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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 8

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第27章 義の海賊


 ある小さな村のある夜、長閑な村は一変した。
 家々から金品や食料をせしめた海賊達が次々に出てくる。家の者は皆怯え、されるがままになっていた。
 中には勇敢にも海賊に立ち向かう者もいた。しかし、喧嘩慣れした海賊にはかなわず、一殴りで倒されてしまった。
「お頭、大体のブツは集まりましたぜ!」
 海賊の一人が頭に報告した。
「よぉし、次は東の村からいただくぞ!」
 海賊達は現れた時同様突然去っていった。
 別な村でも略奪の限りを尽くした。目に付く家に強盗に入り、金目の物は盗みに盗んだ。しかし、全部は盗まない、必ず少しは残していく。それは頭の命令によるものだった。
「てめえら、あんまり派手にはいただくなよ!」
「へい!」
 その村からも半分くらいで盗みを止め、村を後にした。
 その次の村にも出没し、海賊は名乗りを上げた。
「おらおら、海賊チャンパのお出ましだ!」
    ※※※
 アラフラの町、オセニア大陸で最も発展を遂げた町である。同じ町の名を冠しているが、マドラと比べるとその広さは倍に近い。
 町の東側には港も備えられており、町の規模はアンガラ大陸のトレビの町にも匹敵するほどであった。
 港には船が停泊している、しかし普通のオールで漕ぎ進むそれではない。船体に立てられたマストに帆を張って風の力で進む帆船という船である。風の力のおかげでオールで漕ぎ進むよりも遙かに早く海を進むことができるのである。
 しかし、この船は様子が違っていた。
 マストが折れているのである。例によって大地震の津波の影響で港の沖の方で岩礁に激突した際にマストは根元から折れてしまったのだ。
 それから船は波に運ばれ、アラフラの港に流れ着いた。そして辛うじて皮一枚で繋がっていたマストは完全に折れてしまった。
 今、その船はその持ち主たる海賊チャンパの拠点となっていた。
「た、大変だ〜パヤヤーム!」
 海賊が一人大慌てで頭のいる船室に駆け込んだ。
「何だ、騒がしいな…」
 パヤヤームと呼ばれた海賊の頭は昼寝をしていたらしく、寝覚めでなんとも嫌そうな様子で応じた。
 パヤヤームは長身で、やや癖のある髪型をしている。海賊らしいチョッキを羽織っており、露わになった腕は筋骨逞しい。海賊の頭と言うからにはさぞ頑強そうな強面を想像してしまいがちだが、彼は違っており、意外にも優しい顔立ちをしていた。
「で、何があったんだ?」
 パヤヤームは欠伸をして訊ねた。
「町長です、マドラの町長達がアラフラへやってきたんでさあ!」
 パヤヤームはばっと起き上がった。
「何だって、そいつは一大事じゃねえか!」
 恐らく、いや、必ずマドラの町長はパヤヤームを捕まえに来たのだ。ここを見つけられれば確実に捕らえられる。
「まずいな、やっぱ町を襲撃したのはヤバかったか…」
「どうしましょう?」
「こうなった以上は仕方ねえ、マドラの町長どもが来てもいいように準備しておけ!」
「へい!」
 パヤヤームは戦う準備をする事にした。マドラの町長といえど、力での勝負であれば負けるわけがない。
 それにしても、とパヤヤームは思う。意外と小さな町だと思って甘くみていた。今までは報復されても大したことのない小さな村ばかり狙っていたが、あの時は本当に見誤ってしまった。小さくても町は町である、報復する力は少なからずあったのだ。
「ちきしょう、せっかく小さな村だけを襲ってたのに!」
「あの、パヤヤーム」
「何だ、早く戦いの準備を…」
「前から一つ気になってたんですが、どうして小さな村から、それもちびりちびりと盗んでたんですか?」
「町じゃあマドラみたいに報復にあうしな、それに少しづついただけば奴らの物も残るからちょっとは諦めがきくだろう?そうやって報復を防いでたんだ」
 海賊は納得した。
「なるほど、やっぱりパヤヤームあったま、い〜い!」
 気分を良くしたパヤヤームは笑った。
「ははは、まあ、そういうこった。さあ、準備するぞ!」
「へい!」
 パヤヤーム達が船室を出ようとすると、部屋の前に見知らぬ者達が立ちふさがっていた。
 その内の一人、赤毛の少女は言う。
「な〜にがあったまいい、よ。ただの悪知恵じゃない!」
「な、何だてめえらは」
 すると答えの代わりに黒髪で軽装の男がパヤヤームの胸倉を掴んだ。
「てめーがパヤヤームか、てめーのせいでなあオレは二日も臭い飯を食う羽目になったんだよ!ぜってーてめーにも食わしてやっからな!」
 落ち着けシン、とガルシアは二人を引き離した。
「すまない、パヤヤームと言ったか。俺達はお前のせいで濡れ衣を着せられた者の潔白を晴らしに来た。抵抗しなければこちらも手出しはしない」
 ガルシアは事を穏便に済ますべく、言った。
「濡れ衣?知るかそんなもの、お前たちマドラの町長に雇われた戦士だろ!」
 海賊はまるで聞き入れようとしなかった。そんな海賊をパヤヤームは落ち着けた。
「あんたらの用事はそれだけかい?」
 パヤヤームは訊ねた。
「んなわけねえだろ!てめーをふん捕まえて牢屋に送ってやる!」
 シンが答えた。するとパヤヤームはふっ、と笑った。
「そうかい、なら俺達も従うわけにはいかない。あんたらを全力で追い払う」
 パヤヤームは海賊が持って来た剣を受け取った。鞘から抜き放つと上下左右に振り回し、見事な剣の舞を披露した。剣の腕前はかなりのようだった。
「…どうしても戦うのか?」
 ガルシアは訊ねた。
「ふん、洒落臭い。さっさと剣を抜きな」
 ガルシアは言われるままに剣を抜いた。するとパヤヤームはニヤリとし、大声を出した。
「来い、野郎ども!」
 声を聞きつけた外の海賊達が一斉に船内に集まり、ガルシア達を囲んだ。
 数で攻めるというつもりらしかった。
「ちょっと、こんなに大勢で来るなんて卑怯じゃない!」
 シバは言った。
「卑怯?集団戦法と呼んで欲しいな、かかれ野郎ども!」
 パヤヤームの合図と共に、海賊達は一斉にガルシア達に攻めかかった。 攻め寄せる群衆の中でガルシア達は背中合わせになり迎え撃とうとした。
 海賊の剣がガルシア達に迫った瞬間、群衆の間に閃光が走った。閃光が数度煌めいた後、群衆は全て倒れた。
「残念だったな、オレは一対多の戦いが得意なんだよ」
 短剣を抜きはなった姿のシンが現れ、言った。
 シンが集団を全て倒した事で、残ったのは頭のパヤヤームと海賊の幹部のみとなった。
「ぐぬぬぬ…」
 パヤヤームは歯噛みした。
「さあ、残ったのはてめえらだけだぜ?」
 シンは更に迫った。
「仕方がない、俺達が直々に相手してやる」
 パヤヤームは剣を構えた。両隣の海賊達も同様にした。
 互いに刃を向け、その間に一瞬緊張が走った。その緊張を振り払うかのようにパヤヤームは大声を出した。
「行くぞ!」
 シンもそれに続いた。
「返り討ちにしてやる!」
 戦いは始まり、シンはパヤヤームに、ガルシア達は海賊に攻めかかった。
 ガルシアのシルバーブレードと海賊の剣がぶつかり合った。互いになかなかの手応えを感じた。剣の腕前はほぼ互角であるように思われた。
 ガルシアと海賊は互いに距離を取った。剣は届かない、ガルシアは海賊に向かって手をかざし、詠唱した。
『スパイア!』