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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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接続



「わかりました。すぐエンジンを繋ぎます」

真田は画面の沖田に応えた。徳川も横で同じ話を聞いていた。

「あと十分以内でか」

「厳しいですが、状況がそうであるならここはやるしかありません」

エンジンに向き直る。アナライザーが火薬の真鍮薬筒にへのへのもへじやコックさんを落書きしているところだった。

「諸君、聞いてくれ。エンジン始動を早めなければならなくなった。十分以内にメインエンジンを回さねばならん」

「オウ! 野郎ドモ、ココガ気合ノ入レ時ダゾ!」

とアナライザー。どうも真田の助手という地位を与えられたせいか、古代といた時より威勢がいいようだ。

「全員位置に就け!」

徳川の号令で、「はい!」と叫んで機関員がそれぞれに散る。メーターの並ぶパネルを睨む者。クレーンでも動かすような台座席に登る者。〈大砲〉とでも呼ぶしかないエンジン始動接続器のコードを引くのは藪の役目だった。全員、ヘルメットと共に、耳を保護するイヤープロテクターを当てている。

「アナライザー、装填を手伝ってやれ。まず一発での始動は無理だ」

「アイサア!」

とアナライザーは、自分の頭の上にあるトサカのような放熱板にイヤープロテクターをあてがうと――このロボットにそんなものが必要なわけはないのだが――藪の元に走っていった。

そして真田は、艦橋から送られてくる情報を見張る役となる。17基のミサイルがついに地に潜ったことを地震計が示していた。位置や速度は、それから概算するしかない。

「時速40キロ前後か……〈ヤマト〉まで何分だ?」

「メインエンジン・チェック完了、エネルギー充填百パーセント!」「回路よし、始動シリンダー準備よし!」「主動力線、コンタクト! メインエネルギー、スイッチオン!」

機関員らが叫ぶ。メインエンジンが唸りを増した。

「補助出力100……200……」

徳川により、メーターの目盛りが読み上げられる。その数字が上がるごとに、機関室内の振動が強くなっていくのがわかった。

「600……900……1200……」

「撃発コード、安全装置解除」藪がレバーをひねって言った。〈大砲〉のコードを掴む。

「2500……3000。波動エンジン回路、接続!」

「接続!」

コードが引かれた。途端、すさまじい爆音が機関室に鳴り渡った。〈砲〉の尾栓がガクンと飛び出してくる。

――が、同時に、すべての音も振動も止んだ。エンストを起こしたクルマそのものだった。メーターの針がどれもこれも瞬時に落ちて、ランプが消えていってしまう。

波動エンジン始動接続――その一回目の試行はやはり失敗だった。

「気を落すな!」真田が叫んだ。「わかっていたことだ。チャンスはまだ何回もある。すぐ二回目にかかれ!」

「はい!」

同じ手順があちこちでまたガチャガチャと始められた。真田は状況に目を落とす。〈ドリルミサイル〉は明らかに〈ヤマト〉への輪をせばめていた。

「どうかね」と徳川が聞いた。

「おそらく……あと二回が限度……」

だが何よりも、アナライザーと藪だった。藪が機械のハンドルを回すと、煙を吹く真鍮の筒が排出される。それはやたらと騒々しい楽器のような音を立て、ガラガラと床を転がるのだ。素手で触れば火傷(やけど)するのは間違いない。

「ワワワワワ」

とか言いながら、アナライザーが次発を手渡す。装填。

「接続器準備完了!」

「了解。補助動力スタート!」

またエンジンが唸り出した。「補助出力100……200……」

そして3000。

「波動エンジン回路、接続!」

ドカン! だが、二回目の試行も失敗だった。

「挫けるな! 続けて行け!」

――と、そのとき艦橋からの森の声が、全員の耳当ての中の通信機に入ってきた。

『〈ドリルミサイル〉が速度を増しました! なんらかのブースターを用いたようです。〈ヤマト〉到達まであと二分!』

「ひっ」と藪が、急に喉が詰まったような声を出した。動きが止まり、そしてガタガタと震え出す。「そんな……も、もうダメだ……」

「おい、しっかりしろ!」

徳川が叫んだ。しかし藪は、どうやら排筒ハンドルもまともに回せなくなってしまった。それどころか斜めの床に立ってることもできなくなりそうに見える。

「藪! 気をしっかり持て!」

「アナライザー!」

真田も叫ぶ。アナライザーは三発目の薬筒を抱えていたが、それを下ろしてハンドルに手を伸ばそうとする。しかし藪は、どうにかそれを掴み直した。震えながらもしがみつくようにしてハンドルを回す。

薬筒がガシャンと落ちた。

「ワタシガ入レマス」

「た……頼む……」

排筒ハンドルはそのまま次発装填ハンドルとなる。藪は一度握ったそれに手がくっついてしまったようになってるらしい。〈接続器〉――もちろんそれが〈大砲〉の正しい呼び名であるのだけれど、しかしどうも――の受け皿にアナライザーが薬筒を入れた。藪は震える手でハンドルを回転させる。

三度(みたび)の手順が開始。徳川が数字を読み上げる。

「補助出力100……200……」

同時に森の声が聞こえる。

『ミサイル、あと千メートルにまで到達……』

「600……900……」

『九百……八百……』

そして、「3000。波動エンジン接続!」

「うわあああっ!」

藪が叫びつつコードを引いた。

轟音。しかしエンジンはまたガックンといった感じに動きを止めた。

静寂が機関室を包み込む。一同の顔に絶望が広がった。

エンジンが止まったのは艦橋でもわかったらしい。真田が見る画面の中でドリルミサイルは〈ヤマト〉まで四百メートルに迫っているが、その数字を読み上げるはずの森の声もなかった。

「そんな……」

藪がつぶやいた。へたり込んで床に手を着く。

その手が小さくブルブル震え出していた。

「え?」

と彼はまたつぶやいた。そのブルブルは身の震えではなかったのだ。彼を震わせるのは床の振動だった。そしてそれはみるみる高まってくる。

波動エンジンが始動していた。最初は低く、だんだんと高く、やがて獣が威嚇の叫びを上げるように、鋭い笛のような響きを立てて巨大なシャフトがエンジン内で回り出すのが外からでもはっきり知ることができた。薄暗かった機関室が、次々と灯るランプに明るく照らし出されていく。

「う……動いた……」藪は言った。「動いたぞ!」