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精霊の黄昏SSログ

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その日、見た夢



腕の中には彼がいる。
今は心地よさそうな寝息を立てて眠っている。普段は自分に対して(双子だがなぜか)兄としての余裕ばかり見せている彼も、眠っているとどこか幼い。
その寝顔を見守ってから眠りにつくのが、自分が一日の最後に行う日課。
顔に落ちかかる彼の髪をかきあげてやって、その額にそっと口付けを落とす。
この数日間、自分がこんなことを繰り返しているなんて知ったら、彼はどういう反応をするだろう?やはり驚くか。
それもまあいい。たまには彼の驚いた顔というのも見てみたい。
「それとも、お前はもう知ってるのか?カーグ」
この兄のことだから、こうしているのも実は寝たふり。なんてこともありえるかもしれない。それでも、自分はきっとこの行為をやめないだろう。たぶんきっと、やめてしまったらもったいないから。
「おやすみ、カーグ」
 彼の耳元でささやいて、自分もようやく目を閉じる。そうして決して深くはない眠りへと落ちる。彼を腕に抱くぬくもりを、いつまでも感じられる浅い眠りへ。

いつもは夢などは見ない。けれど、その日に限ってはなぜか夢を見た。
きっと彼が言ったから。幼い頃、彼の夢に龍の姿の自分が現れたなどと。

それは白い龍だった。まだ小さな、穢れも知らないだろう真っ白な子龍。
「お前は……」
 目の前になぜそんな龍が現れたのかと首を傾げると、子龍もまるでモノマネをするかのように同じく首を傾げる。
 それから小さな体でよたよたと自分に近寄ってきて、どこまでも真っ直ぐなまなざしで自分を見上げる。それしか知らないのではないかと思うほど真っ直ぐ見つめてくる子龍のまなざしが、やがて耐えられなくなって、ついその子龍から視線を外した。
 その視線は、彼のものとよく似ていた。
彼の最初は純粋な憎しみ。今は多分純粋な親愛。
それからこの子龍はきっと純粋な好奇心。
どれも純粋すぎて、自分には痛い。
すると、今度は子龍が自分に手を伸ばす。ものめずらしそうに自分に触れようと。
「やめろ!!」
 思わず、自分はその小さな手を振り払っていた。
 龍はその真っ直ぐな視線を悲しみの色に染めて、また自分を見上げる。
それでも自分は龍の心を受け止められない。
やがて子龍は視線を下ろし、またよたよたと歩いて戻っていこうとする。
その小さな背中が余計に小さくなっていく。
「ま、待て!」
 自分は子龍を呼び止める。
すると子龍は足を止め、また真っ直ぐ自分を振り返る。その顔がどことなく喜んでいるように思えるのは、きっと気のせいではないだろう。
呼び止められた子龍は、すぐに自分の下へと戻ってきた。そしてまた、自分に触れようと手を伸ばす。
自分は誰かに触れられるのが苦手だ。恐らく、幼い頃からの環境のせいでそうなったのだと思う。けれど、今はそれを忘れたかった。
子龍が自分に触れる。
その小さな手は小さくてもとても温かくて、その手に自分の手を重ねた。小さなぬくもりだ。けれどそれは彼と同じ温かさ。
 そのぬくもりを感じて目を閉ざす。
「そうか、これがお前の純粋な望みか……」
 再び眼を開けると、小さな子龍は小さな子供の姿をしていた。
「カーグ……」
 彼の名を呼ぶと、小さな彼は自分に向けてにこりと笑った。
すると辺りに真っ白な光が広がった。
全体が真っ白で、とてもとてもまぶしくて。

「……ク……ダーク」
誰かに呼ばれて目を覚ます。
朝のまぶしい光が辺りいっぱいに広がっている。
ここは……?
「お前が俺より遅いなんて珍しいじゃないか。今日はよく眠れたのか?」
この声は彼。彼が窓を開け放ち、朝の澄んだ風を部屋の中に呼び入れる。
「もう朝か……」
 軽く頭を振る。こんなによく眠ったのは久しぶりで、まだ頭がぼんやりとしていた。
「おはよう、ダーク」
 彼が自分を覗き込む。やはり夢と同じ、真っ直ぐ自分を見つめてくるその視線。
その視線を受けていると、次第にどこかがむずがゆくなってきて。
だから彼を半ば無理やり抱き寄せて、後ろから抱きすくめた。
彼は一瞬、虚をつかれて自分を見返したが、自分は彼の視線から逃れようとして余計に彼を強く抱きしめる。
「お前の、夢を見た」
「俺の夢?どんな?」
「お前が昨夜言っていたのと同じ夢だ。今度はお前が龍だった。白い…子龍だったがな」
「なんで俺が子龍なんだ。不公平な」
彼は少しむっとしたように自分を見上げる。
「そんなことを言われても、夢なんだから仕方ないだろう」
そう言い返せば、投げやり気味に、まあ、しかたないか、と返ってきた。
「で、お前はどうしたんだ?その子龍の俺に」
「別に。ただ、お前はやはり俺に触れてきた」
「それで?」
「一度目は拒んでしまった……」
「じゃあ、二度目は?」
尋ねられて、一瞬返答に迷って。
「お前が確かめればいい」
思いがけずそう言ってしまったら、彼は早速とばかりに両手を自分に向けて差し出して、自分の顔を包み込もうとする。
だが、その彼を自分はもう拒まない。
「俺のおかげ?」
「小さい子龍のお前のおかげだな」
ふふ、と彼は笑って、それから自分にかがむように指で招く。
すると、彼は自分にほとんど不意打ちで口付けた。
「なにを……っ」
「おかえしさ」
ぺろりと彼は舌を出して笑う。
 いきなりのことで自分はもはや言葉がない。気付かれている可能性を考えていないわけではなかったが、こう出られるとは思ってもいなかった。
「……やはり気付いていたのか」
「気付かないと思ったのか?」
逆に聞かれて首を振る。
彼はこういう男だ。何か言う気にもならなくて、ほとんどあきらめのため息。
彼はそれを見てまた笑って。

それからは二人でまた寝転がって、彼はまた自分に触れた。
自分はそんな彼を腕に抱いて抱きしめて。
やっと、本物のぬくもりが得られたような気がした。彼と触れ合えることで、ようやく手に入れた。
たぶん生まれて初めて心から幸せだと感じられただろう。夢ではなく現実して。
もし叶うならば、これがこれからもずっと続けばいい。
それはそう思える、二人だけの時間だった。

END
作品名:精霊の黄昏SSログ 作家名:日々夜