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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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あなたと会える、八月に。

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第3章 15歳



◆1

 もちろん、ロザリアにしても、そして両親にしてもあの美しい青年とまた会いたい気持ちがあったからこそ「来年の八月十六日も」と誘ったわけだが、最初はそれほど固執していたわけではない。だいたい、気に入ってしまえば毎年の夏は常宿として定まったホテルに少なくとも一ヶ月は滞在するのだから、当然会う顔ぶれも決まってくる。件の老婦人にしてもロザリアは次の年にも見かけたし、他にも知った顔は多くある。たまたまその滞在期間において十六日というのがちょうど中程にあり、再会のセレモニー−−長逗留の退屈をしのぐためのイベント−−として格好な日にちだったに過ぎない。
 しかし、一方で彼に対する興味は尽きず、いけないことと知りながら、どうやらロザリアの父は『ジュリアス』という彼の青年について多少は調べてみようと思ったらしい。夏のホテルで出会った人間のことを調べるなど、愚の骨頂だと父とてわかってはいたのだろうけれど。
 それというのも、あのロザリアが十二の夏、休暇から戻った彼らを迎えたロザリアの乳母であるコラにジュリアスについて話して聞かせたとき、彼女は「まったく、あなた方はそんなどこの誰ともしれない若者を食事に招くだけでなく、海辺のテントにまで入り込ませるとは」と言い放ったからである。
 傍から見ればまさにコラの言うとおりであり、カタルヘナ家の面々は人に説明するまでもなくその顔や地位を知られているけれど、主星のほとんどの有力者と面識のあるロザリアの父ですら、彼のことはまったく知り得なかったのである。
 それに、あのホテルにおいてジュリアスが泊まっているのは海に面した最上階のスイートルームだった。それはロザリアの父が予約済みと断られた部屋であり、来年こそはと思ってコンシェルジュに尋ねると、彼は心底すまなさそうにこう返した。
 「あの部屋はずっと予約済みなのです。申し訳ございません」
 今いる部屋自体、何の遜色もなかったので、ロザリアの父はそれ以上固執しなかったが、たぶんこの海岸周囲でも抜きん出た格式とサービスを誇るこのホテルのスイートをおさえ続けるあの青年の背後を知りたいと思うのは、人情としてわからなくもない。
 けれど、カタルヘナの名をもってしても、ジュリアスについて調べきれなかった。あれほどの気品と美しさを兼ね備えた人間のことがわからないなどということは考えられない。だから他の星の、たぶん高貴な地位にある人だろうという程度に結論づけるしかなかった。もしもこれが仕事上のことであればロザリアの父も満足することなく調べ続けるだろうが、もともとが野暮な行為と自覚したうえでのことなので、それ以上深入りすることはなかった。ただ、ジュリアスを直接見ていないコラからは、「ほうらね、あやしいこと」と言いたげな顔をされることに甘んじなければならなかったけれど。
 それでも、カタルヘナ家の夫婦とその娘と、ジュリアスとは一年に一度、八月に会い続けていた。というのもジュリアスは、コラの心配を払拭させてしまうほど、彼らに対し媚びるという態度を示さなかったからだ。相変わらず情け容赦なくロザリアの父をチェスで叩きのめし、ロザリアの母の「海洋療法へ一緒に行きましょうよ」という誘いに一度は乗ったものの受付で、全裸にされて全身妙な緑色の泥−−海藻パックだが−−で塗りたくられると説明を受けたとたん、「遠慮する」と愛想無く言い捨ててホテルへ帰っていった。それでなくとも、海岸にいてもずっと長袖でいるような人物だから、あのように他人に肌をさらけ出すということがどうやら我慢ならなかったらしい。そしてロザリアに対しては……二十分のタイムキーパー役はいまや完全に彼の役目となっていた。ジュリアスは父より厳しい、と十二歳のときロザリアは思ったが、それは十三歳、十四歳と年を経て、海水に浸る時間が二十分から三十分へと延長されてもなんら変わりなかった。そのころにはもうロザリアも、あの海の上の小屋あたりまで泳げないことはなかったけれど、中途あたりで折り返さないと「早く戻れ」というジュリアスの怒号は海の上まで聞こえるのだ。だからやはりまだ小屋にはたどり着けないでいた。もうちょっとで到着できるのに、小屋でたっぷり休憩を取って戻るからジュリアスには文句を言わせないのに、とロザリアが不機嫌そうにしてテントに帰ってくると、今度は母の代わりに「淑女たるもの、そのように口をとがらせてはいけない」と注意される始末だ。



 もっとも、ジュリアスは厳しいだけではない。
 そのうち街に出て散歩することもあり、安物のアクセサリーやみやげものを扱う店の前でロザリアが、年相応の可愛いデザインの髪ゴムを見たものの、一方で子ども扱いされることが嫌さに黙って行こうと思ったとき、「欲しいのか?」と声が掛かった。
 頬を赤らめロザリアは「いらない」と言った。「もっと良いものを買いなさいと言われるわ」とも。そう、ちょっと可愛いなと思っただけなのだ。けれど実際には『良い』髪留めは往々にして海に浸からせることはできない。長い髪をまとめるものが欲しかった。三つ編みにすると後の髪の始末に往生する−−ロザリアの髪の面倒は万事コラが見ていた−−ので、やりたくはなかった。
 「では、私から無理矢理あてがわれたことにすれば良い」
 そう言うなりジュリアスは、おおよそ彼に似つかわしくない店に入り、さっさとロザリアが目に止めた髪ゴムを買ってきて彼女に渡した。
 「十六日を祝ってくれる礼とするには、あまりにも安価だがな」
 そう言って笑ったジュリアスの顔を、なんて素敵なのだろうとロザリアは思わずぼぅっとして見つめた。何か礼をしたかったのだと、ジュリアスは苦笑して続けた。感謝しているけれど、どう返してよいものかわからなかったとも。
 結局その夏の間、ロザリアは数個の髪ゴムを使って海を満喫した。父からはおもちゃのような、と笑われたが、母はさまざまな彩りの髪ゴムを、うらやましそうに手に取って見ては微笑んだ。
 「こういうものは、楽しいのよね」
 そのとおりだ、とロザリアは思った。キラキラしたものを見るのは、子どもっぽいことだと思う一方で惹かれるものがあるし、自分で選ぶにしても、そのささやかな思いに気付いて買ってくれるという行為自体が嬉しいのだ。
 それは次の年にもあり、ロザリアの呼ぶ『夏の小箱』には髪ゴムのコレクションがずいぶん貯まった。コラはそれを見るとカタルヘナ家のお嬢様がするような代物では、と顔をしかめるけれど、ロザリアは気にしなかった。