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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9

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 ふとシンが思い出したように言った。
「そういやあ、ピカード前に話してくれたよな?お前の旅の目的をさ」
 ピカードが海を漂うシンを助けた時の事である。津波に襲われる前にお互いの事について話をした。その時にピカードは自身の使命を教えた。
 世界中を旅して再びレムリアへと戻るという事である。旅をしてどうするのかまでは聞けなかった。その瞬間に津波に襲われたからである。
「灯台を灯して回るのは世界中あちこち回るのと同じだぜ。だからピカードも一緒に来れば目的も果たせるんじゃないか?」
「僕が、一緒に?」
 思いがけない提案に戸惑うピカードにジャスミン達がさらに誘いをかけた。
「そうよピカード、一緒に行きましょう」
「私達がいればどんな目的だってあっという間に果たせるわよ」
「そうじゃ、ワシも行ってみたいしの、バビ様のいたレムリアへ」
 バビという名にピカードははっとなった。その名には聞き覚えがあった。その昔レムリアから薬を盗み、船も盗んでレムリアを飛び出した者の名前である。レムリアでは罪人として知られている。
「もし、レムリアに行きたいと言うのがそのバビって人のためなら僕はハイとは言えません」
 スクレータは悪いことを言ったかとばつの悪い顔をした。
「いや、決してそういう気はないんじゃ、ただ学者として見てみたいだけなんじゃ。文明の進んだ隠された国をな」
 どうにも信用ならなかった。レムリアでは有名な罪人の従者である学者の言うことである。そもそも一緒に旅するという事自体決まってはいない。しばらく一緒にいたシンの仲間であるとの事だが、やはり信用には値しない。ピカードはマドラに囚われて以来すっかり疑り深い男となっていた。
「ごめんなさい、やっぱりこれは僕の問題です。皆さんの手を煩わせるわけにはいきません。船でしたら他を当たってください」
 ピカードは精一杯の建前をして、ガルシア達の頼みを断った。今はまず黒水晶を取り戻さなければならない、ピカードは駆け出そうとした。
「待って、ピカード!」
 ジャスミンは引き止めた。
「静まれぇ!」
 その瞬間、アカフブの声により儀式のドラムと戦士達の祈りの声は止んだ。辺りは一気に静寂に包まれた。
「これよりガンボマ様に祈りの宝石を与える!」
 アカフブは目を閉じ念じた。
「偉大なる神、ガンボマよ。我が捧げ受け取りたまえ…」
 詠唱した。
『リフト』
 アカフブの前の黒水晶が光に包まれるとゆっくりとガンボマ像の顔の前まで浮かび上がった。
「我が願い、聞きとどけたまえ!」
 アカフブは更にエナジーを発した。辺りが一瞬光に包まれた。
「あれは、エナジー」
 ガルシアがふと呟くとピカードは驚いた。アカフブの発動した一連のエナジーが見えると言うことは、ガルシアがエナジストであることに違いない。
「なんと、あ奴エナジストじゃったのか!」
 エナジストという単語まで出てきた。しかもスクレータからである、彼もエナジストという事になる。
「皆さん、エナジーを知っているんですか?」
 ピカードは訊ねた。
「知ってるも何も、ここにいるみんながエナジストよ」
 シバが答えた。
「なあピカード、奴もエナジストって事は戦いになれば厄介だ。ここは一先ずオレ達と一緒に黒水晶を取り戻さないか」
 シンは言った。何よりもまず、黒水晶がないことにはピカードの船は動きようがない。シンの言うことはもっともだが、ピカードはまだ迷っている。
「あっ、見て、像の目が開いたわ!」
 ジャスミンが指を指した。
「おお、ガンボマ様が宝石に反応されたぞ!」
 アカフブが喜色を浮かべているとガンボマ像の目は再び閉じた。
「まだ駄目なのか…」
 いや、しかし今のはこれまでよりも反応がよかったような気がした。まだ祈りが足りないのかもしれない。
「まだガンボマ様は認めてくださらない、更に祈るぞ、ドラムを打て!」
 再び野蛮な感じのドラムが鳴り響き、戦士達による祈りが始まった。
「事は一刻を争う、儀式が終わってしまう前に何とか取り戻さなければ」
 ガルシアの言うとおりだった。儀式が成功してしまったら黒水晶がどうなるのか分かったものではない。もうピカードに迷っている時間はなかった。
「分かりました。一緒に行きましょう」
「よし、それじゃあとりあえずもっと近付こう!」
 シンを先頭にピカードはガルシア達と共に進んだ。
    ※※※
「あんな単純そうな造りなのに、随分大がかりだな」
 シンは歯車だらけの道を進み、呆れて言った。
 ガルシア達はガンボマ像の内部を進んでいた。一先ず像の裏側へ回った彼らは、何とか黒水晶を取り戻せないか模索した。真っ正面から行けば、儀式を行っているアカフブ達に攻撃を受ける危険性があった。となればどうにか裏手から回って取り戻せないかと探してみた。すると、ジャスミンが古く腐りかけた梯子を見つけた。
 地下へと続く梯子であった。スクレータによるとこれはその昔、このガンボマ像を造る際に地下で作業をするためのものであろうとの事だった。
 ひょっとするとこの地下の道からガンボマ像の内部に入り込み、そこから黒水晶を取り戻す方法が見つかるのではないかとガルシア達は地下へと降りた。
 降りるとそこは直接ガンボマ像の内部へと繋がっていた。そこは見渡す限り歯車のある場所であった。
「何でこんなに歯車ばっかりあるのかしら」
 シバは言った。一見全く意味のない所に歯車がある。それこそどの歯車とも合わさっていない、独立した歯車がひとりでに回っているのが目立った。
「妙じゃのう、歯車とは本来かっちりと合っているものなんじゃがのう」
 スクレータも不思議に思っていた。
 その後ガルシア達は更に奥へと進んだ。上手く歯車の間をすり抜け、先を急いだ。
 進んでいると、明らかに今までとは違う歯車を見つけた。それだけエナジーの干渉を受けた物体のように虹色に輝いている、それが二本の棒に挟まれていた。
「これは何でしょう、光ってますね」
「それだけじゃないわ、不思議な感じが伝わってくる」
「エナジーの類のようだが…」
 ピカード、シバ、ガルシアは輝く歯車をよく調べた。
 ガルシア達は知り得なかったが、これは黒魔術によって造られたからくりであった。歯車は黒魔術の力によって回っており、これはガンボマ像の生命力を表していた。意思こそないが、ガンボマ像は黒魔術で生きているものなのである。
 この輝く歯車こそがガンボマ像の心臓であった。これだけがその他の歯車とは逆の方向に回っている。
「とりあえずこの挟まってる棒を何とかしよう、ジャスミン、頼む」
「任せて兄さん」
 ジャスミンは棒の前に立ち、『プレス』を発動した。歯車の挟まる棒を叩き潰すと輝く歯車は自然にゆっくりとスライドした。そしてすぐ側の歯車とぶつかると、歯がかっちりと合い、歯車の回転を逆にした。
「逆になったわ、何か起こるのかしら」
 しかし、しばらくしても何の変化も示さない。
「…何も起こりませんね」
 ピカードが言うと突然上の方から梯子が下りてきた。歯車を逆回転させた事によって新たなからくりが動いたようだった。
「こいつを上りゃあ像の顔の辺りに入れるみたいだな」
 シンは梯子を見上げた。