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りんはるちゃんアラビアンパロ

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俺のバカみたいな夢



宮殿には中庭が三つある。
三つとも広くて趣向がこらされている。
その中の一つの横をリンは歩いていた。
中庭は白大理石が敷かれていて、中央には貯水池があり、夕刻にはまだ早い太陽の光を浴びてきらめて見える。貯水池の両側には生け垣があり、その緑が美しい。
リンが歩いているのは、金銀細工の装飾がほどこされた列柱が何本も並び、列柱のあいだの上部が半円を描いた壁でつながっている回廊だ。
他国の大使との会見を終え、謁見の間から出てきたところである。
国王らしい立派で華やかな装束を身にまとい、威風堂々を歩く。
半歩下がったところに二十以上年上の文官がついてきていて説明をしている。
これから政務会議があり、その議題について伝えているのだ。
議題となるのは一つではなく複数あり、どれもが頭を悩まされる内容である。
会議は長引くだろう。解決せずに終わるものもありそうだ。
さらに会議が終わっても、眼を通しておきたい書類が山のようにある。
文官の話を聞きながら、リンは、俺を殺す気か、と言いたくなった。
だが、その言葉を口から出さずに呑みこんだ。
自分が忙しいように、まわりの者たちも忙しいのを知っている。
いや、まわりの者たちが忙しいのは自分のせいであることを知っている。
リンは政務会議が行われる議会場の扉のまえで足を止めた。
ついてきている文官も立ち止まった。もう説明は終わっている。
「……いつも」
真っ直ぐまえを向いたまま、表情を崩すことなくリンは低い声で告げる。
「俺のバカみたいな夢につきあってくれて、ありがとう」
夢は語るだけなら簡単だ。しかし、夢を実現するのは難しい。
自分の壮大でバカみたいな夢にまきこまれて、つきあって、まわりの者たちは頭を悩ませ忙しく働いている。
そのうえ、国王にも息抜きが必要だろうと、泳いだり外に出かける時間を作ってくれたりもする。
それをリンはわかっている。
感謝している。
「そうしたいから、そうしているだけです」
文官が丁寧な口調で応えた。
「みんな」
そう続けた声は温かかった。
リンは扉のほうを向いたまま、少し口角をあげた。
扉が開けられる。
リンは中へと進んだ。
議会場もまた広大である。
天井は頭上のはるか高いところにあり、色鮮やかにして精緻な模様が描かれている。
国王が入場すると、中で待っていた者たちが恭しく頭を下げた。
この国の最大の権力、それに伴う責任が、リンの肩にのしかかってくる。
リンは一切臆さず、自分にかかってくる重圧をまわりの者に感じさせずに、威厳を漂わせて歩く。
議会場には、街のウワサをリンに伝えた重臣もいる。あのとき、ハルカのもとへ行くためにリンが延期した予定の処理を引き受けてくれた。笑って、送りだしてくれた。
祭のときもそうだ。
国王として出席しなければならない場面が終わると、リンがお忍びで街の中へと出かけるのを見て見ぬふりをしてくれた。
あのとき、ハルカに会ったのは偶然だった。
あれだけたくさんのひとが行き交っている中、ハルカが自分のいるほうに向かって歩いてきているのを見つけたときは驚いた。
そして、嬉しかった。
運命だと思った。
嬉しくて、バカみたいに嬉しくて、なにも考えずにハルカをつかまえて、その手を引っ張って塔までつれていった。
塔につれていったのは、見せたかったからだ。
自分の好きな景色。
それから、自分の夢を話した。
さらに、ふだんは口にしないようにしている弱音のような本音まで、なぜか、話した。
だが、結局は。
王妃にはならない。
そうハルカは断言した。
あのとき、リンは言い返したかった。言い返そうとした。しかし、できなかった。
ただのひとがいい。そう言うハルカの気持ちも理解できるから。
もう会わない。
そう決めた。
リンは悠然と席についた。
玉座と呼ぶにふさわしい席である。
その席から、会議の出席者たちを鋭い眼で見渡した。

でも。

やっぱり。

あともうひとり、自分のバカみたいな夢につきあってもらいたい。

王妃になれと言われて、贅沢ができると喜ぶような女は自分には向かない。
その責任の重さを考えて迷うぐらいのほうがいい。
だが、そんなことは後付けの理由でしかない。
重臣から街のウワサを聞いて、責任を取ると決めて街へと出かけたのは、直感に従ったからだ。

泳ぎてぇ。
そう思うのと同じように、思う。
会いてぇ、と。