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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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離脱



〈ヤマト〉の波動エンジンは、重い船体を軽々と宇宙空間に押し上げていった。特にGが掛かることもなく、緩(ゆる)やかに脱出速度にまで達する。22世紀末の現代では当たり前のことでもあるが、二百年前のロケット科学者が見れば目を見張る光景だろう。それにしてもその上昇はスムーズだった。この船が十年前にもしあれば、ガミラスが来るより前に原発の廃棄物を何も心配することなしに宇宙に捨てられていたかもしれない。それは言っても詮のないことではあるが……それに干上がって凍った海と塩害はどうにもなるものではない。

「よし、わたしと機関長はいったん艦橋に上がる。アナライザー、お前はここに残れ」

機関室で真田がそう言っていた。するとアナライザーが、

「オット副長、コイツニさいんシテッテクダサイ」

言って金色の筒を掲げた。へのへのもへじのまわりに藪と機関員達が名前を書き入れている。

エンジン始動に成功させた真鍮薬筒だった。真田は苦笑してペンを取った。むろん徳川も名前を入れる。

エレベーターで艦橋へ。かつての戦艦〈大和〉は艦底から艦橋の頂上までが48メートルであったというが、それはほぼそのままに宇宙戦艦〈ヤマト〉に受け継がれていた。艦橋の最上部に艦長室。そのすぐ下が第一艦橋。ケージは第一艦橋で行き止まりになっている。なぜなら、上まで通そうとすると、艦長室の上にエレベーターの機械室を設けなければならないからだ。そのため、機械は艦長室の後ろに置いて、艦長室と下の階はゴンドラで繋ぐ仕組みになっていた。

「来たか」

と沖田が言った。徳川はサッと自分の席に向かうが、真田はその場で立ち止まった。若い者らが彼を笑顔で振り返る。しかしもちろん、真田は先ほど自分のことを彼らがどう話していたかなどは知るよしもない。

「挨拶はいい。すぐ席に着け」

「え、あ、はい……」

そうなのだった。古代進から〈コア〉を受け取ったあの後、真田はすぐに寝てしまって、起きると機関室に直行したのだ。そうせねばならなかったしそうしろとも言われた。副長としてここに来るのはこれが初めて。本来なら艦橋に立つ人員ではない。

真田はそれをコロリと忘れていたのだった。無理もないことと自分でも思った。技師長としてはこの艦橋は馴染みの場所で、島や南部を始めとするクルー達とも見知って付き合ってきたのだから。そしてこの数時間、エンジン始動にかまけるあまり、技師長としてこの者達と付き合うのと副長として対するのでは話がまるで違うのに思い至るヒマがなかったのだ。

それに急に気づかされた。これはまったくの不意打ちだった。戸惑いながら席に座る。副長席の機器の操作は問題ない。ひょっとすると本来就くべきはずだった人間よりも知ってるくらいだ。それが自分が代理に指名された理由のひとつでもあろうが――。

しかし、戸惑っているヒマさえ今はないらしい。メインスクリーンに脚の足りないヒトデ空母が映っている。

沖田が言った。「真田君。あれが我々の当面の敵だ」

「あの、わたしはどうすれば……」

「まあとりあえず君は見ていろ」

「あ、はい……」

と応える。クルー達を見渡すが誰も気にしたふうもない。真田はやむなく自分の計器の状況データに眼を落とした。ガミラス艦との距離。速度。今〈ヤマト〉にかかるG。地球の重力とその影響。などなどと言った情報がバーやカーソル、スケールで示され、マルバツ三角にW字(ウイスキー)マーク、四角に矢印といった指標がクルクル動き回っている。そしてそれぞれに文字や数字がわかる者にはわかるように付け足され、その持つ意味を表示するのだ。

クラクラとした。何かわからないのではない。わかる。なのに、わからないのだ。わからなければわかりませんと正直に沖田に言えもしたかもしれない。だが真田には、画面のデータがすべてラクに読み取れた。地球の重力がこう来てるから船はこう進むだろう。ガミラス艦と言えども宇宙をまっすぐは進めない。コンパスに鉛筆を付けたように必ず弧を描くのだ。それも三次曲線を。つまりこう来てこうなるから、こうなっちゃってこうだろう――わけない。別になんでもない。このくらいは初歩の初歩だ。というのはわかるのだが、そこから先がいけなかった。副長ならそれでその後どうすればいいと思うのかね、真田君?

それがわからない。おれはこれではプロの動きに太刀打ちできないアマチュアサッカー選手のようなものじゃないか! いや、違うなと真田は思った。自分は言わば、スパイク屋だ。サッカーを知り、ひとりひとりの選手に合わせてスパイクシューズをカスタムメイドするなんていうことはできても、試合になんかついていけない。いけるわけない。選手でもなんでもありはしないのだから。

沖田が言った。「わかるかね? 空母というのに、今あいつは艦載機を出してない」

「あ」と言った。真田は、自分がその点にまったく気づいてなかったのに気づいた。「どういうことです? 確か――」

「そう。先ほどまで月の戦闘機隊と派手にやり合っていた。だが今どちらもミサイルと燃料を使い果たして引っ込めている状態だ。地球側はもう少しでやつの後ろに巡洋艦隊が網を張る。もう攻撃機は要らん」

「は、はあ……」

「あれは今、大急ぎで艦載機再発艦作業をしているわけだ。それも今度は、対艦ミサイルを吊るしてな。あいにく〈ヤマト〉の主砲でも、まだあいつを射抜けない。しかも逃げに入ってるから、追いつくのは大変だ。だが〈ヤマト〉がやらなくても、地球艦隊の十字砲火を食うことになる」

「はい」

と言って画面を見た。なるほど将棋の手のように、沖田の言葉で今まで見えてなかったものが初めて手に取るようにわかる。

「だからあれはああやって艦載機を出す時間稼ぎをしているわけだ。巡洋艦隊に手柄をくれてやってもかまわないのだが……」

と言ってからニヤリと笑った。

「それではちょっとつまらんとは思わんか?」

「は?」

沖田は言った。「真田君。君にこの艦の副長として最初の意見を求める。艦載機を出される前にあれを殺る手が何かないか?」

「あれを?」

と言って四本脚のヒトデを見た。400メートル級空母――しかし、〈ヤマト〉が長さ26センチのサンマであるのに対し、相手が直径40センチのお化けヒトデであるというのを忘れてはいけない。総質量は〈ヤマト〉の十倍にもなるだろう。最終的に仕留めるにしても、味方の船に犠牲が出るのは間違いない。艦載機をふたたび出すのを許せばなおのことだ。〈ヤマト〉の主砲で真ん中を射抜けばオダブツにもできるかもだが、ヒトデは穴開きになるのはイヤだと逃げる。簡単には殺れそうにない。

となれば――。

「波動砲?」

「それだ」と言った。「波動砲であれを沈めてみようと思うがどうだ」

「え……いや……あれはテストが……」

「試射はどのみちせねばなるまい」

「しかしこんな地球の近くで……敵に砲の存在を教えてしまうようなものでは……」

「何か? 木星の月あたりをひとつふたつ吹き飛ばせばガミラスにわからないとでも思うのか?」

「それはもちろん有り得ませんが……」