二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

改・スタイルズ荘の怪事件

INDEX|44ページ/56ページ|

次のページ前のページ
 

?章


「最後に聞きたい。我々の仕事は何だと思う。」
男は息も絶え絶えな様子で言った。実際、彼の背中には大きな傷跡が開いており、刻一刻と終わりが迫ってきていた。かの英雄が言ったように、死の影からは誰も逃れることは出来ないのだ。
「再生産。全てをつつがなく進めていくこと。世界の忠実な歯車として、後世に全てを譲り渡していくこと。」
彼に問われたもう一人が、まるで感情のこもらない調子で答えた。真摯に答えていないわけではない。回答者にとっては、太陽の数を問われるような、あまりにも当然な問いだっただけのことだ。
しかし、男はその答えに首を大きく首を振った。その度に口から生命が流れ落ちていくことすら頓着せずに。
「違う。それは違う。俺たちは決断する者だ。未踏の荒野を行き、可能性を広げ、新たな世界を形作っていく。我々の仕事とは、そういうものであるべきなんだ。そうだろう。」
「それは貴方の夢に過ぎませんよ。」
「違う。お前たちが夢を裏切った。あの輝かしい夢を、どんよりとした悪夢に変えてしまった。」
「ですが、それもまた選択でしょう。我々には責任がある。この世界は平穏ですよ。それで十分ではないですか。」
男はその言葉に血の混じった唾を吐きかけた。
「衰退の間違いだろうが。」
「だから貴方たちは駄目なんです。滅びていくことを受け入れることが出来ないから。始まりがあれば終わりがある。それだけの話でしょう。我々の仕事は、それを受け入れることから始まるんです。もう一度聞きますが、こちらに付くつもりはないんですね。」
頷けば命は救ってやる。その声は言外にそう語っていた。
陰鬱な笑いがその場所に響いた。もはや、その笑いを遮るような轟音はなく、広々とした空間の隅々まで、濁った笑い声が響き渡る。
「俺はお前が嫌いだよ。お前の世界でなど、一秒足りとも生きていたくない。」
それが男の最後の言葉になった。
「きみはまだ若い【ヴー・ゼット・ザンコール・ジューヌ】」
普遍のものなんて何処にもないんですよ。つまらなさそう声が空間に木霊する。そして生者は部屋から去り、死にゆく者だけがそこに残った。
しばらくすると、死者の死体はその最後の言葉通り、あっという間に砂へと還っていった。その地面にうず高く積みあがった砂の山も、どこからともなく吹いてきた風によって、原形を残すことなく四散してしまう。
そして、一つの音が発生した。
「こうなったか。やはり、余【ぼく】の推理通りというわけだ。」
こう空間には生物はいない。その字の文【せいやく】を破らぬままに、ソレはその場で言葉を紡ぐ。
腐った方程式のような瞳を輝かせながら、足元にある死体の全てを検分していくのだ。ソレにとって生物とは、死んでいくからこそ価値を持つものだ。
如何に、何故、何時、何処で、誰が、死んだのか。
総じて言えば、ソレはそんな死の痕跡を集める現象【フェノメナ】であった。人が人ならソレを「オルフェウス」と呼んだだろうか。
「いいだろう。わが友よ、君のささやかな望みを、我【ぼく】が代わりに叶えてやろう。」
その言葉に従おうように、機能を停止していた機械たちは動き出す。回路という回路は断線したままに、歯車という歯車は欠け落ちたままに、機械の群れは正常な動作へと戻っていく。
「安心したまえ。わが友よ、誰もが君たちの後を追うだろう。誰も、俺【ぼく】からは逃れることは出来ないのだから。」
そして、終幕へのカウントダウンが始まった。