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どっちが子供?

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少し年上の余所者。
 姉貴風を吹かす割には、これが実に頼りなくて危なっかしい。
 散歩に来ただけって。墓場に・・? 此処は静かに見えて物騒な所なのに、武器も持たない女が一人、馬鹿じゃないのって思うよ、全く。
 自分がどんなに危険なことをしているのかって自覚も無いくせに、年上ぶって気に入らない。
「エース! みんなが捜していたから下りてきて頂戴。一緒に帰るわよ」
「何だよ、散歩って言ったくせに。俺の事捜しに来たのかよ!」
「そうじゃないわ。此処には本当に散歩に来ただけよ。貴方が声を掛けてくれなかったら、通り過ぎていたもの」
「ふぅん。でもやだよ、俺はもう少し此処に居たいんだ。一人で帰るから、放って置いてよ」
「一人でって、貴方、此処から美術館まで真っ直ぐに帰れる?」
「・・・ ・・・・・ 君、俺の事馬鹿にしてるだろ? あんなところ、に・・三・四時間帯もあれば・・」
「~~~~ ふつうはそんなに掛からないわ。ほら、一緒に・・」
「煩いな! 君が此処に居るのなら、俺が他の場所に移るから!」
「!」
 驚くほど身軽に木の枝から飛び降りたエースは、一目散に森の方に向かって駆け出した。アリスも慌てて追いかける。彼を見失って何処かに隠れられたら、ジェリコもユリウスも一層自分たちの時間を割き捜索することになるのだ。ただでさえ多忙な彼らのために、此処はアリスも頑張るしかない。
 と、全速力で追い掛けたものの、見事に森の手前で姿を見失ってしまっていた。
「エース! 隠れていないで、出ていらっしゃい!!」
 アリスは、自分でも無駄な掛け声だなと思いつつ、それでも呼びかける。彼の足なら、もう既に森の端辺りに行き着いてしまっているかもしれない。そうでなくとも、この付近に居る可能性は極めて低いと思われる。日差しは零れてくるものの、昼の時間帯だというのに森の中は静かで薄暗い。時々、道の端に大きな穴が口を開けていた。まさか落ちていないだろうが、念の為覗き込み、声を掛ける。彼女の中の何処かにある恐怖心を抑え込むためにも、掛け声は必要なのだった。
 歩き易い小径ではなく、茂みなども念の為探りながら歩く。そんなアリスの気配に驚き飛び立つ鳥の鳴き声と羽音に体が固まった。暫くすると、止めていた息をそっと吐き、また小走りで森の奥へ進む。
 途中で、小径を横切っていた太い根に躓いて倒れた。
「痛っ。」
 これで何度目か、膝と脛に幾つかの擦り傷が出来ている。これ以上は深追いしない方が良いのかもしれないと、アリスは立ち上がり来た道を戻ろうかと振り向いたところで夜が来た。
 夜の森に一人。尋常ではないくらいに心細い。これでは、ジェリコやユリウスに面倒を掛けるのはエースだけではなくなってしまう。それどころか、夜になっても戻らないアリスの方を皆は心配するだろう。救いは、今来た道を真っ直ぐに戻るだけで墓地の方へ戻れるということだった。夜の墓地なんてぞっとしないが、あれは自分の知る墓地とは違う。
 ゆっくりと森の中を進み始めた。目が慣れたとはいえ、足元さえはっきりと見えない闇だ。その上、根に躓いて転んだ時に足首を軽く捻ってしまったらしかった。ズキズキと痛む片側の足を引き摺りながら、思わず呟いてしまった。
「エースの馬鹿!」
 それは、先程の小さいエースに言ったのか、ハートの城でいつも絡んできた大人のエースに向けて言ったのか、言ったアリス本人もよく判らない。それでも、今は、元の世界のエースが居ればいいのにと思った。
(この状況なら、あんな男でも居ないよりはマシっていうか、それだけよ)
 とにかく出来るだけ早くこの森を抜けたくて、急ぐ。


「全く! なにやってんだか!?」
 エースは足元を見下ろして呆れた。
 捕まえて連れて帰れると、本気でそう思って追い掛けてきたのだろうか、この余所者は。こちらの見た目が子供だから、保護者にでもなったつもりで? それで勝手に付いてきて、連れて帰るとか言っておきながら、こいつが転んだり、、転んだり、転んだり、転んで足捻ったり、滑って落ちたり・・
「馬鹿は君の方だろ!?」
 カンテラの明かりに浮き上がるエースの独り言が洞窟内に響く。
 アリスの両脇に手を入れ引っ張ること数回、やっと彼女をテントに収容した。一つしかない寝袋を彼女に掛け、エースは火を起こすと沸かした湯で携帯していたココアを作り、非常食をポリポリと齧る。その表情は詰まらないとか、面白くないと言いたげだ。彼にしてみれば、そうだろう。
 最初は余所者から逃げていたが、途中からこっそりと木の上や、背後から様子を窺っていた。こんなに近くに居るのに全く気付きもしないで自分のことを探し回る彼女を面白がっていたのだ。適当なところで帰るだろうと見ていたら夜を迎えてしまった。流石に不味いと、慌ててアリスに声を掛けたら反対に驚かせてしまい、この森の下の洞窟に繋がっている穴に落ちてしまったというわけだった。
「ちくしょう・・」
 小さく呟く。彼女が自分の所為で怪我をし、穴に落ち気を失ったというのに、抱き上げて連れて帰ることすらできない。これがユリウスなら、ジェリコなら、そう思うと無力さを感じる。認めたくないが、まだ、庇護される年齢なのだ。それをまざまざと思い知らされた。
 ごそごそとテントの中に入り、眠るアリスを見る。早く目覚めればいいのに、そう思って隣に横になると、じっと顔を見た。薄暗い明りの中で、彼女の白い顔から、初めて見る女性の寝顔から、目が離せない。なんだか体がもぞもぞと変な感じがする。
「う・・・ マジでやばい」
 エースはアリスに背を向けた。大人だったら、大人だったら・・・ こんな時だってきっと平気なんだ・・・

 温かくていい匂いがする。知っているのに、何の匂いだったか思い出せない。エースはゆっくりと目を開ける。
「おはよう、エース。捕まえた!」
 直ぐ目の前で微笑むアリスに驚き飛び起きた。気持ちは。実際は、彼女の腕に捕らわれていて、起き上がれない。
「~~~~~~っ!?」
 照れ臭過ぎて、ギューッと両手でアリスの体を押し返す。それがなんだか異様に柔らかい感触で、直ぐに手を引っ込めた。
「エース、いやらしい~~~」
「なっ、俺は! 態とじゃないぞ。い、いやらしいとか言うな!」
 真っ赤になって放せよと言っているエースを、彼女はくすくすと笑って見ている。これは・・全く異性として見られていないのだと直ぐに解った。なんだか腹が立って、無性に悔しい。
「エース、ありがとう。お蔭で助かったわ」
 急に真面目な調子で言われて、え? と顔を上げると、アリスが微笑んでいる。ぎゅっと抱き締められた。
「目が覚めた時に貴方の顔が見えて、安心したら泣きそうになっちゃった」
 アリスの声と匂いで、エースの心臓は今にも飛び出しそうで、頭は爆発しそうだった。そっとアリスの背中に腕を回してみる。ユリウスとは全然違う安心感だとか、癒され感だ。
 アリスが甘くて柔らかいのは、俺のため、だよね?
作品名:どっちが子供? 作家名:沙羅紅月