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弓道はるちゃんとその彼氏

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前日



土曜日の夕刻。
鮫柄学園水泳部の本日の練習は終わった。
凛はシャワーを浴びてから、ロッカーで髪をタオルで拭いていた。このあとドライヤーで乾かすつもりだ。
近くに似鳥がいる。髪をドライヤーで乾かしていて、いつものおとなしい感じとは違い、なかなかワイルドな髪型になっている。
そこに。
「松岡」
部長の御子柴がやってきた。
笑顔である。
似鳥がドライヤーを止めた。ドライヤーの発する音が邪魔になるのではないかと気をつかったのだろう。
御子柴は凛に言う。
「明日はオフだが、松岡は家に帰るのか?」
その眼は輝いている。なにかを期待しているような眼だ。
一方、凛は顔に笑みをまったく浮かべず、じっと御子柴を観察する。
そして、低い声で素っ気なく告げる。
「その手紙を妹に渡してくれってことなら、お断りします」
御子柴はガッシリとした大きな身体を大きく揺らした。かなり驚いた様子だ。
「な、なんでわかったんだ!?」
その手には淡いピンク色の封筒があった。
御子柴は封筒の裏側が見える形で持ってこちらへとやってきたのだが、その封筒の裏に赤いハートマークのシールが貼られて封されている。
それを見てラブレターだろうと凛は推測した。そして、御子柴は凛が家に帰るのかと聞いたのだ。御子柴は凛の妹の江に絶賛片想い中である。
御子柴は封筒の表を見せた。
江君へ、と書いてある。
やっぱりか、と凛は片方の眉をつり上げた。
御子柴は自分の所属する水泳部の部長であるが、まだ高校一年生の可愛い妹に手を出したがっている図体のでかい高校三年男子でもある。
要警戒対象だ。
凛は厳しい顔で、突き放すように言う。
「妹はだれかを経由してでしか手紙を渡せねぇような男は相手にしません」
「そうか! わかった!」
けれども御子柴は落ちこむことなく、明るく元気な声をあげる。
「じゃあ、明日はおまえが家に帰るのについていこう!」
「絶対ぇイヤっス!!」
間髪入れずに、凛は語気荒く拒否した。
似鳥が眼を丸くしている。
さすがに部長に対してふさわしい態度ではなかったかもしれない。それに、自分は地区大会で勝手なことをして迷惑をかけたという借りがある。
凛は険しくなっていた表情を少しゆるめた。
「明日は県の総合体育館に行くんで、家には帰りません」
「総合体育館? なんのために行くんだ?」
「ハル、いや、七瀬が試合に出るから、その応援っス」
「七瀬君は岩鳶高校の水泳部員だったよな。明日、総合体育館で水泳の試合があるのか?」
「水泳じゃなく弓道です」
それから凛はふたたび七瀬と言おうとして、しかし、その呼び方にはなじまない感じがして、それに自分たちが付き合っていることを御子柴も知っているので、ハルと呼ぶことにする。
「ハルは弓道も得意なんっス。県の弓道連盟が主催の高校生を対象にした大会が明日あり、その団体戦にハルが出場するっス」
「すごいですね」
似鳥は素直に称賛した。
だが、御子柴は首をかしげる。
「団体戦って弓道部のチームじゃないのか? 水泳部員が混じってていいのか?」
こういうところは強豪校の部長らしい。
「参加資格に弓道部員であることとはされてねぇそうです」
凛は説明を続ける。
「もともとは岩鳶の弓道部員だけのチームで出場する予定だったのが、故障者が出て、ハルは弓道部員に頼まれて試合に参加することになったそうっス」
「助っ人ってヤツだな」
御子柴に対し、凛はうなずいて見せる。
それから、眉を少しひそめた。
「なんか、めんどくせぇことになってるらしくて」
「めんどくさいこと、ですか?」
「なんだ、それは」
「岩鳶の弓道部の女子部員のひとりが、弓道の試合で知り合った他校の弓道部の男子部員と付き合うようになって、でも、その男子部員は以前、同じ高校の弓道部の女子部員と付き合っていて、その元カノが岩鳶の女子弓道部員たちを目の仇にしてるらしいっス。試合とかで会うと、嫌がらせをするとか」
「こ、恐いですね……」
「だから、おまえはおまえの彼女の応援に行くのか?」
御子柴はよく通る声で、調子を強めて、問いかけてきた。
それに対して。
「はい」
凛は決然と答えた。
遙が嫌がらせを受けるかもしれない。
だったら、自分は守りに行く。
御子柴は愉快そうに笑った。
それから、くるりと身体の向きを変えた。
「おい、みんな!」
御子柴はロッカーにいる鮫柄学園水泳部員たちに呼びかける。
「明日、松岡の彼女が弓道の団体戦に出る。みんなも岩鳶高校との合同練習で会ったことのある、七瀬君だ」
水泳部員たちの視線を集めながら、堂々と、威厳すら漂わせて、御子柴は話す。
「試合会場は県の総合体育館だ。明日、有志で応援に行こう!」
御子柴は拳を高々と突きあげた。
予想外の展開に、凛はぎょっとした。
だが、そんな凛をよそに、水泳部員たちは御子柴に応えるように「おー!」と声をあげつつ拳を突きあげる。
「凛先輩! もちろん僕も行きますよ!」
近くで似鳥が握り拳を肩のあたりで上下に振りながら、力強く言った。
意気込みを感じる。
「あ、ああ、そうか」
勢いに押されるように凛はわずかに身を退いた。
なんでこんなことになった。
水泳部員たちが盛りあがっている一方で、当事者の彼氏である凛は戸惑っていた。










作品名:弓道はるちゃんとその彼氏 作家名:hujio