敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
迎撃不能
「次に来るのは、地平線の上には決して姿を出さないと思います」〈ヤマト〉第一艦橋で、新見が恐怖の表情で言った。「その手前で地に潜って、そこからここまで掘り進んでくるものと――」
「冗談だろ」南部が言った。「それじゃ狙いようがない……」
「沖縄基地はこいつに殺られたんですよ!」
森が、「何か迎撃法はないの?」
「無理だよ!」と南部。「高角砲に実体弾を込めて撃っても、10キロ上まで届いちまって落ちてくるのに時間がかかる。すぐ終端速度に達して、風に流されちまうから、弾道の予測なんてしようがない。三分後にてんでデタラメなところに落ちるだけだ! 第一、砲弾が上向いちまって信管が働かない!」
「落ち着け!」沖田が言った。「時間がかかるのは敵も同じだろう。新見君、ドリルはどの程度の速度で来るのだ」
「わかりません。データがありませんので……確かにそんなに速いはずがないとは思いますが……せいぜい人が走る速さくらいではないでしょうか」
「だろうな。まあ十分くらいは時間があるということだ。その間になんとか手を打つしかない」
島が言う。「いざとなれば、ケーブルを切って飛び立つのもできなくはありませんが……」
「メインエンジンの始動前にそれはできん」
「それはそうです。しかし――」
そうなのだった。〈ヤマト〉はまだ、外部からの電力供給を受けている。船内で必要な電力ならば、補助エンジンが今は生み出してくれている。だが外宇宙へ行くための肝心の波動エンジンがまだ動かせていないのだ。いま飛ぶことは、できるのはできる。だがその後は、消し飛んでしまうこの場所の代わりに世界中から電気を集めるステーションを再びどこかに一から造り上げねばならず、姿をさらしてしまった船をそれまでヨタヨタ浮かせ続けねばならなくなってしまうのだ。
〈ヤマト〉は重い。同じ大きさの他の船よりはるかに厚い装甲と、はるかに強力な武装を備え、人が他の動物より大きな脳を持つように電子機器を山と積んでいるのだから。おまけに長期航行のための野菜農場などというものまで抱え込んでいる。
〈ヤマト〉はすべてが波動エンジンありきで設計されていた。ゆえにそれがないのなら、《ボクを蹴って》と背中に貼ったただの浮き砲台だ。
太田が言った。「十分以内にエンジンを始動させる他にない……」
「他に手はなさそうだな」と沖田は言った。
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之