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Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)

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その男を待つ家族




赤いレザーの革ジャンと革パンというコテコテのライダースファッション。
痩せてはいたが"痩躯"というよりも"鋭利"という言葉が似合いそうな引き締まった肉体。
精悍な顔立ちと睨むだけで人を屈服させるような、それでいて常に何かに挑戦し続けているような鋭く禁欲的な眼光。
風都署刑事・照井竜。
「照井!」
「照井竜!」
思わぬ来訪者に声を大きくする翔太郎とフィリップ。
「・・・・・・」
しかし、当の来訪者・照井竜はその呼びかけを黙殺し、光の怪人・検体番号68番を睨みつける。
―――現時刻から少し前の話。
風都のとある病院の一室にて。
『ちょ、何を考えているのよ、竜くん!』
『・・・・・・』
『そんなボロボロの体でどこへ行くつもり!?』
声を張り上げているのは、照井竜の妻・亜樹子。
『・・・・・・大丈夫、だ、所長。・・・・・・見た目、ほど、傷は、深くない』
そう言いながらよろよろと病室の壁に手をかけながら歩く男は彼女の夫である照井竜。
『ぜ、全然大丈夫じゃないじゃん! お、お医者様だって、絶対安静だって、』
『・・・・・・左たち、は、敵のアジトへ、向かった。・・・・・・何人いるか、どんな能力かも、分からない敵との、闘いは、あいつらも苦戦するはず・・・・・・』
荒い息をつきながら、亜樹子の言葉を遮る照井竜。
『・・・・・・俺が、俺が行かなくては・・・・・・っ!』
そう言い放った照井竜の眼はどこまでも真剣だった。
『っ!!』
その決意が本物だと分かった亜樹子の行動は―――、
『ここは行かせない!』
照井竜の進路の妨害。彼の目の前に立ち両手を広げて通せんぼをした。
『ここは行かせない! 今動いたら、竜くん本当に死んじゃう』
亜樹子は眼に涙を浮かべながら照井竜の進む先に立ちはだかる。
この街の平和を守る鳴海探偵事務所の所長・照井亜樹子。
しかし、それ以上に今の彼女は刑事・照井竜の妻であった。
正義の味方の歩みを止めさせる。
自分が間違った行動をとっていることを亜樹子は重々理解していた。
『・・・・・・お願い・・・・・・行かないでっ!』
しかし、死ぬのが分かって闘いに赴く自分の夫を引き止めない妻が一体どこの世界にいるというのか。
『・・・・・・お願い、よ・・・・・・』
悪との闘いで実の父を失っている亜樹子にとってはなおさらな話だった。
『・・・・・・』
亜樹子の行動を黙って見ていた照井竜。
『・・・・・・いいのかい?』
いずれ静かに口を開いた。
『・・・・・・ここで行かなかったら、俺は照井亜樹子の想い人、照井竜ではないぞ?』
『っ!?』
目を瞠る亜樹子。
彼は亜樹子の目を真っ直ぐ見て言葉を紡ぐ。
『・・・・・・勝算があるから闘う、仲間を見捨てて逃げる・・・・・・そんな安っぽい偽善者に、君は自分の人生を預けようと思ったのかい?』
『竜、くん・・・・・・』
亜樹子は照井竜の姿を見る。
彼の体は素人目から見てもボロボロだった。
体中のあちこちに包帯がまかれ、おそらくその下には痛々しい火傷の跡が残っているはず。
感電のせいで神経や腱がまだまともに機能していないのか、足取りもおぼつかない。
闘うだの逃げないだの依然に、まともに動けるかどうかも疑問だった。
『・・・・・・』
しかし、彼の眼光だけは鋭かった。
目の前の亜樹子ではなく、その後ろで待ち構えている相手を射殺すように。
目の前の亜樹子ではなく、その後ろで助けを待っている多くの人々を守るように。
『・・・・・・』
『・・・・・・』
暫し、無言の睨み合い。
『・・・・・・はぁ』
しかし、その沈黙を破ったのは、亜樹子の呆れた調子の溜め息だった。
『・・・・・・全く。親子揃って私が眼中に入っていないとか、ホントどんだけよ・・・・・・』
『・・・・・・? 何か言ったか、所長??』
『何でもない!』
ヤケクソ気味に叫ぶ亜樹子。
『??』
きょとんとする照井竜には構わず亜樹子は、うーん、と大きく背伸びをし、
『あーあ、どうしてこう、私の周りにはこんな無茶をする男どもばかりなのかしら・・・・・・』
彼女にしては珍しい、何かを諦めたような元気のない声色で呟く。
『・・・・・・すまない、所長』
亜樹子が何故しおらしくなったのかまだ状況が飲み込めない照井竜だったが、自分が悪い事をしたことだけは感じ取れたので、素直に頭を下げる。
『頭下げんなっ! 余計みじめになるわいっ!』
ぱこん!
『うお!?』
うりゃっ!と、手持ちのスリッパで彼の頭を叩く亜樹子。スリッパのつま先の文字には『鈍感かっ!』と書かれていた。
『ほ、本当にすまない! は、反省している!』
亜樹子の迫力に圧されたのか、なおも頭を下げる照井竜。
(・・・・・・反省しても、どーせ闘いに行くくせに・・・・・・)
亜樹子はそんな彼の愚直な正直さがおかしくて、なんだか思わず苦笑してしまう。
『ま、しょうがない、か。・・・・・・なんたって私は仮面ライダーの娘で、―――仮面ライダーの妻なんだしねっ!』
さっきのしおらしい調子とは打って変わり、いつもの明るい調子の亜樹子に戻る。
そして頭を下げている照井竜にぐぅん、と顔を近づけ、目を細めて彼の顔を睨みつける。
『いい、竜くん? ちゃんと帰ってくるのよ? 今よりボロボロになっちゃっても、本当に死にそうになっちゃっても、絶ぇっ対、私のところに帰ってくるのよ? そして帰って来たらきっちりお説教だからねっ!』
『・・・・・・所長』
本当は自分を闘いへは送り出したくないはずのに、こんな状況でも普段と変わらない明るさで自分を送り出してくれる亜樹子の強さと優しさ。
『・・・・・・すまない、所長』
そんな亜樹子に対して、彼は謝ることしか思いつかなかった。
『・・・・・・バカ、男が簡単に頭を下げるんじゃないわよ・・・・・・』
ぽふ。
不意に、亜樹子のおでこが彼の肩にぶつかる。
『・・・・・・所長?』
怪訝に思う照井竜にそのまま抱きつく亜樹子。
『・・・・・・お願い、約束して。本当に、絶対に生きて帰ってくるって』
亜樹子は呟く。
その声は震えていた。
涙と嗚咽混じりの、か細い声。
『・・・・・・所長』
『お父さんが帰ってこなくて、竜くんまで帰ってこなかったら、私、私・・・・・・』
何か恐ろしい夢でもみた子供のように。
何か悲しい話を聞かされた子供のように。
亜樹子はただ彼の胸に泣きつく。
『う、うう・・・・・・』
『・・・・・・』
照井竜はそんな亜樹子を優しく抱き締め返した。
『・・・・・・知らないのか、所長?』
そして、子供をなだめるような優しい調子で彼は呟く。
『?』
そしてほんのかすかに笑みをつくり、
『俺は、死なない』
無骨で無駄のない彼には似つかわしくない、取るに足らない冗談を言った。
『・・・・・・バカ』
亜樹子は竜の胸に顔を埋める。
『約束だよ、竜くん・・・・・・絶対に、絶対に帰って来てね?』
『・・・・・・ああ、約束だ』
妻・亜樹子の言葉に夫・照井竜は静かだが力強く応えた。