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りんはるちゃんアラビアンパロ

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王宮にて



街の中心に宮殿がある。
王の住まう場所だけあって壮麗な建物だ。
宮殿の謁見の間で、リンは他国の王子と会っていた。
太陽が天頂をくだり始めてからしばらく経った暑いころではあるが、宮殿内はこの時刻でも過ごしやすいように色々と工夫がされている。
リンに他国の王子が言う。
「このまえお頼みしたこと、聞いていただけますかな?」
王子といってもリンより一歳年上である。
ニッと一点の曇りもない笑顔。きたえているリンよりもたくましく大きな身体。
サメヅカ国の王子ミコシバだ。
リンは王としての威厳を漂わせたまま丁寧に答える。
「それについては妹の意向を尊重します」
ミコシバに頼まれているのは、リンの妹ゴウとの結婚を認めてほしいということである。
だが、認めてほしいもなにもミコシバとゴウはそういう関係にない、ミコシバの一方的な片想いなのだ。
「では、妹君の意向は?」
「その気はないようです」
バッサリと断ち切るようにリンは告げた。
「そうですか……」
ミコシバの視線が床へと落ちた。
しかし、それはほんの一瞬のことだった。
「では、妹君の気持ちが私に向くようにがんばります!」
ミコシバは手を拳に握り、元気良く宣言し、豪快に笑った。
なんでこのひとはこんなにポジティブなんだよ。
リンはイラッと来たが、その気持ちを表に出さないようにつとめた。

王との謁見が終わり、ミコシバは従者のニトリをつれて廊下を歩いていた。
ニトリが思わずといった様子で言う。
「美人でしたね……(国王が)」
ミコシバが返事をする。
「ああ、美人だな(王妹が)」
実は話が噛みあっていないことにふたりとも気づいていない。
そんなふたりの横を、駆け抜ける者がいた。

「王! 大変です!!」
国王として次の仕事をしようとしていたリンのもとへ、長い袖のガウンを着た恰幅のいい初老の男性が大慌てでやってきた。
この国の重臣のひとりである。
リンは厳しい表情になり鋭い声を飛ばす。
「何事だ!?」
まさか、他国が攻めてくるとかか!?
悪い想像をして、リンの身体に緊張が走る。
他国とはできる限り友好関係を保つように心がけているし、友好関係をどうしても保てない冷たい関係の国に攻めこむ口実を与えないようにもしている。
それでも、攻めてくる可能性はゼロじゃない……!
リンの頭はすでに攻めてこられた場合どう対処すればいいかを考え始めていた。
けれども。
「街で、王について、とんでもないウワサが広がっています!」
「……へ? ウワサ?」
重臣が言ったのは予想外のことで、リンは拍子抜けした。
「そうです」
しかし、重臣はやたらと深刻な様子でうなずいた。
リンは眉根を寄せる。
「なんだ、その、とんでもないウワサとは?」
「はい、それが……」
なぜか重臣はリンから眼をそらした。
気まずそうである。
「なんだ? 話を続けよ」
「その……、王が……、王が泉で会った乙女を襲った、とか……」
「はああっ!?」
リンは驚き、大声を出した。
「だれが、だれを襲ったってーーーー!?」
「だから、その、王が、泉で会った乙女を、ですね……」
「ねぇよ! 心あたりが、ぜんっぜんねぇ! 濡れ衣だ!! どこのどいつがそんなこと言ってんだよ!?」
「それは、ハルカという名の娘が」
「ハルカ?」
「王に胸をさわられたと」
「……あ」
リンは思い出した。
王という立場をつかのま離れて自由になりたくて、泳ぎたくなって、馬を駆ってオアシスを目指した。
そのオアシスで、ひとりの娘と会った。
名をたずねたら、たしか、ハルカと答えた……。
「心あたりがあるようですね」
重々しく重臣が言った。
リンの眼が泳ぐ。
「……いや、あれは、その、襲ったわけじゃ……」
もごもごとリンは言い訳する。
それに対し。
「でも、胸をさわったんですね?」
重臣の追求は厳しい。
胸をさわった。
事実だ。
リンの顔は真っ赤になる。
手にあのときの感触がよみがえったような気がする。
そんなリンを重臣がじいぃぃぃっと見ている。
視線を感じて、リンはハッと我に返る。
たしかに自分はあの娘の胸をさわった。
けれども、それは、あの娘が自分の手を引き寄せて胸をさわらせたのだ。
それが事実なのだから、自分の無実を主張したい。
だが。
しかし。
そんなこと言えるわけねぇだろおおおおおお!!!
そんなことを言えば、今度はあの娘が責められる。
どう考えても天然ゆえの行動だったのに、あの娘はまわりから淫乱の烙印を押されかねない。
「……お、俺は、む、む、胸をさわっただけ……」
「しかし、ウワサというものは尾ひれのつくものです。私は王が胸をさわっただけだと仰るのであればもちろんそれを信じますが、街の者たちはどうでしょう?」
街のウワサでは俺はあの娘を手籠めにしたことになってるんだろーな……。
そうリンは想像した。
「責任を取らないのですか?」
「責任……」
問いかけられ、リンは考える。
なんといっても自分は今この国の最高権力者だ。
やろうと思えば、ウワサを踏みつぶすこともできる。
だいたい街に広がっているウワサのほとんどは事実ではない。
ただのウワサだとはねのければいい。
そう思う。
でも。
泉で会った娘のことを思い出す。
その泳ぎは速かった。
綺麗だった。
水の精霊かと思ったぐらいだ。
胸の中で、思い出が跳ねた。
ハルカ。
心が焦れる。
王としての立場をつかのま離れてオアシスを目指したときのように、求める。
水、を。
あれは、俺の、水、だ。
そう直感した。
リンは重臣の顔を真っ直ぐに見て、告げる。
「出かける。悪いが、このあとの予定は延期にしてくれ」
「はい」
重臣は笑って返事をした。
「あとのことはおまかせください」