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ぼんくらー効果
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巴マミが魔法少女になる前の話

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Prologue〜平和な日常






 この季節にしては珍しく、ぽかぽかとした陽気も、今日ばかりはとても恨めしく思えます。

 一週間の内。どれがラスボスに相応しいかと言われれば、多分金曜日という人が多いと思います。
 それにはわたしも賛成です。一週間の終わり。一週間の疲れがたっぷり溜まっている金曜日こそがラスボスに相応しい、なにしろ一週間の”ラスト”ですから。
 でも、わたしの学校ではボス的要素は薄いかもしれません。
 
 わたしの通っている風見野市立笠見野中学校の一年、木曜日の授業は実に億劫です。
 数学、化学、数学、世界史、数学、物理。金曜をラスボスと例えるなら木曜日は”ラスボス前のダンジョンの雑魚キャラのほうが強敵”みたいな感じの布陣です。
 幸い微睡みが襲来し、クラスの笑い者になる危険はありませんでした。ですが、今日のわたしは授業にまったく身が入らず、それはなぜなら、今朝の夢のことを考えていたからでした。
 あの触感、情景、匂い。どのすべても欠けることなく記憶の中に擦りこまれて、刻まれて、離れない。夢ではなかったようなほどに、鮮明で辛辣で鮮烈な夢の出来事。

 実は、わたしは似たような夢を何度も何度も見ています。
 ――これも、何度も繰り返した夢の出来事。あの感動も、あの寂寥も。みんな昔見た夢の複製。それにわたしはまた騙されたのです。
 悔しいよりも。悲しいよりも。恥ずかしいよりも、なにより情けない。みんなにはもう気にしていないと言っておきながらわたしは今でも気にしている。
 ――そんなの、誰も望んでないのに。

 わたしはふと窓から空を見ました。わたしの席はどちらかと言うと廊下側なのですが、廊下を見ても面白くないので、ぼんやりしたいときはいつもわざわざ遠くの窓を眺めます。
 小さな窓の縁から見える広い空。わたしの存在が霞んでしまうほどの大きな存在。これだけ大きな空があるのなら、わたしは――。
 
「消えちゃってもいいのかも――」
『そんなことを考えるだなんて、良くないね』

 頭の中になにか”声”が響いた。わたしは驚いてあたりを見回しますが、響いた声。甘ったるく可愛らしさを強調したような可愛らしいその声の主に該当する人物はいません。ですが、――ベランダの手すりに、見たことのないシルエットが鎮座していました。
 それは、ウサギのような、猫のような、不思議なシルエット。逆光で黒いシルエットと”朱い目”だけが見えました。

『まだ”少女”でしかない君がこの世界に悲観的になるのはダメだ。まだ君たちは、――希望を振り撒く存在であるべきなのだから』

 そのシルエットは再度わたしの頭にそう語りかけてきました。
 ――いったいなにを言っているの……?
 なんのこと言っているのかまったくわかりません。でも、その動物はそのシルエットをご機嫌に揺らしながら小首を傾げて、
『それじゃあね』
「え?」
 その動物は人間らしく別れの言葉を口にしたかと思うと、段差を飛び降りるようにベランダから飛び降りてしまいました。ですが、ここは3階。わたしは、とっさに駆け寄ろうと思いましたが、後ろのルミちゃんに肩を捕まれ、

「もうすぐ授業始まるよ。次、阿遅山先生だから、すぐ来るだろうし」
「で、でも……」 
 
 心配です……。猫はどの高さから落ちても平気だといいますが、それでも怪我をしてないか心配です。ですが、なんとか説得しようと試みる前に、授業開始を知らせる鐘と同時にふっくらとした阿遅山先生が教室へ入って来ました。

「今日アッツいねえ。眩しくない? えーっと……秋穂……あきほちゃん?」
「秋穂でシュウスイです……」
「あ、そうなの。ごめんね〜。窓側の誰かちょっとブラインド降ろしてくれる? ……これで男の子か」

 そう言われた誰かは、ややあって、いつもの背の高い男の子が下げ始めました。おかげでわたしは外を見れなくなり、ルミちゃんが少し楽しそうな声で、

「阿遅山先生、秋穂くんの名前間違えたの何回目だっけ?」
「た、確か、これで88回目だったはず。過去最多が小学校時代の理科の先生の94回だから、もしかしたら、新記録あるかも……」
「あと6回か……いや、もう流石に覚えるでしょ」
「う〜ん。あの表情だと怪しいねえ……」

 わたしは、ルミちゃんとそんな会話をしながらも、意識は既に別のところにありました。本日三回目の数学は高次方程式。ですが、わたしはその時間ずっとボーッとして、ふと気がつくとさっきの謎の動物のことを考えていました。





 今朝聞いた鐘の音が今度は幸福を運んできてくれました。昨日の敵は今日の友……いい言葉です。
 ですが、まだ号令はしていないので、まだ油断できません。わたしは静かに筆箱の中身を整理して終了の構えをします。先生は区切りの悪いところでなったからか、少し渋い顔をしていますが、のびをしていたり、おしゃべりをし始めて完全に集中力の途切れた教室の様子に諦めたようで、顔を伏せ、
「今日は終わり!! 号令!!!」
 と、日直に号令を促します。日直は嬉々とした声で、終了の号令を言い、教室は放課後の顔を表します。わたしも後ろのルミちゃんの席に向かい、

「ようやく終わったねえ……。なんでいきなり三角関数なんて始めたんだろ?」
「なんか物理をやるうえではこれ知っとかないとやりづらいとか言ってたけど……」
「しーたくんの上あごで下あごを割ると……?」
「コサインだっけ?」
「太白先生がいきなりこんなこと言い出すんだもん。笑っちゃうよね」

 みんなも笑いあい、帰りの支度を始めています。
 一部には部活動がある人もいますが、入部しなくてはならないわけではないので、大抵が学校が近所の人のみです。この学校は部活動に力を入れていて、推薦で優秀な選手を集めていたりします。奈菜ちゃんもその一人です。もちろん、そうでなくともそれぞれの部活動は部員を募集していて、入部した友達から聞くには結構楽しいんだそうです。文化部も充実しています。わたしもどちらかと言えば近所のほうですが、帰宅部をしています。
 入学初期は園芸部に入部していましたが、すぐに退部してそれ以来です。

 教壇付近で屯っていた奈菜ちゃんがこっちに向かって、
「千っ花ちゃ〜ん。放課後見滝原にオープンした喫茶店にでも行かない? 今日はおごるよ〜?」
 それは放課後のお誘いでした。新しくオープンしたお店は気になりますが、今日は大事な用事があります。なので、非常に魅力的な相談ですが、
「ご、ごめん。今日はちょっと用事が……」
「――そっかあ……。んじゃまた今度ね!! ……ちぇ、サボれないじゃん……」

 なにかぼそりと言ったようですが、まあいいかッ!! という元気な声が聞こえたので、大丈夫でしょう。わたしは肩を叩かれ、振り返ります。
「じゃあ行こうか」
「帰りは――?」
「もちろん。――奈菜ちゃんが言ってたとこにしよ?」
 それにルミちゃんは苦笑いをしながら、そうだね。と頷いて、勢い良く立ち上がりました。ですが、――その奥の女の子の集団の足の林の奥に。
「あれは……?」
『また会ったね……』