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アンドロイド・レメディ

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その2


 ピンポン、と軽快に鳴ったベルを押してしまってから、ウサは訪ねる理由を用意していなかった事に気がついた。近くまで来たからついで寄ってみた、虎徹に会いに、お前が気になって。
「……」
 本音は3番だが本音と建て前の活用として、とりあえず1番推しでいこうと意見がまとまった。だが、一向に虎徹の家の玄関は開かない。ベルを押してから、ゆうに3分は経過している。理由を考えるいい時間稼ぎにはなったのだが、移動に時間が掛かるほど広くはない部屋だったはずだ。虎徹がいないから、トラはスリープしているのかもしれないと強行手段に出ようとした所で、扉の内からがたごとと物音がするとようやく玄関がの扉が開いた。ドア陰からそっとこちらを覗いたトラの瞳が、ウサを捉える。
「ます、たー?」
 虚ろな瞳と呂律の回っていない口調に、ウサは瞬時にトラの異変を察知した。

 ウサをバーナビーと誤認してからすぐ、よろりと倒れかかったトラを抱き抱えると、リビングに移動してソファに寝かせてやった。
「ますたー、ごめんなさ…まだ、ゆうしょくの、じゅんびが…」
「オレはマスターじゃない。コードHE-00…って、識別も出来なくなってるのか?」
 出てくるのが遅かったのは、この状態の所為かと理解してウサは直に床に座り込む。熱暴走でもしているのか、発熱しているようにトラの身体は熱かった。人間の風邪なら対処は簡単だったのだが、相手は同じアンドロイド、機械である。原因を特定するのはそう容易ではない。
「熱暴走…だったとしたら、今頃強制終了してるよな」
 一体何なのだろうと、トラの頬を掠めるように触れると、びくりとトラの身体が反応した。
「んっ…」
「何があった?」
「それ、やだ」
「それ?」
「さわるなら、ちゃんとさわ、て」
 ゆるゆると緩慢な仕草で持ち上がったトラの手に腕を掴まれると、顔からだいぶ離れた胸の上に移動させられた。つまり、ここを触れと言うことなのだろう。言われるがままウサがトラの胸を撫でると、トラの口からあられもない声が上がって、そこでウサは大方原因を特定することが出来た。習ったばかりの会心の笑みが零れる。
「ウィルスか…! お前、いつの間に入られたんだ?」
「もっと、さわって…」
 ウサの問いを無視して、或いは理解出来ていないのか、巻きつくように腕を伸ばしてくるトラをウサは仕方なく抱きとめる。背中にウサの手が触れるとびくびくとトラの身体は震えて、抱きつく力が強くなった。どうやら全身が性感帯になる仕様のようだ。試しにぺたぺたとトラの身体を弄ると、普段の真面目な性格からかけ離れた艶っぽい声であげて身体を悶えさせるトラはとても扇情的で、端的に言えばすごくエロい。こんな表情も出来るのかとしげしげ見つめていたら、むずむずと落ち着かなくなるような、冷静ではいられなくなるような感覚に囚われて、経過観察は止めにする。
 原因は分かったものの、どう対処するべきか。原則的にバーナビーに指示を仰ぐべきなのだが、ウサは意気揚々とデートに繰り出して行ったバーナビーを思い返して、起動しかけた通話機能をオフにしてしまった。
「……」
 これは空気を読んだまでだ、と基本命令に反した弁明をする。それに、護衛以外に備わっているコンピュータの保守機能の一つであるハッキングを実践出来る機会でもあるのだと、ウサの知的探究心が疼いた。バーナビーが帰る前にウィルスを押さえておけば、後々の処理がスムーズになるのは間違いない。ウィルスの確保を目的に、ウサはハッキング機能を展開させた。
「トラ、オレと視線を合わせろ」
「…っ?」
 トラの顎を取って視線を上向かせるが、虚ろな瞳は視線が定まらず、意外に合わせるのが難しい。額を触れ合わせた至近距離でようやく焦点が合うと、かちりと鍵穴に鍵が合う感覚がして、ウサは繋がった確信を得た。侵入開始である。

 予測していた煩雑な認証は呆気なく解かれ、驚くほど簡単にウサはトラの中に侵入することが出来た。ウィルスの所為で機能していないにしても、トラのセキュリティレベルは全体的に低く、それが今回の感染に繋がったのだろうと推測する。家庭用だから簡易的になっているのだろう、後でバーナビーに忠告しなければと記憶して、ウサは原因となっているファイルを捜す。
 日々の献立からルーチンワークリスト、メールボックスから基本プログラムまでくまなくスキャンすると、一つだけ異様にサイズが大きいファイルを発見した。ファイルの日付は今日で、疑わしきポイントが加算される。そんな怪しさ満点のファイルを細心の注意を払って覗けばはたして当たりの様で、人間の男女がくんずほぐれつする画像にまみれていた。全身性感帯化という作用に納得する濃厚さである。急いで該当のファイルを包囲すると、他のファイルへの波及を遮断して隔離する。これでひとまずの任務は完了だ。

 トラとの接続を解除すると、腕に抱く格好になっていたトラの重みが増した。触れている身体の熱はいつの間にか引いていて、一時的とはいえウィルスの作用を無効化できたようだ。虚ろだった瞳が、今度ははっきりとウサを捉える。
「う、さ…? どうして、ここに…」
 困惑した視線を寄越すトラには、今までの記憶が無いらしい。その方が本人にとっては良いのかと判断すると、ウサはあえて応えずにトラを抱き寄せたまま指先で首筋を辿る。
「疲れただろ? 詳しくは明日説明するから、今日はもう休め」
 アンドロイドに“疲れる”という概念は無いが、腕の中のトラはぐったりとしていてかなり消耗しているように見えた。まだ何か言いたそうにしていたトラの首裏に指を進めるとゆるりとしがみつかれて、ウィルスの影響がまだ残っていたのかとウサは動きを止める。ちらりと様子を窺うと、ウサにくっつてきたトラは穏やかな表情で目を閉じていて、疑い過ぎかとウサはトラの電源を落とした。
 完全に落ちたトラをソファに寝かせて、ウサは簡易のレポートをまとめにかかる。ウィルスによる症状とその処置方法までを入力し終えた所で、玄関のドアが開く音がした。