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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 8

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『スピン』
 トルネードロックが反応し、光の玉が一瞬発生し、渦を巻いた。次の瞬間、竜巻が発生したかと思うと何もない空間に雲が出来始めた。
 雲は雷雲と化し、轟音と共に精霊像へ落雷した。
 眠っているかのように見えた精霊像はかっと目を見開き、叫び声とともに口を開いた。
 精霊像の口からは風が吹き出ている。マハは精霊像の口へ乗った。ゆっくりと体は上へ持ち上げられていく。そして空間の部屋の前で体は止まった。
 マハが手を触れるだけで重く閉ざされていた扉は開き、彼はその中へ入っていった。
 霧が深く、果てしなく続くような空間の中で、宙に浮かぶ飛び石の先に石版が静かに立っていた。マハは導かれるままに飛び石を渡り、石版へ近付いた。途中飛び石が消えていくのにも気付かずに。
 石版には文字が刻まれていた。風の力を操る者、この石版に触れてみよ、と。
 マハは石版の窪みに手を触れてみた。瞬間、石版とともに彼の体は浮かび上がり、光の玉が彼を包み込んでいった。
 そして一度大きな光が発生すると全ては終わり、マハは石版とともに地面に下りてきた。石版が元の場所に戻るとマハは自分の中に新しい何かが芽生えているのを感じた。
――これは、真実を現す力?――
 マハは感じるままにそれを念じてみた。
『イマジン』
 周囲に虹色の光が包み込むと瞬間にそこは真実のみの空間となった。霧深く、永遠に続いているように思われたこの部屋も真実を現し、至って普通の部屋の姿となった。
「やった、やったぞ…」
 マハは一人歓喜に震えた。
「オレはエアーズロックを極めたのだ!」
 それからマハは半日かけて村へと戻った。村に戻る頃にはすっかり日も暮れていた。
 村に帰ってこの力を見せたら皆は、オースは驚くであろう。伝説となっていたエアーズロックに秘められた真実を見抜く力は本当にあったのだ、それを確かめるに止まらず、手に入れることまで成し遂げたのだ。早く皆に見せたい、皆を驚かせたい。
 マハは皆の顔を思い浮かべてわくわくしていた。そして村にたどり着いた。夕方だけあって外に人はあまりいなかったが、オースを初めとしたマハの友人達はまだ外で作業していた。
「マハ、お前無事だったのか!?」
 マハが声をかけると、オース達は驚いてマハに駆け寄った。そして口々によく帰った、必ず帰ると信じていた、と言葉をかけた。
「当たり前だ、このオレがそう簡単にくたばるかってんだ!」
 マハは笑って誇らしげに胸を張った。
「それで、何か見つけることはできたのか?」
 マハの友人は訊ねた。
「ああ、見つけたぜ。それももの凄いものをな…」
 これもまた誇らしくマハは笑みを浮かべて言った。
「それは何だ、見せてくれよ!」
「へへへ、そう焦るな、今見せてやるよ…」
 マハは勿体ぶった。そして周りの友人達にはやし立てられ、ついにマハは手に入れた力を見せた。
 思えばこれが全ての悲劇の始まりであった。ここで使わなければ、もっと長い間人とヴァンパイアは共存できたのかも知れない。更に言えばマハがエアーズロックを登るのに失敗していれば、こんな事は起こらなかったはずだった。
 マハは念じた。エアーズロックで力を手に入れた時の感覚を思い返しつつ、心を一心に集中した。
 そして全てを解放した。
『イマジン』
 マハは詠唱すると、真実を現す虹色の空間がマハ達を包み込んだ。
「わ、何だこれ!?」
「すごい、全てが見えるぞ!」
 虹色の空間の中では全ての真実が現れていた。地に埋まった物は光り輝き、周りの樽や木箱が透き通り、その中身が容易に見て取れた。
 驚きと歓喜の声を上げる友人達をよそにマハは一人異変を感じていた。
――何だこれは、力が止まらない!?――
 マハからは力が止めどなく溢れている。真実の空間はどんどん広がっていく、ついには家をも見通せるようになり、住人も真実の空間へ入れることとなった。
 住人は家に居ながらも外を見ることができることに異変を感じ、次々と外へ出てきた。
 当然仲間も異変は感じていた。
「おい、マハ、やりすぎじゃねえのか?」
 オースが声をかけると、マハは汗を流して苦しんでいた。
 どうやっても溢れる力を止める事ができずにいた。空間の広がりはまだ続いている。ついには村全体を包み込んでいた。
 上空にも力は及び、夕日は満月となっていた。
「う、うぐうう…」
 マハは苦しそうに膝を付きうずくまった。
「おい、マハしっかり…」
 近寄った友人は悲鳴を上げた。
 マハの姿がどんどん変わっていく、顔は体毛に包まれ、目はつり上がり、鼻と口は突き出ていき、狼のそれと化していった。
 村でも一部の者が変態を遂げていく。真実の空間で真の姿を晒すこととなったのか、それとも夕日が満月に変わったことによるものなのか、計りかねるものだった。しかし、他の村人にとってそれがどちらによるものにせよ、驚異である事は変わらなかった。
 騒然とした村の中で、マハの姿が完全に変わった頃、力の放出は終わった。
「マ…ハ…?」
 オースは声をかけた。マハはまだ顔を下げたままだった。しかし、その顔はゆっくりと持ち上げられた。
「オー…ス」
 そこにあったのはオースの知る顔ではなかった。故に躊躇いなく、オースは言った。
「化け物…!」
「っ!ち、違う。オレは…」
「化け物、うわあああ!」
 オース達は一目散に逃げ出した。
「違うんだ、待ってくれ!オレだ、マハだ!待ってくれ、オース!」
 マハは追いかけようとしたが、多大な力を放出した後の疲労ですぐに転んだ。顔を上げ、前を見ると長年の親友であったオースの逃げる背が見えた。それはどんなに手を伸ばしてももう届くものではなかった。
 それからマハ達ヴァンパイアは村を追われる事となった。
    ※※※
「…遠い昔の話じゃよ」
 白い鬣に真っ白な眉をした老いたヴァンパイア、マハは語った。長い話に疲れ、ため息をついた。白い眉が揺れる。
「ひどい話じゃのう…」
 スクレータは言った。
 話を聞いた皆が哀れみを持っていた。特にジャスミンは涙ぐんでいた。
 再びマハは語り出す。
「それからワシらは村を追われた、じゃが、他のヴァンパイア達はワシを責めるような事はせんかった」
 マハが『イマジン』を手に入れさえしなければ彼らは村を追われることなくずっと人間と共存できていたはずだった。しかし、隠し通せるものではなかった、エアーズロックを極め、『イマジン』を手に入れる事は一族の誇りだと他のヴァンパイアは誰一人として彼を責めることはなかった。
 突然、マハの側で眠っていた子供のヴァンパイアが光り輝き始めた。
「何だ、そいつ光ってるぜ!?」
 シンは驚いて言った。
「ああ、外はもう夜が明けるのじゃろう、この子は人の姿に戻る…」
 マハが説明している間に子供ヴァンパイアは見る見るうちに光に包まれていく。やがて光の中で彼の爪は縮んでいき、口から覗いた牙も人の犬歯に変わっていき、狼のように突き出た鼻と口は引っ込んでいき、顔に生えた毛も無くなった。そして光は止み、小さな少年の姿が露わとなった。
「この通り、ヴァンパイアは人と何ら変わりはないのじゃよ」
「じゃあ、あなたももうすぐ元に戻るのね?」