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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9

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第33章 封印の戦士再び、赤毛の少女の苦悩


 果てしなく続く夜空は、大海原を暗黒に染め上げている。
 満月に近い月が、その姿を漆黒の海面に映していた。何千年も、何万年も、月はこうして世界の闇を照らしてくれていたのだ。
 漆黒の大海原に船が一艘航海していた。荘厳な作りで、船首はドラゴンの頭を模している。船には帆もなければオールもない。では何で進むのか、古より造られしレムリアの船は乗る者の精神力、すなわちエナジーによって海原を行くのである。
 エナジーで進むとは言ってもそれによりエナジーが消費される事はない、船に搭載された特殊な装置が乗組員のエナジーに反応し、それを動力に変換して進むのである。
 故に夜でも舵を取ることなく自然に船は進んでくれる。乗組員は夜通し舵を見張る必要はなかった。
 この船の持ち主、アンガラ大陸一の町、トレビの支配者バビよりこの船を授かったエナジスト、ロビンとその仲間達はウェイアード極東の列島、ジパン島イズモ村を目指し旅をしてきた。
 長い間共に旅してきたイズモ村の住民、リョウカの切なる願いにより彼らはそこを目指していたのだった。イズモ村へ航海を始めて、約二週間が経とうというところだった。
 季節は秋に差し掛かり、夜も長く感じられるようになった。ほぼ満ちた月に満天の星空の見える船の甲板に、真紅の長い髪を持つ少女が夜空を眺めていた。
 リョウカは腰元まで掛かる髪を夜風に靡かせながら、物思いに耽ったように目を閉じた。その手には彼女の兄であるシンの遺していった短剣が握られている。
 ゴンドワナ大陸のヴィーナス灯台での戦いの際、シンは償いの意志を込めて自ら海へ身を投げた。彼が死んでからリョウカは初めて兄がどれほど大切な人であったか、掛け替えのない家族であったかを悟った。
 運命というのはどうしてこうも残酷なのであろうか、人は自分にとって本当に大切なモノはなくさなければ分からない。あって当然、居て当然だと思ってしまっている人や物はどうしても本当の大切さには気付けないのである。
 リョウカは今まさにそうであった。ある日突如としてシンは村から姿を消した。誰に何を告げることもなく、忽然と消えてしまったのだ。
 シンが家に帰らないという事はその時まで一度としてないことであった。シンとリョウカの姉はもう子供ではないと特に心配している様子はなかった。もとより極めて冷静な人物であり、表には出さないだけで本当はとても心配していたのかもしれなかったが、リョウカにはそうは見えなかった。
 シンは姉に村の長、ウズメに言付けを頼まれたのを最後に姿を消した。ならばウズメなら何か知っているのでは、とリョウカはウズメの元を訪ねた。
 ウズメはシンがどうなったのか知っていた。そして告げるのだった。
 シンは村を抜け出した。
 村を抜け出すということはどういう事か、イズモの民ならば皆が知っている。二度と村に戻ることは出来なくなるのだ。再び姿を現そうものならばすぐに死罪となる。
 更にシンはどこで得たのか、近い将来村に災厄をもたらすであろう魔龍、オロチを倒す唯一の剣、『あまくもの剣』がかつて西の大陸で発見されたという事を知っていた。
 シンはその話を信用し、伝説の剣を探しに行くと言い出したのだった。
 しかし、後にウズメの占いにより重大な事実が発覚した。
 伝説のあまくもの剣を手に入れる為には地の灯台というものに灯が灯っている必要があったのだ。更に悪いことがあった。その灯台こそがオロチを復活させる全ての元凶だったのだ。
 ウズメの占いでは更に深くは見ることができず、暗躍する真の元凶は見通せず、オロチの復活はシンが元凶となるように見えてしまったのだった。
 そのことをウズメはリョウカに話してしまった。黙っていれば、オロチは復活してしまう。そして何より兄の行方を追求するリョウカの強い気持ちに押し負けてしまったのだった。
 リョウカにとってかなりの衝撃であった。そして裏切りを受けた気持ちになった。
 ずっとリョウカは兄を信じていた。妹や姉を守ってくれて、村のためにもよく働いてくれた。時には自分に小さないたづらをしてくることもあった。彼がどんな事をしても自慢の兄だと誇りを持っていた。
 そんなシンが村を滅ぼすような事をしようとしているという。リョウカの心には最早尊敬などなくなった。あるのは怒りや恨みの念だけであった。
 リョウカはその後、村を災厄へ陥れようという大罪人、シンの討伐に自ら名乗り出た。そして彼を追って旅をしたのだった。
 そして今、ヴィーナス灯台での戦いは終わり、シンは今や帰らぬ人となっているはずだった。
 夜風に靡く髪を押さえ、リョウカは暗い海を眺めた。
――兄様、今兄様は、この海のどこにいるの…?――
 涙が頬を伝った。
「やあ、まだ起きてたんだ」
 後ろからの声にリョウカははっとなって涙を拭った。
 声の主はこの船の船長を名乗り、これまでずっと共に旅をしてきた金髪碧眼の少年。
「ロビンか…!」
 リョウカは驚きのあまり声が上擦ってしまった。
「どうしたのさこんな時間に、眠れないのかい?」
 ロビンは笑いかけた。
「ん、ああ、まあな…」
 リョウカは再び海へ視線を移した。ロビンはリョウカの手元の短剣が目に入った。
「まだ、シンの事…」
「………」
 沈黙が流れる。
「…無理もないよな、まだそんなに時間が経ってないし」
「………」
 何を話してもリョウカは海へ視線を移したまま、振り向こうともせず何も言わなかった。
 年相応の小さな背中から悲哀の気持ちが伝わってくるようだ、ロビンは思うのだった。
 大切な人を失う悲しみはロビンには本当によく分かる。父のドリーに幼い頃に亡くし、先日シンと同時に旧友のガルシアを失ったばかりであった。
 気持ちは痛いほどによく分かる。やはりそっとしておいてやろうかと、ロビンは船室へ戻ろうとした。
「ロビン」
 リョウカは呼び止めた。ロビンが振り返ると、リョウカは既にこちらを向いていた。
「私は自ら討滅者となる事を選んだんだ、いつまでも悲しみを背負っているわけにはいかない」
 強がっているのが見え透いていた。しかし、同時に自らにそう言い聞かせているようでもあった。
「私は私の使命を果たしたまで…」
 リョウカは振り返り、シンの短剣を海へ投げ捨てようとした。
「そんな事をして後悔しないか?」
 ロビンに言われ、リョウカははっと、手を止めた。
「そんな事をしたら余計に悲しむことになるんじゃないのか?」
 リョウカはロビンを向いた。ロビンは穏やかな顔をしている。
「大丈夫、もう使命感にとらわれる必要はないさ。シンはそんな君を救うために自分で死んでいったんだろう?」
 リョウカはまた涙がこみ上げてくるような気がした。流れる涙をロビンに見せまいと急いで船室へと駆け込もうとした。
「リョウカ」
 呼び止められ、振り向かずに止まった。
「明日にはイズモ村につく」
 ロビンはそれだけしか言わなかった。リョウカは船室へ駆け込むのだった。
    ※※※
 東の水平線から太陽が顔を出し、闇に包まれた漆黒の大海原は青へとその色を変えていく。
 イルカの群も楽しげな鳴き声を上げ、飛び跳ね飛沫をあげる。