんだけど、よかったら一緒に来てくれないかな?」
「おい、カイ!」
「だってオレたちだけで行くよりも、地元の人にも確認してもらった方がいいだろ」
「う、うむ」
「わかりました。わたし一緒に行きます」

 夜になって一行は廃屋へ向かった。
セーラたちは廃屋に着いたが、魔物を見つけることはできなかった。
「おかしいですね。毎日誰かが見たという話をしていたのですが」
「実際は毎日出るわけではないのかも知れない。しばらく様子を見ることにしよう」
一行は毎晩廃屋の様子を見に行ったが、犬の魔物は現れなかった。
その間、四人はレナにいろいろ案内してもらった。
レナも同年代の友達ができ、うれしそうであった。
「そういえば街の隅に頑丈そうな蔵があるけど、あれって何なの?」
マリアは素朴な疑問をレナに投げかけてみた。
「あれは開かずの蔵なんです。なんでも普通はとても手に入らないようなものがあそこに保管されているという話なのですが、カギがないので中を調べられないんです」
「蔵を壊してみたら?」
「ええ、それも試したそうです。でもとても頑丈で、穴さえ開けられなかったとのことです」

 数日後、再び魔物が現れたという話が聞こえてきた。
その夜、四人はレナを連れて廃屋へ向かった。
家に着くと、確かに一匹の魔物が家の前にいる。
「あの魔物に見覚えは?」
レナは首を横に振る。
だが魔物はこちらに気づき向かってきた。
「危ない!!」
ところが魔物は犬の姿になり、レナの顔を舐めまわした。
「ペスタ!?」
レナは驚いたが、犬はうれしそうにしっぽを振っている。
魔物は犬のペスタであった。

「ペスタ……あなた魔物になって、この家を守ってくれてたのね」
ペスタはオンと鳴くと家の中に入って行く。
それを一行は追って行った。
ペスタがある部屋で止まり穴を掘り始めたので、みんなも掘り始める。
なんとそこには隠し階段があった。
階段を降り部屋に入ると宝箱があるので開けてみる。
中には最後のカギが入っていた。
レナはそれを手にとってみる。
するとペスタはうれしそうに一声鳴くと消えて行った。
「ペスタ! ペスター!」
しかしレナの声はもうペスタには届かなかった。

「きっとペスタは君にこれを渡すために、この家を守っていたんだろう。ところでよければ、なぜ君がペスタを知っていたのか教えてくれないか」
アレフの言葉にレナはうなずき、自分の生い立ちを話し始めるのであった。