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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 16

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第60章 最後の灯台


 エレメンタルスターをソル神殿より奪取する事に成功し、サテュロスやメナーディといった北の火の一族の長の犠牲を払いながらも、灯台は四つの内三つが灯された。錬金術復活まで残りわずかとなっていた。
 しかし、アレクスがジュピター灯台にて、ロビンからかすめ取ったマーズスターには、特殊な仕掛けが施されていることが、シレーネにより明らかとなった。
「先生、エレメンタルスターに仕掛けられているものは、一体……?」
 まもなく錬金術を手に入れ、完全なる存在となれる、と心で嬉々としていたアレクスは落胆、ではなくこれまでの苦労が水の泡になることに焦りを覚えていた。
「あら、あんたがそんなに慌てるなんて。珍しいわねぇ……」
 シレーネは紅蓮に輝くマーズスターを片手に、鋭い八重歯を見せてニヤリ、とアレクスをからかった。いや、からかったと言うよりは、何かよからぬ事を考えているのでは無いかと鎌を掛けているようだった。
「…………」
 慌ててはいたが、その程度の追求にぼろを出すようなアレクスではなかった。彼の問いになかなか答えようとしないシレーネに、内心は苛々しながらも、黙って答えを待っていた。
「あらあら、本当に随分と珍しいわねぇ。まさか、錬金術が復活しなきゃ何かまずいことでもあるわけ?」
 シレーネはまるで心を読んでいるかのように、更に問いを重ねてくる。しかし彼女にはそのような能力はない。毅然としていればそれで問題はない。
「私は錬金術復活の為にこれまで動き続けてきました。それなのに、今になって不可能になっては意味がないではないですか」
 アレクスは、落ち着いて当たり障りのない答えをした。訊ねてきたシレーネは、ふーん、と特に興味なさそうに、マーズスターを角度を変えて見回していた。
 様々な角度から、紅蓮の玉を見渡して、シレーネは仕掛けの正体を告げた。
「これは……、どうやら錬金術が復活しないように、エレメンタルスターの完全なパワーが出ないよう細工されているみたいね……」
「と言うことは、例えこのエレメンタルスターで灯台を灯したとしても、完全な錬金術は復活しない。ということですか?」
「さすが、やっぱり頭いいわねぇアレクス。これじゃああんたが前に言っていた石を金に変えるような事は無理よ。精々石をピカピカに磨くくらいのことしかできないわね」
 一体誰がこのような仕業をしたのか、アレクスは錬金術を手に入れられないという事実に、静かに憤怒に震えた。
 しかし、次のシレーネの言葉に、アレクスの怒りはすぐに鎮まった。
「でも、ニセモノの錬金術でも悪魔様を再臨させるには十分ね」
 シレーネは悪魔を再臨させる事を言い出した。思えばアレクスは悪魔について深い話は聞かされてこなかった。いつもシレーネののろけ話位しか聞かされなかったのである。
「先生の仰る悪魔様、デュラハンと言いましたか。その悪魔様に一体何ができるのですか
?」
 アレクスは初めて、かつて天界の神々との戦いの後、封印された悪魔について深く追求した。
 しかし、返ってきたのは言葉ではなく、シレーネの力によって作り出された、石ころ大の氷塊であった。その氷塊はアレクスの頭に当たり、からからと地面に転がった。
「悪魔様を呼び捨てにするのは、いくらあんたでも許さないよ」
 アレクスは焦りでつい、言葉を違えてしまったらしい。
「失礼いたしました。それで、デュラハン様が再臨することで、どのような事が可能になるのでしょうか?」
 アレクスは詫びの言葉を添えて、改めてデュラハン復活と錬金術との関係性を訊ねた。
「まあいいわ、教えたげる。我が麗しの主、デュラハン様を再臨させるには、とてつもなく大きな力が必要だったのよ」
 悪魔デュラハンは、天界での闘争にて、数多くの神々を殺してきたほどの強大な力を誇っていた。その力は、天界でも五本の指に入るほどの、最強の神がやっと互角の勝負ができるほどだった。
 天界最強の神と刺し違える事で、デュラハンは封印されることとなってしまった。しかし、所詮は満身創痍の神によって施された封印である。封印はかなり不完全なものであった。
 デュラハンの封印を解く方。それは巨大なエレメンタルパワーであった。つまり、世界のエレメンタルパワーが強まっていけば、その力をもって封印を打ち破れる。シレーネはそのように考えていた。
「私を利用していた、ということですか?」
 アレクスが、エレメンタルの灯台を灯して回っていることは、シレーネにも分かっていた。結果としてはこのようになる。
 アレクスの方もシレーネを利用していたが、逆に利用されているとは気付かずにいた。
「いつかちゃんと教えようと思ってたんだけど、ほら、あんた外のあちこちに出回ってたし、帰ってきたかと思えば、修行だったし」
 シレーネの言い分については、返せなかった。尤も、彼女が本当に話すつもりでいたのかは分かりかねたが。
 しかし、アレクスにとって、シレーネは、もともと利用するだけ利用して後は適当に扱うつもりであった女である。仕掛けの看破をするなど、利用価値はまだ存分にあった。
「確かに、そこは私の落ち度でしょう。先生の仰る通りです。それで、先生のお力で、エレメンタルスターに仕掛けを施したものは見えないのですか?」
 シレーネの魔術をもってすれば、過去、未来、人の寿命、さらには遠く離れた場所の様子を見通すことができた。
 そうした方法で細工した者を見破り、その者を討てば仕掛けは解けるのではないかとアレクスは考えたのである。
「試してみたわ、何度もね……。けど、このエレメンタルスターの周りの事は全部朧気なのよ。こんなの初めてだわ……」
 どうやら術者を殺すのは不可能のようだった。
 役立たずが、とアレクスはシレーネが心までは読めないことを利用して、悪態をついた。
「では先生、今私達のなすべき事は、ひとまずエレメンタルの灯台の解放、ということでよろしいですね?」
 灯台と同時にデュラハンが封印から解放されれば、マーズスターの細工は打ち破ることができると言うが、どのようにそうした事が可能になるのか。
 疑問が残ったが、アレクスはデュラハンの力とやらに頼ることにした。
「そうね。デュラハン様を再臨させるのが、あたしの目的。そのためには、世界のエレメンタルパワーを巨大化しないとね。それじゃあそろそろあいつらにも働いてもらおうかしら……」
「あいつら? 誰のことですか」
「忘れたの? この神殿の空き部屋に置いてある、石化したあたしの仲間よ」
 アレクスは完全に忘れていた。何しろ、三年前に彼らの石像を回収したのだが、その間一切手付かずの状態で放置していた。忘れるのも無理のない話だった。
「ああ、思い出しました。先生と同じく石化していた……。ですが、なぜ今になって彼らを復活させるのですか?」
「あいつらと一緒にいたら、計画が遅れるどころか、不意になるかもしれなかったのよ。一人は、召喚術以外筋肉しかない脳筋バカだし、もう一人は悪魔様を倒そうと考えているやつだし……」
「ちょっと待ってください。どうしてデュラハン様を倒そうとする者が、私達の仲間にいるのですか?」
「悪魔様がやつを気に入ったからよ」