瀬戸内小話3
玩具
硬い掌を取り、節くれだった指をひとつ、口に含む。
潮と血の匂いが染み付いているはずのそれは、何の味もしない。ただ、ざらついた感触とほのかな温もりだけを与える。
「……楽しいか?」
男が問う。
「別に」
頭を退き、上唇だけを爪に乗せ応える。男の手に己の息が跳ね、少しばかり不快になる。
人の顔を見ていた男は、そうか、と頷いて人の髪を梳く。
頬に掛かっていた髪が耳朶の後ろへと追いやられ、男の露わな胸元が視界に広がる。
「なぁ、指だけでいいのか?」
剥き出しの胸が上下して、誘う。いや、求める。
「……よくないのは、貴様であろう?」
「まあ、そうなんだけどよ」
肩を軽く竦めるのに、胸筋が揺れる。
また、男の指が頬に触れると、ぐいと胸元のその下へと頭を押しやられる。
「我慢できぬのか」
「ああ、出来ねぇよ」
だから、こっちを舐めてくれよ。そう熱を孕んだ声で訴えられては、少しばかり苛めたくなる。
「こまった男よ」
鼻を鳴らして笑うと、息が掛かる男の雄が打ち震える。
「くすぐってぇ」
「贅沢を申すな」
褥に肘を突き、起立したものの傍に顔を寄せるだけで眺めてやれば、座ったままの男は不満そうに人の髪を引く。
「なぁ、元就…」
「黙っておれ」
爪で弾けば、ふるりと震え。まるで男の訴えを体現するかのようなそれに、仕方ないとまた笑う。
「くすぐってぇって」
人の吐息に、鬼がたまらないと情けなく泣いた。