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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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メ号作戦



『沖田さん! ぼくはイヤです! 撤退はできません!』

無線の声はそう叫んでいた。一年前の太陽系外縁部での戦いだ。沖田はマイクを掴んで言った。

「古代! わかってくれ。ここは退くんだ。必ず次の機会はある!」

〈メ号作戦〉――準惑星の敵を攻撃する作戦は失敗し、残っているのは二隻のみだった。沖田の乗る旗艦〈きりしま〉と、無線の相手、古代守の〈ゆきかぜ〉と。今やまわりの宇宙空間にいるのは敵の船ばかりだ。

ミサイル突撃艦〈ゆきかぜ〉。それはガミラス冥王星基地を見つけ出し、核ミサイルで攻撃すべく造られた船の一隻だった。冥王星のどこにあるかもわからぬ基地。遊星の投擲装置と、百を超えるガミラス艦の補給をまかなうための港。それを発見し、粉砕する――それができるのは核だけとして、〈メ号作戦〉は決行された。

地球上での人類同士の戦いで、核は決して使ってならない兵器であるのは論を待たない。しかし事が宇宙なら別だ。地球上で核を忌避すべき理由はみっつ。ひとつは厄介な放射能の問題。ふたつめは一般市民を無差別に大量殺戮することで、そして本当の理由であるみっつめは敵に一発喰らわせたなら百発のお返しを喰らうおそれがあることだが、準惑星の侵略者に使うのにそのいずれも関係なかった。

まず放射能についてだが、太陽という天体がそもそもひとつの巨大な水爆であるのは誰でも理科で習うことだ。地球においては厚い大気が放射線を遮ってくれるが、他の星は五十億年毎日浴びに浴びてきている。冥王星で今更ひとつ核をピカドンとやったところで何も変わるところはない。

そして、無差別殺戮問題。冥王星に〈一般市民〉などいない。ひとり残らず人類抹殺するためにいる虐殺要員なのだから、殺して何が悪いのか。

地球はやつらに万発の遊星爆弾を落とされている。それに対して一発を仕返しに射つだけなのだ。この期に及んでまだ『戦争反対』とか『核兵器反対』と叫ぶ一部の団体や個人は、『異星人の侵略者に使うのがやがて人類自身に対して核を使うのを正当化する』などと泣いて叫んでいたが、狂気の主張に耳を貸してはいられなかった。〈波動砲〉など、当時はまだ夢のまた夢。ガミラスを叩く手段は核しかない――そのときはそう思われていたのだ。

かくして〈いそかぜ型〉と呼ばれるミサイル艦が造られた。そのベースとなっているのはガミラス捕獲艦隊と同じく、短時間だけガミラス艦をも凌駕する速度で進める高速駆逐艦であり、沖田の戦艦〈きりしま〉は、その主砲で艦隊を護り、突撃艦の全速が維持できる距離まで冥王星に近づかす役を担(にな)わされていた。〈メ号作戦〉。それはカミカゼ同然の特攻作戦だった。

この時点で、女が子を産めなくなるまで二年。地下都市の放射能汚染を食い止める最後の期待がこの作戦に懸けられていた。

出航にあたり、沖田は古代守を含む船の艦長らと水盃を交し合った。生まれてくる子供のために。今いる幼い子供のために。人々が飲める水を守るのだ。この作戦は必ず成功させねばならない。諸君、次に会うときは、祝杯を交し合うときだ――。

しかし、それは失敗に終わった。〈ゆきかぜ〉から古代の声が入電した。

『ぼくは行きます! ミサイルを射たずに帰るわけにいきません! それでは死んだ仲間達に申し訳ができない!』

「やめろ古代! 一隻だけで何ができると思っているのだ。今は生きることを考えるんだ!」

群がる敵艦。その中に〈ゆきかぜ〉は突っ込んでいった。

「古代!」

叫んだ。それもむなしかった。ピラニアの群れに投げ込まれた動物のように、〈ゆきかぜ〉はありとあらゆる方向から敵の攻撃を受けて沈んだ。

沖田の眼はその向こうに小さな星を捉えていた。プルート。冥府の王の名を付けられた人類最後の審判の星。同じ神の名は、やはり滅亡をもたらす物質、プルトニウムにも由来する。

「悪魔め……」

今、沖田は〈ヤマト〉艦長室でその記憶を呼び起こしていた。

「必ず、あの仇は取ってやるぞ……」

あの戦いから沖田が生還できたのは、ひとえに〈きりしま〉が、火力だけならガミラスに勝る船であったからだ。〈きりしま〉の砲は強力だった。ガミラスがたとえ十隻で追ってきても、沈められる前に三、四隻は道連れにしてやれたろう。敵はそれを知っていたに違いない。逃げる沖田を追わず黙って行かせたのだ。

地球人類の滅亡はすでに決しているのである。ガミラスにはもう〈きりしま〉を無理に沈める必要はなかった――だからもし、古代守が命令を聞いてくれたなら、〈ゆきかぜ〉の一隻くらい護ってやれたはずだった。

地球の船は波動エンジンを持つガミラスに敵わない。だがそれでも、速度だけなら速い船、砲だけなら強い船を造ることは可能だった。ゆえに小型の戦闘機ならガミラスを上まわる性能も持つが、ふたつを備える大きな船は造れない。やれば装甲があまりに薄くなってしまうか、その性能を引き出すための電子機器を積めなくなるかだ。これでは護りに徹する他なく、準惑星の基地を叩くような作戦には出られない――あの〈メ号作戦〉が、それを証明してしまった。

〈きりしま〉は死ぬ気で行けば三隻道連れにしてやれる。一対一ならガミラスのどんな船にも敗けないと言える船ではあった。だが、〈敗けない〉というだけだ。船の足が遅いため、向かってくる敵とだけしか戦えない――これでは真に〈勝てる船〉と呼ぶことはできない。地球には、ガミラスに攻撃を仕掛けられる船はこれまでなかったのだ。

だが今、ここに〈ヤマト〉がある。イスカンダルよりもたらされた波動エンジン。その下にある二基の補助エンジンは、基本的には〈ゆきかぜ〉などの高速駆逐艦が搭載するのと同じものだ。小型ながらに莫大な推力を持ち、メインエンジンと組み合わすことでガミラス艦よりはるかに速い戦闘速度で〈ヤマト〉を進ますことができる。テスト結果はとりあえず良好。

とは言え、やはり全速は、そう長くは維持できないが――駆逐艦と違うのは補助エンジンが焼きついてもメインエンジン一基で進めることであるが、船が重いぶんだけ遅く、ガミラスに劣る速度になってしまう。

そして、主砲。〈ヤマト〉には、〈きりしま〉よりもさらに威力を高められた強力な砲が装備された。ガミラスのどんな船の装甲も、相手の砲が届かぬ距離からブチ抜くことができるはずだ。

さらに船の全体を厚い装甲で鎧いつけ、最高の電子機器で制御して、最新鋭の戦闘機隊を腹に抱えたこの〈ヤマト〉なら、今の太陽系にいるガミラスのどんな船にも敗けはしない。戦艦なら数隻を、巡洋艦なら十隻を、駆逐艦なら一度に最大三十隻をも相手にして戦えるだろう。

ただ、同時に、それが限界でもあるのだが……。〈ヤマト〉の強さは主砲の火力と補助エンジンの推力にあるが、ガミラス艦を十隻ばかり倒したところで補助エンジンが焼きついて、力を失うことになるのは明白なのだった。そして主砲の砲身もやはり、その辺りで過熱して撃てなくなってしまうと推定がされている。試射はまだだが、この点で大きな期待はするだけ無駄だ。