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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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右舷展望室



「古代のことで覚えてることと言えば、おれとはどうもいろんなところが真逆だな、と思ったことかな」

畳の上に胡座(あぐら)をかいて座り込み、島はおにぎりを頬張って言った。〈ヤマト〉右舷の展望室だ。床は全面畳張りとなっている。

〈ヤマト〉の左右の展望室のうち、右舷側が畳部屋となっているのは、地球の〈ヤマト計画〉関係者でもごく限られた者しか知らない。別に機密というわけでなくわざわざ人に言わないだけだが、日本人の乗る船に畳の広間があって何が悪いだろう。前後におよそ20メートル、横10メートルの楕円の床に茣蓙(ござ)のシートを無理に敷き詰めたようになっていて、およそ百畳の広さがある。柔道などの道場として使う部屋でもあるのだが、普段はクルーの憩いの間で、今も片隅で将棋盤に向かい合ってるようなのがいる。壁に貼られた時間決めの予定表に航空隊のかるた取りがあるのを見つけ、島は忘れずにおくことにした。

森が言う。「島さんと逆?」

「そう……たとえば、おれには十歳下の弟がいるの知ってるだろう」

「うん」

「古代にはかなり年上の兄貴がいるって話だった」

「ちょっと待って。そんな話が聞きたいんじゃないのよ。あたしは――」

「まあ、聞けよ。おれが軍に入ったのは弟のためみたいなもんだ。まだあいつがちっちゃな頃にガミラスが来ちまったからな。〈家族のためにおれが戦わなけりゃ〉と思った」

「ふうん」

「古代の兄貴はガミラスが来る前から軍人だった。宇宙船に乗りたくて軍に入っていたクチだな。そこに戦争突入だ。古代の家は神奈川県の三浦にあった」

「三浦? って、それじゃあ……」

「そう。遊星の最初の被爆地とも言える場所だ。古代はたまたま町を出ていて助かったが、親と住む家をそれで失くした。古代はおれとは逆なんだ。行くところがなくて軍に入ったんだよ」

「そう……けど、そんな人間はいくらでも……」

「いるだろうな。当時に軍が戦闘機パイロットを大量に増やそうとしていなければ、古代みたいなのは志願しても士官コースなんか入れない。おれも最初あいつを見たときは〈なんでこんなやつが〉と思った。死にたがりみたいな候補生はいくらでもいたけど、おれもあいつもそれとは違っていたからな。でも、違うと言ってもまるで正反対だった」

考える顔で茶を飲んで、

「そうは言ってもうまく説明できないんだが、結局、長男と次男の違いなのかもしれん。〈死にたがり〉の群れから抜かれた人間の中でも、古代のやつは異質だった。元々ああいう人間はすぐ途中で脱落していなくなってるはずなんだ。けれどあの古代ってのは、なんだか妙に得体の知れない強さみたいなものを持ってた。ふだんはダラッとしているし、トップを取るとか人類を救うなんてことはまるで考えてなさそうなのに、戦闘機に乗ると敗けない。しかしちょっと大きな船に乗せてみると居眠りする」

「ちょっとお……」

「古代がなんでがんもどきになっていたのか知らないが、万事がそんな調子だったせいかもしれないな。けどおれは、あいつが武器なしの輸送機でガミラス墜として〈コア〉を〈ヤマト〉に持ってきたって聞いたときには、あの古代なら有り得るような気がしたよ。あいつはどこか、状況が絶望的になるほどに冷静に生き延びる道を探すようなところがある。昔、見ていて思ったんだ。ちょうど――」

「何よ。それじゃまるで……」

「ああ。そういうことかな、という気はする。けどそんなの聞けないだろう」

「彼のために沖縄基地が殺られたのよ。それに、本当の隊長だって……」

「やめろ」と言った。「それは言うなと前も言ったはずだ」

「けど……だって、事実に変わりはないじゃないの。じゃあどうして、彼はその時その場にいたの。〈サーシャの船〉が襲われたとき、乗っていたのが〈七四式〉なんかじゃなくて戦闘機なら、サーシャさんは生きて地球に来れたんじゃないの? 彼がそんなに腕がいいんなら!」

「戦闘機じゃ地球どころか火星までだって燃料がもたん」

「そういう問題じゃないでしょう」

「いや、そういう問題だ。戦闘機なら結局〈コア〉は破壊されてた」

「あたしが言うのはどうして彼がその場にいたかっていうことよ!」

「偶然だろう。そうとしか考えられん」

「本当にそう? 誰かが仕組んだってことはないんでしょうね。サーシャさんが生きて着いていたならば、地球人に〈コア〉を調べさせてはくれなかったと言われてるんでしょ? どうしても逃亡船を造りたいか、冥王星を吹き飛ばしたい人間ならば、〈コア〉を横取りしようとか――」

「バカバカしい。いくらなんでもそれは想像のふくらまし過ぎだ。だいたい古代がどうしてそれに関わるんだよ」

「だって彼はいつか役に立つと思って生かされた人間なんでしょう?」

「おれと同じにね。そんなに深い意味はない。そのポイントにこだわるな」

「でも今、彼は異質だって……」

「だからそれにこだわるなと言ってるんだ。古代を〈七四式〉に乗せればガミラスを墜とせるなんて誰にわかるんだよ。結末さえ意外なら辻褄はどうでもいいとするようなテレビドラマじゃあるまいし。陰謀があったとは思えないな。あんなことは仕組んで仕組めるようなものじゃない」

「彼がその場に居合わせたのは偶然だった? 運命のいたずらだって言うの?」

「そうだ」

「彼のおかげで地球は救われるって言うのね。沖縄基地や坂井隊長、サーシャさんを犠牲にして……」

「だからそういうものの捉え方はやめろ。古代は何も悪くない」

「でも、どうしてあんなのが……あれはまるで、生きるのをあきらめちゃってただダラダラと死ぬのを待ってる今の地球人まんまじゃないの。競輪やドッグレース場に入り浸って、野球だってどっちが勝つか賭けに行ってるだけみたいな……そんな人間達の方が、命を懸けて戦ってきたあたし達より大切なんて……」

「だからそういう考え方はやめてくれ。たとえ思っても口にするな」

「だって、納得いかないのよ。あんな古代みたいなのがパッと現れて地球人類を救うなんて」

「少なくとも、あいつは軍で輸送任務をこなしてた。後方支援があったから前線が戦ってこれたんだ」

「それはわかってる……わかってるけど」

「わかってるならいいだろ」

言って、島はお茶のカップを取った。それを口に運ぼうとしてふと人の気配を感じる。

顔を上げると、グレー服の新見が菓子か何かの包みを手にして、近くに立ってこちらを見ていた。どうも話を聞かれたらしい。いつからそこにいたんだろうと思ったが、新見はサッとごまかす素振りで去っていく。呼び止めるわけにもいかない。

うーん、と思っていると、

「わかったわ」と森が言った。「島操舵長は事があのように運んだのは偶然だった、誰も仕組める者はなく、古代進がその場にいたのは神の計(はか)らいに他ならないって言うわけね」

また『操舵長』だ。今度は何を言い出す気だと身構えながら、「ああ、まあね」