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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 16

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第57章 イリス


 すっかり冷たくなった妹の体を抱きしめたまま、シンは静かに咽び泣いていた。
 仲間の死を目の前にして、ロビン達はなす統べなく立ち尽くしていた。仲間の中でも嗚咽を発する者がいた。
 これから先どうすべきか、ロビンは迷っていた。このまま先へ進むべきかそれとも、リョウカを弔ってやるべきか。
 誰も、何一つとして言葉を発しなかった。その場を支配しているのは、外から聞こえる風のうなり声と彼女の死に涙する声であった。
「リョウカ…………、どうして……!?」
 シンは涙でかれた声を出した。ずっと泣き叫んでいて、ついには声が出なくなってしまった。
 かれはてた喉から発せられるシンの声は、辺りを更なる悲しみに包むのに十分すぎた。
「ううう……」
 これまで涙を堪えていた者達も、ついに悲しみに圧倒され、泣き崩れた。
 それはロビンも同じ事だった。
 涙に咽ぶ仲間達につられるように、ロビンも喉元から上がり来るものに抗しきれず、それを目から頬へと伝わらせた。
 しかし、ロビンは一筋流れてしまった涙を拳で拭い去り、咽び泣く声に支配された沈黙の空間を打ち破った。
「みんな……、ここで泣いていてもリョウカは帰らない……。ここは一度退いて、リョウカを弔って上げよう……」
「ロビンの言うとおりだ。こんな凍える場所にいつまでも置かれるより、楽な所へ置いてもらった方が彼女もよかろう……。シン、そうしよう……」
 ガルシアは賛成した。皆も同様の意思を示し、後はシンが動いてくれるのを待つだけだった。
「シン……、気持ちは分かるけど、もう……楽にしてあげよう……」
 頑なに動こうとしなかったシンへ、ロビンは歩み寄り、震えるシンの背中に触れた。
 シンは遂に観念したのか、リョウカの遺体を体から放し、そっと横たえた。そして、ずっ、と鼻をすすると泣きはらした目をロビン達へ向けた。
「……そうだよな、いつまでもアニキにめそめそされてちゃ、リョウカも気持ちわりいだろうな……」
 シンは横たえたリョウカの遺体を一瞥した。
「……みんなに、言ってなかった事がある。実は、リョウカは一度死んだ人間だったんだ」
 シンは、もうリョウカの命が尽きてしまい、シエルとの約束はもう意味をなさないだろう、そう思い全てを話した。
「一度死んだリョウカは、話すとややこしくなるから言わないが、天界の神様に依代にされることで復活したんだ。けど、リョウカは復活したとはいえ一度死んでいる。生きられる時間は物凄く短かったんだ」
 シエルの言葉を要約しながら、シンは話していく。
 リョウカは、自身の本当の存在を認知しないと、彼女が二度目の死を迎えたとき、シエル諸共消えてなくなる運命であった。
 外部からシエルの存在を知らせればその瞬間に消える危険があり、シンにできる事は、リョウカが寿命を迎えるより先に死なないよう、彼女を守ることだった。
「……けれど、できなかった。リョウカを守ろうと必死にドラゴン達と戦ったけど、結果的には逆にオレが守られていた……」
「リョウカを守る事があなたの使命だったのは、分かったけど、じゃあどうしてリョウカをこんな所に連れてきたのよ? あんな状態でここに来れば、こうなる事は誰でも分かるんじゃないの!?」
 守ると言いながら、マーズ灯台へ連れ出すことはリョウカの命を縮める事に他ならないではないか、シバは思い、語気を強めた。
「……マーズ灯台へ連れて行くことは、シエルに指示されたことなんだ」
 シンは俯いた。
「どうしてですか!? どうしてその神様がそんな無茶な事を指示したのですか!?」
 ピカードが言うのも当然の事だった。
「マーズ灯台が灯れば、溢れ出る炎の力がリョウカを再生させられる、とシエルは言っていた。でも……、遅かった。マーズ灯台を灯すどころか、リョウカは死んでしまった……」
 全てはあの女神の言うとおりには行かなかった。リョウカの中で必死に延命行為をしていたらしいが、全て手遅れであった。今やリョウカも死亡し、シエルも消滅しつつあるのだろう。
 突然、リョウカの遺体が光り出した。
「ついに消滅が始まったのか……」
 ロビンが、特に驚くこともなく言った。
 しかし、その実、消滅ではなかった。
 死体となったリョウカが、硬直したはずの目を開き、白い光を放ちながら起き上がった。これにはロビンどころか全員が驚いた。
「皆さんに私のことを話してくれて、ありがとう、シン。これで皆さんに私のことを知ってもらう為に、お話する手間が省けました」
 起き上がると同時に口まで聞き始めた。ロビン達は何事が起きているのか分かりかねて、目を見開くしかできなかった。
「リョウカ、いや、シエル、なのか……?」
 シンが真っ先に何とか口を開いた。
「いいえ、私はリョウカでも、シエルでもありません……」
「お、おい何を……!?」
 リョウカでもなければシエルでもない、と言った者は、袴の紐をといてその場に脱ぎ捨てた。真っ白な脚が露わとなる。
 彼女の脱衣行為は止まらない。今度は着物にも手をかけ、中の襦袢ごと脱ぎ去った。これにより産まれたままの姿となった。
 ふくよかな胸とくびれた腹部、髪の毛と同じく白くなった下半身の茂みを、隠そうともせず、女はロビン達の間を歩んだ。
 あらゆる現象、行動が唐突で、予測不能で、一同は呆気に捕らわれるばかりだった。
 自らの身を包んでいた衣は全て脱ぎ捨てたが、女はこれまで愛用してきた刀だけは手放さなかった。
 ロビン達に背を向けるような位置まで歩みを進めると、女は立ち止まった。
「おい!」
 ここが好機だと踏んで、ロビンは声をかけた。
「リョウカでも、シエルでもないなら、お前は何者なんだ!?」
 裸体の女は答えることもせず、その場に片膝を付いた。
「私は女神……」
 女神を自称した女は、そのままうずくまるような格好になった。すると、ただでさえ白い身体が更に白さを増し、柔らかな肉体は石膏のように硬化していった。
 その姿は繭、もしくは蛹と形容することができる。
 ピシピシ、と音を立て、固くなった背中がひび割れ始めた。背中が縦一筋に割れると、中から人型のものが出てきた。まさしくこれは羽化だった。
 頭から、肩、背中にかけてそれは姿を現すと、背中にかかる髪をかき分けて虹色に輝く翼を広げた。
 両手両足も外に出すと、脱け殻となったこれまでの身体は霧散した。
「私は……」
 蛹から羽化した蝶の如く、姿を現した翼を持つ女は口を開いた。
「天界の大悪魔との大戦で刺し違え……」
 虹色の光を放つ髪を揺らし、同じく光り輝く翼を広げ、宙に浮いた。
「ホノメという名の、死にゆく赤子を依代とし……」
 宙で両手両足を開き全身にエナジーを纏うと、色彩豊かなドレスを出現させた。
「リョウカと言う名を新たに貰い、今日まで人として生きてきた……」
 更にエナジーを発動すると、両手首に計七つの異なった色を持つリングが、脚には紫のリボンが結びつけられた。
「ソルに導かれし虹の女神……」
 最後に頭に帽子が現れた。
 そしてロビン達を振り返り、真紅の瞳を向け、虹色に輝く翼を大きく広げた。
「私は……、イリス!」
 天界で最強の力を誇っていた虹の女神が、今ここに、復活を遂げた。