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Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)

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世界の平穏とその犠牲




「・・・・・・桐嶋藤次を倒してきたのか。・・・・・・負けることは予想していたが、思ったよりも早かったな。・・・・・・検体番号68番は、・・・・・・ああ、なるほど。照井竜が復活したのか。・・・・・・ふむ、それならば合点がいく」
祭司服の男・宮部総一は以前に翔太郎たちと出会ったときのような低く厳粛な声色で何やら呟いている。どうやら声に出して呟くことによって状況を整理し自分の推測をまとめているらしい。
「あ、あんたが、誘拐犯、サイレント・キーパーだってのか・・・・・・?」
「そうだ」
未だ困惑のなかにいる翔太郎の質問に宮部は躊躇なく答える。
「・・・・・・私は桐嶋と同じミュージアムの研究員だった。・・・・・・主な研究テーマはガイアメモリの廃棄処分認定製品、通称リジェクトメモリの再利用・再調整方法の探究とその考察。・・・・・・もっとも研究の規模や成果が小さすぎて上層部には正確に認知されていない部署だったがね。廃棄処分一歩手前のメモリのデータをこっそり集めて細々と研究していたんだ」
戸惑っている翔太郎をよそに宮部は相変わらずの低い声で話す。
「・・・・・・今回の誘拐は、風都の引いては世界中の人間を幸福へ導くためにどうしても必要な犯行だった」
「幸福へ導く? どういう意味だい?」
混乱中の翔太郎に代わってフィリップが宮部に質問する。
「・・・・・・君がプロジェクト"W"の中核、園崎来人か。・・・・・・お初にお目にかかる。私は元ミュージアムの研究者で、」
「質問に答えたまえ。あと今の僕の名前はフィリップだ」
宮部の言葉を遮るフィリップ。宮部は軽く肩を竦める。
「・・・・・・ここにいる人々は、我々が独自の検査結果から選定した実験の被験者たちだよ」
宮部は何てことない調子で説明した。
「実験? 一体何のだい?」
「・・・・・・とあるガイアメモリの調整実験。私のメモリなのだがなかなかパワーが強力でね。その調整結果をみるためには実践する前にどうしても簡単な人体実験をすることが不可欠だったんだ」
「・・・・・・罪もない人間を、ドーパントの試運転の餌食にしたのか・・・・・・?」
宮部の事務的な説明にようやく反応する翔太郎。
「・・・・・・誤解しないでほしい。これはあくまで実験だ。その証拠に誰の命だって奪っちゃいない」
宮部は落ち着いた口調で言葉を続ける。
「・・・・・・被験者となる人間は私と桐嶋が長年研究をして編み出した算出法で選び、任意同行あるいはやむを得ずは拉致させてもらった人間たちだ。その"拉致の部分"が今回の誘拐事件として世間をざわつかせてしまった。・・・・・・そのことについては謝る。本当に申し訳ないことをしたと思っている」
宮部は本当に申し訳なさそうに頭を下げる。しかしすぐに起き上がり、
「・・・・・・しかし、この実験を経て私のメモリが完全に機能すれば、世界の大多数の人間が幸せになれる! これは保証する! そして私は、この計画の成就のためならばこの身がどうなったって構わない!」
真っ直ぐとダブルへと向く眼差し。
「・・・・・・」
翔太郎にはその眼光に心当たりがあった。
自分の弱さを自覚しながらも必死で闘った真倉。
傷だらけになりながらもダブルのサポートにやってきた照井。
宮部の眼はそれらと同じ輝きを放っている。
彼の眼差しはどこまでも真剣だった。
「あんた・・・・・・」
「だからお願いだ、仮面ライダー。どうかこの世界の平穏のために、私にもう少しだけ時間をくれないだろうか?」
「・・・・・・」
翔太郎は考える。この宮部が語っている"計画"というものがどんなものを挿しているのかは正直分からない。しかし、分からないからと言ってそれを頭から否定するのは違うのではないか?
この眼の光。これは今日に限らず何回も目にしてきた強い意思の光。こういう目をする人間に嘘偽りは一切ない。分からないというのなら、まずは理解するところから始めてみればいい。彼の話をきくだけでも―――、
「よく言うね」
そこまで考えていたら、フィリップの声が翔太郎の思考を分断した。
「それじゃあここの人たちのこの不自然すぎる眠りはなんだい? 君のメモリの能力がどんなものかは知らないが、それに耐えるために薬を使って人間をこんな全身麻酔みたいな深い眠りにおとしてしまえば、大なり小なり何らかの後遺症が出るに決まっているだろう!」
フィリップの口調は、宮部を糾弾するような攻撃的な声色が含まれていた。
「・・・・・・」
宮部は再び沈黙する。さっきまではっきりと見えていた彼の眼が、今はこの薄暗い空間に遮られよく見えない。
「君はそのことを知りつつ実験を行った。被験者たちがどうなろうとも、君は君の計画のために、それによって人が傷つくことになろうとも、そんな犠牲を厭わず自分の信念を貫くという大義名分のもとにそれを実行した! ―――それでも君は、自分が潔白だと言い張れるのかい?」
ここで何日も閉じ込められて、無理矢理実験につき合わされている人間たち。フィリップはその人たちのことを棚に上げて『世界の平穏』を謳う宮部のそんな矛盾点を指摘した。
「・・・・・・否定はしない」
フィリップの問いにあくまで厳粛な調子で答える宮部。そして、
「・・・・・・しかし、これらの犠牲は計画成就のためには瑣末な出来事だ」
どこまでも真剣な、それでいてどこか空虚な表情で自分の罪を棚に上げた。
「瑣末な出来事、だと・・・・・・?」
フィリップの言葉の反芻に宮部は、ふむ、と答える。
「実験には多少の犠牲は付き物。君も科学者ならばこの鉄則を理解しているはずだ。・・・・・・確かに彼らには申し訳ないことをしたとは思う。しかしそれによって全人類が救われるのならば、―――それは悪いことだろうか?」
最後の問いかけは、ダブルに対してのものではない。"己が正しいのだ"という再確認のための強調表現。
「犠牲になってくれた彼らの実験データは、もう私のメモリへとフィードバックされている。故に彼らの苦痛やトラウマは一切無駄にはならず私のなかで生き続ける!」
その眼の光は、この街を守るために尽力しているものと同等の眼差し。
自分のことを信じて疑わない強い信念。己の裡に見出した太陽を観測し続ける純粋な心。
たとえその太陽がまっ黒くても、その心は『己が正しい』と詠い続けるだろう。
「ざけんなっ!!」
その宮部に吠えたのはさっきまで戸惑っていた左翔太郎。
「あんたの、お前のやっていることは決して許されることじゃない! ここにいる人たちはあんたの実験の道具になんてなりたくはなかったはずだ! そのことを棚に上げて世界の幸福がどうとかをいう資格はお前にはない!」
「・・・・・・だから否定はしない、と言っている」
宮部は祭司服の袖の下から小さな機械を取り出す。
ガイアメモリ。
「・・・・・・メモリの調整は完全に終わっている。そして私の意志は変わらない。・・・・・・どうしても私の往く道の前に立ちはだかるというのなら、私は衝き貫いてでも前に進ませてもらう!」
「・・・・・・どうやら、話し合いの余地はなさそうだ。どうする、翔太郎?」
フィリップは相棒に質問する。
「決まってきっているぜ、相棒。こいつはここで倒す!!」