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瀬戸内小話3

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死に行く人へ



※伊達と毛利で、微妙に死に話。


 日の本の国で、多くの血が流れたのはほんの数年前のこと。
 戦国の世で天下を望んだ多くの武将らが、己の力のみを信じ戦い続けた、まさに祭りの季節。武士らは血に酔い、夢に溺れ、数多の命が失われた。
 それも、今となっては昔のこと。
「……昔話をしに来たのか。わざわざ中国まで」
 酔狂なことだと、元就は笑う。
 ――中国の雄は世の情勢を見きるのも早かった。中央で豊臣が織田を破り、武田を傘下に加えたのを見届けると、四国を手土産に豊臣に下った。それが、豊臣が上杉に決戦を挑む後押しとなったと人々は言う。事実、後顧の憂いのない豊臣勢は、あっという間に戦上手の上杉を飲み込んだ。
 そこには戦術など存在しない。ただの兵力の差。
 東で天下を狙っていた伊達家が豊臣に下ったのは、それから1年と経たない頃だった。
「No,アンタの顔を見に来たのさ。……倒れたって聞いたぜ?」
 それからすぐに秀吉は征夷大将軍として、日の本の主となった。以来、些細な騒乱はあれど、この国では平穏が続いている。毛利も伊達も少しだけ領地を減らしながら、それぞれの地で繁栄し続けている。
 それは、家と領地を守る棟梁にとってはとても大事なこと。だが悔しくないかと聞かれれば、今もはらわたが煮え繰り返る。いま少し、あと数年早くこの世に生まれていたら、天下を取ったのは己であったのに、と。
 そんなまだ若い竜の悔言は、元就の苦笑を誘う。しかし、今日はそんな話をしに来たわけではないらしい。
「耳の早いことだ」
「で、どうなんだよ。ただの過労か? それとも……」
 遠く奥州まで届いた噂だ。それに乗せられて出向いてみたが、当の本人が風邪程度ならば笑い話で済む。
 むしろそんなジョークを聞きたいと願う男の前で、年齢不詳の人は首を振った。
「我は十二分に生きた」
「……そう、か」
 舌打ちして、堪らずに顔を覆う。四国の鬼と妙に気の合う奥州の竜は、すべてを失うことで自由を得た鬼が外洋へと旅立った後も、何かと中国へと文を送り足を運んできた。
 それはまるで、鬼の代わりだといわんばかりに。
「もう、次に逢うこともあるまい」
 言の葉に、もう来るなと告げてやる。彼らがどんな約束をしたか、元就は知らない。
「貴様も、伊達の為に生きよ」
「こういうとき、なんと言っていいか分からないが」
 淡々と己の死を見つめる人の顔には、何ら焦りも憤りも見られない。だから、慰めなど必要ないのだろう。だが、己の胸がちりりと痛む。
「……元親に、知らせなくていいのか?」
「どこに居るかも知れぬ相手に、何を知らせろと? 大体、我はあやつの仇よ」
 呆れたと鼻で笑う元就に、政宗は頭を掻く。
 元親が海に出てから、早幾年。たまに届く便りは、政宗以外にも送っているだろうに。
「うちから船を出すより、あんたの船を出したほうが早い」
「必要ない」
 ひとつ頭を振って、もう一度、否定の言葉を呟く。伏せられた瞳が上げられたとき、佳人は静かに笑った。
「必要ないのだ。飛び立った鳥に、鎖をつけてどうする。貴様とて、再び大地に戻る気はないであろう?」
 だから、文は出さない。死んでも何も告げなどしない。
「……だから、貴様も奥州へ戻れ。鬼には、何も知らせるでないぞ」
「俺が元親に恨まれるぜ……」
 溜息を吐き、撤回を求める。そんな政宗に、元就は咳きをひとつ落とすと、また首を振る。
「そのくらい、誼で許せ」
「……OK,分かったよ。アンタに敵うはずもない。だから、もう二度と来ないし知らせない。それで安心してくれるか?」
 それに、初めて元就は頷きを返す。それが、きっと政宗の見る最後の元就の姿になる。
「だけど、元就サン。アンタは、まだ静かに眠れねぇぜ」
 郡山城を辞した後、急ぎ瀬戸海に向かい船を雇う。政宗の文が、元親の手に届いて間に合うかどうかは、賭けに近い。それでも。
 本当は誰よりも鳥になりたかった人の最期くらいは、願いをかなえてやってもきっとバチは当たらない。

 空を舞う鳶の声が、青空に響いた。



作品名:瀬戸内小話3 作家名:架白ぐら