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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 8

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第29章 真実の真実


 ヴァンパイア、月夜に獣の姿となる者達である。そういった能力を持った人間であって彼らは魔物の類ではない。エナジストと似たような特殊な能力を持っているだけなのだ。
 その昔、はるか昔の事であるが、彼らは普通の人間と共存していた。共に歩み、共に食べ、共に寝、共に生きてきた。そこにはヴァンパイアという特別なものは全く関係がなかった。ただ普通の人間同士の生活が営まれるだけだった。
 しかし、運命とは時として残酷な使命を下す。ある時、悲劇が始まってしまった。
 二人の男が野山を駆けていた。年若い青年である。
「ははは、早く来いよ!オース」
「ま、待てマハ!」
 マハが先に走り、オースが後を追っていた。野山には二人の楽しげな声が響きわたった。
 マハとオースは幼い頃からの親友であった。物心ついてから約12年間、片時も離れることはなかった。共に遊び、共に過ごしてきた。この友情は一生続くものと信じて止まなかった。
 しばらくの間野山を駆け抜けた後、二人は手足を大きく伸ばし、大の字になって草原に寝そべった。
「ふう、いい風だなあ…」
 マハは目を閉じて頬撫でる風を感じた。
「はあはあ、全く、走るのはええよ…」
 オースは顔を汗で濡らし、息をすっかり切らしていた。
「こうもいい風なんだ、走りたくなるだろ?」
「オレは風なんか感じてる暇なかったけどな」
「ははは、じゃあオレが風を起こしてやろうか?」
「ああ、できんのか?」
「冗談だよ」
「だろうな」
 二人笑い合った。
 マハはこんな事を言ったが、冗談などではなかった。彼には不思議な力があった。風を操る力である。この力は幼い頃から備わっていた力である。マハの他にも一部の者が風を操る力を持っている、更に彼らには共通する所があった。
 マハを含め、風を操る事ができる者達全てがヴァンパイアであった。ヴァンパイアと人は共存していたが、そのことはマハ達は秘密にしていた。獣人化してしまう満月の夜には決して外に出ないようにした。風の力もできる限り人には見せなかった。
 だからこそ人はマハ達ヴァンパイアを恐れることなく共存することができたのだった。
「なあ、オース」
「なんだ?」
「オレ、エアーズロックに行ってみようと思うんだ」
「エアーズロックだって!?」
 オースはばっと上半身を起こした。そして驚いた様子で本気かと訊ねた。
「本気さ」
 マハは草原に寝そべったまま、雲の流れる空を見上げて淡々と答えた。
「けどエアーズロックは…」
 これまでも多くの人間が挑戦していった。しかし、その全てが登ることは愚か、近付くことさえもできずに帰ってきた。中には魔物にやられ、二度と戻ることがなかった者もいた。
 そんな危険な所にマハは一人で行くとまで言い出したのだ。
「お前が行くんならオレも…」
「オース」
 マハは首を振った。お前は来るな、という意味だった。
「どうして?」
「オース、お前には家族がいる。悲しむであろう家族がな。だが、私にはいない」
 マハには家族は無かった。両親は彼が物心つく前に亡くなっている。
「それに、お前にはきっとエアーズロックに登ることはできない、だが、オレなら行ける。そんな気がするんだ」
 マハは言って、体を起こした。
「ずっと行ってみたかったんだ、きっとあそこには何かがある。それを解き明かすんだ」
 マハの目は自信に満ちていた。そんな自信に満ちた目を見てはオースも引き止めることはかなわなかった。
「マハ…、分かったよ。オレはお前を陰から応援する。ただし、絶対に生きて帰ってきてくれよ」
「ああ、どんな事があってもオレは絶対に帰る、約束する」
 マハとオースはお互いの親指を握るように手を携えた。それによって二人は固く約束を交わした。どんな事があっても、何が起ころうとも、必ず無事な姿で戻ると、固く誓ったのだった。
 その次の日、マハはエアーズロックへと旅立った。広い草原を歩き、川を渡り、広大な砂漠を行き、エアーズロックへたどり着いた。
 風で寄せ集められいつしか固まった砂でできた起伏の激しい道をマハは一人進んだ。自らに宿る風の力を使い、スピンストーンにより力を増大させ行く手を阻む砂を吹き飛ばす。そのようにして岩山へ近付き、登っていった。
 途中何度か魔物に襲われることがあった。鳥型の魔物に岩を登っている間につつかれたり、平地に立てば人型で二足歩行の犬が手にした剣で襲いかかってきたりした。
 マハも負けじと戦った。もとより腕っ節には自信があった。護身のために出発する際にナイフを持って来たが、それは使わず、素手で魔物に対峙した。人殴りで犬の魔物を追い散らし、同時に現れた鳥獣を拳と風の力で打ち倒した。
 若干の傷を貰いながらもマハは魔物を全て倒し、先へ進んだ。進むにつれて感じる風の力はだんだんと強くなっていくのがよく分かった。
 先述の通り、マハを含め、ヴァンパイアは皆風を操ることができる。しかし、その中でも特に大きな力を得て生まれたのはマハのみであった。彼の作り出す風は他の者よりも圧倒的に大きかった。一時はヴァンパイア達の間で天才だとか神童だとまで言われた。自分でもどうしてこれほどの力を得て生まれたのか、分かりかねるものだったが、天才とまで呼ばれて気分を良くする自分が確かにいた。
 いつしか大人のヴァンパイアは期待を込めるようになった。マハならば風の大山、エアーズロックを登ることができるのではないかと。その期待に応えるかのようにマハの力は成長とともに更に大きなものとなっていった。
 ある時、マハの父親がエアーズロックに挑んでいった。彼は自らの子が神童などともてはやされているのが気に入らなかった。生まれながらにして親を凌ぐ風の力を受け継ぎ、エアーズロックを極めるであろう者として期待される息子が憎くて仕方がなかった。
 マハの父は周りの人間やヴァンパイア、自身の妻が止めるのも聞かずにエアーズロックへ旅立っていってしまった。自分は息子より優れている、必ずやエアーズロックを登り、極め、息子には決して劣らぬ事を証明すると告げて。
 実際、マハの父はそれなりの力を持っていた。しかし、何週間とたっても彼は決して戻ることは無かった。それはエアーズロックを極める事はかなわず、彼の死を表す事であった。
 マハの母は夫を失った悲しみにより、病に倒れ、間もなく亡くなった。
 それから時は流れ、十年の歳月が過ぎた。マハは17歳になった。父の仇などではない、自分のために、母を病に追いやった父への仕返しのために彼はエアーズロックへ挑むことにしたのだった。
 長い長い岩登りの末にマハはついに頂上へとたどり着いた。頂上の地面には穴が空いており、そこを行くと遺跡となっていた。
 宙に浮かぶ不思議な部屋、そこからは大きな風の力を感じた。あそこに行けばきっと何かがある、そう確信できた。
 マハはあの部屋へ行くべく遺跡中を歩いて回った。あの宙に浮かぶ部屋へ行く方法はきっとある、そう信じてあらゆる所を探し回った。そうしてとうとう見つけた。
 竜巻の形になった石のオブジェ、トルネードロックの前に横たわる精霊像、これが空中の部屋に運んでくれるような気がした。
 マハはトルネードロックに手をかざし、詠唱した。