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灰色

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望めないもの






「たっ・・・高尾、くん」


どれくらい走ったかなんて然程俺には関係無かった。

そんなのは毎日嫌というほど練習でさせられている。



ただ、今俺に問題があるとするならばそれは、この右手に掴まれた細い腕。
はっと我に返って無意識にギリギリと締め付けていたそれを名残惜しく離す。

背を向けたまま「悪い」と言えば川島さんは小さく「えっ」と答えた。





好きって、どうしようもなく辛いもので


好きって、どうしようもなく自分に歯止めが効かなくなる。



実らない恋であるが故に、とてつもなく自分が馬鹿みたいに見えて悲しくなる。
分かってるって、緑間の彼女に手ぇ出すとかもうしねーよ。
今日、この場で最後にするって誓うよ。





「あ、の・・・高尾くん」

「なんだよ」
「その、・・・ありがとう」



突然、川島さんが「ありがとう」と口にしたことの意味が分からず振り返る。


暗がりでよく顔が見えない。
どんな顔をしているのか知りたいが、ここは抑える。耐えろ自分。



「どーゆーこと」

「慎太郎と別れて・・・気まづ、かったから。・・・連れ出してくれて、ありがとう」
「・・・は?」




別れたって、どーゆーことだ?


緑間は一言だってそんな事言ってなかった。
むしろヤキモチなんか妬いちゃって、大変だったんだぜ。


「私、フラれちゃって」
「は?」

「高尾くんが私たちに会うちょっと前にね、」








川島さんは俺に出逢う数時間前の話を詳しく話してくれた。

月明かりが俺たちをそっと包み込む。


彼女の眼にはたくさんの涙が溢れて、溢れて。
咄嗟に伸ばした手は彼女の頬に触れて、濡れた。








やっと見れた川島さんの顔。


さっき走ったせいでクシャクシャになった髪。



もう気が狂いそうで、息が苦しくて、泣きたいのはこっちだって一緒だ。




「まだ、真ちゃんが好きなんだ?」


本当は彼女の気持ちなんて触れている涙で分かりきってるクセに





強がって、馬鹿みたいに自分の川島さんに対する気持ちをズタズタにしようとする本脳
あわよくば好きじゃないと言ってくれる事を望んで。
伸ばしてみても、届かないような恋でも期待は出来るって、そう信じたいが故に。














「すき、しんたろ、好き・・・すき、なのに・・・!」



言うと思った。




やっぱり望んじゃダメなものは、ダメなんだ。

作品名:灰色 作家名:まつひさ