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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9

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第31章 黒魔術師の誕生


 狩猟採集民族、黒魔術の儀式の準備に慌ただしいキボンボ村。その村に深緑の髪をした中性的な顔とは不釣り合いに筋骨逞しい男がたどり着いていた。
「やっと着いた…」
 ピカードは額から溢れ出る汗を手の甲で拭った。
 ここまで来るのに非常に長い道のりだった。マドラを発って約二日かけてキボンボまでやって来た。険しいゴンドワナの地を一人進み、さらに険しいミング山脈を越えた。
 あまり努力を知らないレムリア人であるピカードが何故ここまで来ることができたのか、それはやはり大切な黒水晶を取り戻したいが為の事だった。
 あれがなければ二度とレムリアへ帰ることはできなくなる。それだけは何があっても嫌だった。レムリアの王と交わした約束を果たすことも、なにも言わずに別れてきてしまった母とも会うことは叶わなくなる、そんな思いがピカードを危険なキボンボ村まで連れ出したのだった。
「一体、僕の黒水晶はどこにあるんだろう…」
 ピカードは辺りを見回した。相も変わらず村人は皆儀式の準備に勤しんでいる。黒水晶は儀式に使われるという以上、誰かに訊くのはまずいだろう。下手をすれば、本来の持ち主はピカードであるが、黒水晶を盗みに来た盗賊として村人全員から攻撃を受けることにもなりかねない。
「しょうがないか…」
 仕方なくピカードは夜を待つことにした。黒魔術の儀式は今宵開かれるという話を村人がしているのを小耳に挟んだのだった。
 ふと、思い出したようにピカードに眠気がした。この二日間寝ずに、急ぐために途中のニリ村にも寄らずにここまで来たのだ。体はとうに疲れきっていた。
 幸いに宿は開いていた。夜まで寝て待つことにした。
「ごめんください、夜までお願いします」
 ピカードは宿屋の主人に代金を支払った。
「おう、まいど!夜までなら半額でいいぜ」
 主人は渡されたコインを半分ピカードに返した。
「ありがとうございます」
「兄ちゃんも儀式目当てかい?」
 本当は黒水晶を取り戻すために来たのだが、建て前としてそうだと答えた。
「今回こそ儀式とやらが成功して欲しいもんだね」
 主人によると黒魔術の儀式はこれまで数回行われてきた。しかし、そのたびに失敗しており、何度となく村人は族長のアカフブに振り回されてきたという。
 どうやら主人は黒魔術の儀式を快く思っていないようだった。その理由として儀式の前後に恐れをなした近隣の村から嫌われてしまうという事だった。
 キボンボは野蛮だなどと言われているが、それは黒魔術の儀式の時だけで本当は村の戦士も村人も争いなど望んでいないのだという。
「なあ、兄ちゃん。あんたどういう目的でキボンボへ来たのかは知らないが、どうか誤解しないでくれないか。本当は誰も悪いことはしたくねえんだ。アカフブ様だって今回儀式に使う宝石をどこぞの町から盗んで来ちまった事を悪いと思ってる。儀式が終わって、宝石が何ともなかったら元の持ち主に返すらしいからな」
 ピカードはえっ、とアカフブが黒水晶を返す意志があることに驚いた。それでももし無事であればの話である。黒水晶が無事で済むという保障がない以上、やはり儀式の前に取り戻さなくてはならない。
「おっと、ついつい引き留めちまった。どうぞこちらへ」
 ピカードは主人に促され、ベッドへ入り眠りについた。
    ※※※
 儀式の夜がついにやってきた。
 ピカードは村のガンボマ像のある広場からするドラムの音や、戦士達が発する祈りの声で目を覚ました。
 儀式が始まる前に黒水晶を取り戻したかったが、その儀式は既に始まってしまった。若干寝過ごしてしまったようだった。
 ピカードは急ぎ宿を出ると儀式の行われている広場へ向かった。しかし、その途中の道は儀式を見守る村人達の人だかりによって塞がれ、とてもガンボマ像までは近付けそうになかった。
 仕方なくピカードは別の道から回ることにした。ちょっとした高台に登り、そこから儀式の様子が見て取れた。
 何とも禍々しい雰囲気の儀式である。戦士達がガンボマ像の周りでドラムを打ち、踊り、野太い声で祈りを捧げている。その中心、ガンボマ像の前で静かに目を閉じ、瞑想している小柄な者、その者こそが黒魔術を狙うアカフブであると想像するのは簡単だった。
 ピカードは目を凝らした。ガンボマ像の真下の台に漆黒の宝石が置かれている。これこそが彼の探す黒水晶に間違いはなかった。
――あった!何とかして取り戻さなきゃ…――
「おい、そこで何してる!?」
 ピカードは驚き振り返った。恐ろしいフェイスペイントをしている、キボンボの戦士だった。
――まずい、どうしよう…――
 ピカードは顔をしかめた。
「見ない顔だな、怪しい奴め。言え、ここで何をしていた。事と次第によっては生かしては帰さん!」
 まさか黒水晶を取り戻しに来たなどとは言えるはずもない。かといってこの者と戦う気もなかった。
「黙っているとはますます怪しい。儀式の妨げになるかもしれん、ここで眠っていてもらおうか!」
 戦士は手に持つ槍の先をピカードに向け、刺し貫こうとした。ピカードは迎撃しようと手を向けた。しかし、普通の人相手にエナジーを使いたくないという思いが彼に手を引かせてしまった。
「死ねえ!」
 矛先はピカードの腹部まで迫った。その瞬間だった。
 真っ黒な影に包まれた人が戦士の背後から飛び出し、ギラリと光る刃で戦士の首を打った。
「ぐう…」
 戦士は膝を付き倒れた。
「安心しな、峰打ちだ」
「君は…」
 明かりに当たり、影の人物は明らかとなった。長い黒髪を後ろで留め、動きやすい軽装で短剣を武器にしている。何よりピカードに向けられる少年らしい笑顔が印象的だった。
「よう、ピカード。久しぶり!」
「シン!」
 シンの後ろから彼の仲間が現れた。
「おうガルシア、いたぜピカード」
 シンはピカードに目を向けた。
「君は」
 シンにガルシアと呼ばれた人物、ピカードには覚えがある。確かマドラの牢屋にシンとともに囚われていたとき、シンを引き受けた人物である。
「一応、初めましてになるか、俺はガルシア。そして…」
 ガルシアは仲間に目を向けた。
「私、ジャスミン」
「私はシバよ」
「スクレータじゃ」
 皆それぞれ名乗った。
「俺達はお前を探していたんだ」
「僕を?」
 何故赤の他人であるガルシアが自分を探していたのか、理由は分からなかった。その理由はシンが教えてくれた。
「オレ達、ピカードに頼みがあるんだ。お前の船を貸してほしいんだ」
 またどういう理由で船を貸してもらいたいのか分からなかった。
「俺達は世界各地にある灯台というものに灯を灯して回っているんだ。今までマーキュリー、ヴィーナスの灯台に灯を灯した。しかし、次の灯台のある場所へ行くにはどうしても船が要るんだ。そこでどうかピカードの船を貸してほしい」
 ガルシアの説明によってどういう理由なのか理解できた。しかし、ピカードにも使命がある。レムリアの王と約束した大切な使命である。おいそれと貸してしまうわけにはいかない。
「残念だけど、僕にもやらなければいけないことがあるんだ。船は貸せない」
 ほぼ当然の答えであった。しかし、ガルシア達もここで引いてしまう事はできない。