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エイプリルフール企画~南セントレアの猟犬~

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エイプリルフール企画〜南セントレアの猟犬〜



朝日が眩しく、菊は目を開ける。
まだ春とも言えない海の朝は肌寒く、菊は寝巻きの白い合わせの上から上着を羽織る。

昨晩はあの忌ま忌ましい若造のせいであまり眠れていない。
太い眉毛の下にある翡翠の瞳がギラギラと見下ろし、自分の身体を弄ぶ。
さっさと済ませてしまえばいいものを、自分が嫌がるのを知っていてわざと前戯を
しつこくしてくるのだ。


痛む腰を抑え、棚から湯文字と肌襦袢を取り出す。

着物を身につけようという段階で、いつも着物が2〜3枚しまってある場所に
1枚しかないことに気づいた。
船の上だから、洗濯が追いつかなかったりして1枚しかないことはよくある。
着物は特に手に入らないし、安物の柄を着る気は毛頭ないからそれはいいのだ。
だが問題は、今目の前にある着物が自分の見覚えのない柄をしているということだ。
広げてみてしばらく迷ったが、この格好のままでいるのも寒くなってきたので、
着てしまうことにした。

しっかり着付けて、鏡の前に立ち全体を映す。
夜桜が裾の方に向かって黒地に咲き乱れ、いつも来ている赤い着物よりも幾分か
落ち着いてはいるが一緒に置かれていた帯が金色なので同じだろうか。
逆に、コントラストがはっきりしていてこちらの方が派手に感じる。

愛用の鉄扇を袖にいれ、愛刀をさすためにもう一枚少し幅の狭い帯を巻く。
裸足のままだったのを思いだし、“ぶうつ”と“そっくす”を探す。
草履や下駄などの方が履きなれてはいるが、ここは船の上、ましてや海賊船である。
戦闘の多いここでは歩きやすく長持ちする“ぶうつ”の方が利便性が高い。

“そっくす”を出すために棚に戻ろうとしたところで、部屋の扉が開いた。

「よう、よく眠れたか?」
「ええ、おかげさまで。」

菊は皮肉を交えて返す。
赤く膝まである赤い上着に、首もとには白いスカーフとエメラルドのブローチをつけ、
手にも黒い手袋にゴテゴテとした宝石の指輪をつけている。
いつ見ても派手な男だ。何より太陽の光を反射して輝く金色の髪はこの男の風格を
さらに高潔なものにしている。

「その着物、よく似合ってるな。やはり俺の目に狂いはなかった。」

そういって、アーサーは目を細め口角を上げて穏やかに微笑んだ。
その顔だけ見れば、どんな女性も、いやもしかしたら男性だって落ちるに違いないが、
菊はこの男の性格の悪さをよく知っている。
いつも自分に対して馬鹿にしたような挑発的な顔で見下ろしてくるこの男が、
こんな顔をするなんて何かよからぬことを考えているに違いないのだ。

「いったい何を考えているんです?
ここにあった私の着物はどこにあるんですか?今すぐ返してください。」

菊が警戒して言うとアーサーはゆっくりと近づき菊の手をとった。

「そう毛を逆立たせるなよ、my sweet。」

アーサーは菊の手を取り陶器のように滑らかな指に口づけた。
突然の行動に身構えていた菊は目を僅かに見開き、顔に熱が昇るのを感じた。
上目遣いに自分を見上げる翡翠に耐えられず、ぱっと手を振り払い、接吻された部分を
もう一方の手で覆う。

「貴方、自分が今何をなさってるのか分かっているんですか?
とうとう頭が沸きました?」

サッと身を引きアーサーとの距離をあけ、菊にしては大きな声で罵った。
しかし、普段ならここで言葉の応酬になるはずの男は気分を害した様子もなく、
口元に笑みを携えたままだ。

「そいつは先日、商船から買い取ったものだ。
東洋のものは珍しくねが張るから、交渉も容易ではなかったが、それを着たお前を
見てみたいと思ってなぁ?」
「それでしたら、もう十分見たでしょう?
これは今すぐお返しします。
貴方からのモノというだけで、虫ずが走る。」
「そんな言い方はないだろう?仮にも恋人からのプレゼントだぜ?」
「笑止。私がいつ貴方みたいな駄犬の恋人になんかなったんですか?
寝言は寝て言いなさい。」

そう言って菊はアーサーを鋭く睨みつけた。
しかし、目の前の男はクックッと嫌味な顔で笑うだけで何も言わない。

「何が可笑しいんです。」
「今日はApril Fool's dayだ。」
「えいぷるふる?」

片方の口角を上げた人を見下すようなその態度にイライラしながら繰り返す。

「April Foolだ。」
「…それと貴方の気色悪い言動と何の関係があるんですか。」
「今日は嘘をついていい日と言われていてな?俺の国ではいかに相手を巧妙に騙すかを
競う日なんだ。まあ、戯れに過ぎないがな。」
「フッ、莫迦莫迦しい。」
「だが俺はここ最近、毎日退屈してしる。だから、これに乗じて外の奴らを騙すのも
一興かと思ってなァ。俺達二人の手にかかれば造作も無いことだろう?」

確かにアーサーと菊は顔を合わすだけで空気が凍るほど仲が悪いと船員の間で有名だ。
真っ赤な上着にアーサーの金色の髪はよく映え、その残虐さは悪魔と言われ
7つの海にまで轟く。
一方、一見小柄で美しい菊だがその眼は刃物のように鋭く冷え切っており
彼女の刀もまた切れ味がいい。大抵の敵は何が起こったかも分からないままこと切れる。
そんな二人が顔を合わせるとそこはもう地獄だ。
戦っている時はまだいい。だが、普段は船員たちはそんな二人を遠巻きで見ている
しかない。二人の場に入っていくような命知らずなど誰もいないのだ。

「そうですねぇ…確かに私たち二人でやれば外の者を欺くことなど容易です。
ですが、私がそれに“協力”しなければならない理由が分かりません。
どうぞ、お一人でお楽しみくださいませ。」
「何をするにも理由がなきゃ動けないなんて、相変わらず頭が固いなァ。
それとも、夜な夜な腰を振るだけの雌猫には人を欺くなんていう高度な事は
出来なかったっか?」
「巫山戯るのも体外になさい駄犬が。」
「犬はお前の方だろう?南セントレアの猟犬様?いずれにしても家畜だがなァ。」
「言わせておけば…」
「ただ股を広げて啼く家畜じゃないって言うなら、頭の足りないゴロツキ共を
欺くことくらい出来るだろう?」
「笑止。いいでしょう。」

菊はシャッと袖から鉄扇を取り出し、口元を覆った。

「その、えいぷるふぅるとやらに付き合って差し上げます。
ですが、貴方の稚拙な演技力のせいで船員にばれてしまった場合は覚悟して
おくんですね。」
「そのセリフ、そのまま返すぜ。」