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りんはるちゃんアラビアンパロ

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言葉足らずは誤解のもと



街はまるで迷路のように小道が入り組んでいる。
建物は五、六階建てが多い。
道を行き交う人々の肌の色や髪の色は様々である。
あたりに隊商宿がたくさんあり、他の地域の人々が商いなどの理由でこの国を訪れている。
この国はまずまず豊かである。
前王と現王の治世が良いのも豊かさの理由のひとつだ。
今、太陽は沈んでいる。
太陽が沈むと一日が終わって新しい一日が始まる。
強烈な太陽の光から解放された安息の時間帯である。
しかし、あたりはにぎやかだ。
路上に店がいくつも並び、大鍋で料理が作られ、売られている。
この国では自宅で料理せずに市場で売られているものを買うことがよくある。
マコトは店を軽くのぞきつつ道を歩いていた。
なにかいいものがあれば、家にいる弟と妹に買って帰ろうと思っていた。
マコトは裕福な商家の長男である。
やがて継ぐために家業を手伝っている身だ。
「マコちゃーん!」
明るい声が背中に飛んできた。
マコトは足を止め、振り返った。
そして、近づいてくる者たちに優しく微笑みかけた。
ナギサとレイだ。
ふたりともマコトより一歳年下だ。マコトと同じ学校に通っていたのが縁で友人となった。
ナギサは天真爛漫な笑顔をマコトに向け、レイはきりっとした顔つきでいる。
外見も内面も正反対のようなふたりだが、よく一緒にいる。
ナギサが口を開く。
「食べるもの買うの?」
「そのつもり」
「僕たちもなんだ」
レイがうなずく。
その横でナギサがぴょんと跳ねた。
「今日の僕のおすすめは、あのお店!」
明るい笑顔で指さすと同時にナギサはその指さすほうへと走っていく。
無邪気なナギサの行動を見て、マコトは軽く笑い、レイはかけているメガネを押さえた。
ナギサおすすめの店のそばまで進んだとき。
「あ」
マコトは道行くひとびとの中に知った顔を見つけた。
「ハル!」
声を張りあげ、呼びかけた。
無表情でいた顔が少し動いた。
その眼が向けられる。
「……マコト」
そう名をつぶやくと、近づいてきた。
ラクダをつれている。
マコトの近所に住む幼なじみのハルカである。
ハルカは商家の一人娘だ。
両親は商いのため国から離れ、長旅に出ている。
家に残ったハルカはマコトの家の経営する店を手伝ったりしている。
近づいてきたハルカを見てナギサは嬉しそうに笑う。
「ハルちゃんも来たんだー」
「家に帰る途中だった。たまたまだ。そっちは待ち合わせていたのか?」
ハルカは男のような話し方をする。
もちろん、そんなことには男三人は慣れている。
「ううん。僕たちも、たまたま」
そうナギサは答えてから、なにか思い出したような顔になり、付け足す。
「あ、レイちゃんはたまたまじゃなくて、僕が誘いに行ったんだ」
ナギサの隣でレイがうなずく。
その様子をハルカは黙って見ている。
ハルカは言葉が少ないほうである。
そんなハルカにナギサが問いかける。
「ハルちゃん、家に帰る途中って言ったけど、ラクダつれて、どこに行ってたの?」
ハルカがマコトのほうを見た。
その視線を受け止めて、マコトは微笑んだ。
「……もしかして泳ぎに行った?」
マコトは推測を口にした。
ハルカは少し眼を見張った。驚いているらしい。
それから、ハルカはマコトから眼をそらして、うなずいた。
泳ぎに行ったというマコトの推測は当たっていたのだ。
見事に言い当てられてハルカは驚いたようだが、長いつきあいなので、この程度ならマコトにとっては簡単なことである。
ハルカは大の水好きだ。
心ゆくまで自由に泳げる泉でも見つけたのではないかとマコトは思う。
「泳ぎに行ってたんだ。ハルちゃんらしいね」
「そうですね」
ナギサとレイが言った。
ふたりともハルカが大の水好きであることをよく知っている。
「……あ」
ふと、ハルカがなにかに気づいたような表情をした。
「泉で会ったの、どこかで見たことある顔だと思ったら……」
ひとりごとのようにハルカが言う。
やっぱり泉に行っていたのかと思いながらマコトは話の先をうながす。
「泉でだれに会ったの?」
「王様」
「「「え!?」」」
三人分の驚く声が重なった。
しかし、ハルカは平然としている。
無表情で、たいしたことでもないように言う。
「どこかで見たことのある顔だと思ったら、国王だった」
「そりゃ見たことあるよー」
「あるに決まってます」
「……ハル」
どうやらハルカは泉に泳ぎに行って国王に会い、そして相手が国王だと気づかないまま帰ってきたらしい……。
「ハルちゃんって天然だよねー」
「天然すぎる気がしますが……」
「それで、ハル、王様に会って、なにもなかった?」
なにしろハルカは相手が国王だと気づいていなかった。
失礼なことをしなかったか、国王の怒りに触れるようなことはなかったかと、マコトは心配する。
ハルカは答える。
「一緒に泳いだ」
「ああ、ハルちゃん泳ぎに行ったんだからねー、って、ハルちゃん、泳いだって、そのままの格好で!?」
「まさか」
「じゃあ、下着姿で!?」
ぎょっとした様子で問いかけるナギサに対し、ハルカは無表情のままうなずいて見せる。
ナギサはマコトとレイのほうを見た。
声をひそめて、ふたりに話しかける。
「ハルちゃん、あるほうじゃないけど、真っ平らってほどでもないから、マズくない?」
「……そうですね」
レイは頬を少し赤らめている。
マコトは視線を泳がせていた。
そうか、国王のまえでハルカは下着姿で泳いだのか……。
幼なじみとして、ハルカにはもう少し危機感を持たせるようにしたほうがいいかもしれない。そう思った。
「でも、王様がハルちゃん並みに水泳バカだったら、水濡れの下着姿の女の子が眼のまえにいてもぜんぜん気にならないかも」
「そうですね。それに期待しましょう」
レイとのやりとりのあとナギサがふたたびハルカのほうを向いた。
「それで、ハルちゃん、王様と一緒に泳いで、他に、なにもなかった?」
ナギサにしてはめずらしく、無理に作ったような、ぎこちない笑顔である。
どうやらナギサでも聞くのがちょっと恐いらしい。
他? というようにハルカは小首をかしげた。
国王と会ったときのことを思い出しているようだ。
そして。
「あ」
なにか思い出したらしい。
まだ、なにかあるのか。
三人の男たちは緊張し、ハルカが話すのを待つ。
ハルカは無表情のまま言う。
「胸をさわった」
「胸をさわった、って、ハルちゃん、だれが、だれの胸をさわったの!?」
「王様が、俺の胸をさわった」
「王様がハルちゃんの胸をさわったのおおおおおおっ!?」
ナギサの声は絶叫に近く、あたりに響き渡った。
当然、まわりにいた者たちの耳にも届いた。
その大声と内容に驚いたのか、物を落とした音があちらこちらからした。
「……破廉恥な!」
顔を赤くしてレイが言った。
その近くで、マコトはハハハハ……と力なく笑った。