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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 16

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 かつてデュラハンが、天界に侵攻した際、神々だけでなく、天界の住人も数知れないほど殺害された。
 天界には、神々を守るための騎士団がおり、今やシレーネと共にデュラハンの下にいる剣士が、その騎士団の一員であった。
 彼には恋人がいた。しかし、彼の恋人はデュラハンの手に掛かって死んでしまった。騎士団の中で、奇跡的に生き残った彼は、デュラハンへの復讐を誓ったのである。
 いつかデュラハンを討ち果たし、仲間達、そして恋人の仇を取るため、彼は何者にも屈しない力を求めるようになった。そしていつしか彼は、力を得るためならば、手段を選ばなくなっていった。
 そのような心につけ込んだのは、デュラハンであった。魔の力を与え、己の命を狙われているにも関わらず、彼を手下としたのだった。
「……とまあ、あいつについて分かることはこのくらいね。それにしてもネチっこい男よねぇ……。昔の女のことなんかさっさと忘れちゃえばいいのに……」
 デュラハンに心身ともに捧げながら、平気でアレクスに身体を許す、シレーネらしい言葉だった。
「ふむ、確かにそのお方がデュラハン様復活に協力的であるとは思えませんね。下手をすれば、我々で衝突していた可能性もありましたからね」
「いいえ、むしろ逆。あいつは悪魔様を自分の手で殺したがる男だったから。復活させた上で勝負を挑んだでしょうね。全く回りくどい上に、勝てっこないのに、ああホント、あいつだけは大っ嫌い!」
 魔に堕ちながらも、心だけはまだ騎士のそれが残っているようだった。ずる賢いシレーネとはとても馬が合わないだろう、アレクスは思うのだった。
「そういえば、召喚術に長ける方もいらっしゃいましたね? そちらの方はどのような方なのですか」
 アレクスは特に深い意味なく訊ねた。
「あいつは、一言で言うならバカ。本当にどうしようもないわ! あいつこそ一緒に計画を進めようとしてたら、ダメになっていたわよ」
 シレーネによると、頭こそ空だが、怪力を持つという。戦いになれば少しは役に立つであろうとの事だった。
 それからアレクスとシレーネは怪力召喚師と甲冑剣士を石化からの解放に当たり、悪魔の手下は全て復活した。後は悪魔デュラハン、かの者の復活を残すのみとなった。
    ※※※
 アレクスは二名の同行者と共に、空を進んでいた。
 その同行者達は、今し方、石化の封印から解いた悪魔の手下であった。
 様々な獣を合わせたような姿をし、右が鷲の、左が蝙蝠という左右非対称の翼を羽ばたかせるのは、ビーストサマナー、バルログである。顔は狒々のような毛で被われており、巨躯で逞しい体をしていた。
 昔から一緒にいるシレーネによると、脳筋馬鹿と揶揄されているが、力ばかりでなく、魔獣を呼び出す召喚術を得意とする者であった。
 それからもう一方。光り輝く、魔法により出現している翼で空を行くのは、全身を鎧に包み、右腰に剣を差す、デモンズセンチネルの異名を持つ剣士であった。
 彼は本気で戦える相手にしか真の名を教えない変わり者であった。なので、シレーネとバルログは、彼を異名のセンチネル、と呼んでいた。アレクスも彼女らに倣うことにしていた。
 アレクスはシレーネから教わった魔術により、空を飛んでいた。
 彼らがこうして空を進む理由は、悪魔デュラハンを再臨させる最後の鍵を解くためだった。
 彼らの目指す先はプロクスの地である。アレクスがロビンから盗んだマーズスターを携えて、三人はマーズ灯台を目指していた。
 シレーネは一人、アネモス神殿に残り、マーズ灯台が灯った瞬間にデュラハンを迎えられるよう、デュラハンの封じられている暗黒の世界とウェイアードを繋ぐ準備をしていた。
 最後の灯台解放は、アレクス一人でも十分勤まる事であったが、アレクスの出発前、シレーネはマーズ灯台頂上に異形の存在があることを予見した。そのため、戦力増強の為にバルログとセンチネルも行かせる事にしたのだった。
 ギアナの地を発ち、北上を始めてから、そろそろ一時間が経とうとしていた。
 プロクスの地は寒気に包まれ、常に吹雪が降りしきる状態であった。先導するアレクスはふと、空気の変化を感じ始めた。温度が急に下がったのだ。
「風が冷えてきました。もうすぐプロクスです」
 アレクスは後ろの二人に言った。
「ぶるる……、何だか急に寒くなったなぁ。俺様、寒いのはニガテだ……」
 鼻をすすりながら、バルログは文句を言う。
「……貴様は鍛え方が足りん。それでなくとも貴様は脳まで筋肉であろう? 寒さなど感じないのではないか」
「むきー、言ったなセンチネル! 俺様は脳筋バカじゃないぞ! シレーネのアネゴみたいに馬鹿にしやがってー!」
「……すぐに喚くな、だから貴様は脳筋と言われるのだ」
 彼らを復活させてから僅かしか経っていないが、アレクスは二人の性格がよく分かった。
 ほぼシレーネから聞いていたとおりである。バルログは馬鹿にされたと思えばすぐむきになる、短気な、彼女らの言葉を借りるならば脳筋馬鹿。そして、センチネルの方はどこか人を見下すような節がある。アレクスは気にとめないが、シレーネやバルログにとってはかんに障る者であろう。
 アレクスは、シレーネがこれまで二人を解放しなかった理由が、よく分かったような気がした。
 後ろで騒ぐバルログを、アレクス達は無視して進んでいくと、粉雪が降り始め、やがて吹雪となった。
「吹雪いてきましたね……! どうします、地に下りて灯台まで歩きますか?」
 猛吹雪の中では空中での移動は困難と判断したアレクスは、二人に提案した。
「お、おう、そうしよう! これじゃ寒くて凍っちまうよ!」
「俺はこのままでも構わんが、仕方あるまい。馬鹿に喚かれる方が苦だ……」
 馬鹿と呼ばれ、また騒ぎ出したバルログはやはり無視し、アレクス達は地に下りる事にした。
 アレクス達の下りた先は、プロクス村の北であった。このままさらに北へ進めばマーズ灯台へ着く。
「ひとまず灯台の麓まで参りましょう。頂上へは私が瞬間移動でお運びします……」
 マーズ灯台のある方角に目をやると、アレクスは強力なものの気配を感じた。
 この気配は、感じたことのある質のものである。自らを悪魔を封じた女神である、と言っていた者の気配、それであった。
 しかし、今は最後に感じた時の気配より数段に跳ね上がっている。天界で最強の神と呼んでも遜色ないほどの力を発している。
 予見の力は使っていない。使えば、灯台の入り口付近にいる者に悟られる可能性があったからである。故に、その者の姿までは捉えられていない。
 マーズ灯台頂上には、異形の存在の気配は、シレーネに言われた通り、あった。しかし、それよりも下にいる存在の方がよほど驚異であった。
「どうした」
 センチネルの言葉に、アレクスは、はっとなった。あまりにも灯台から感じる気配に夢中になっていた。
「顔色が悪いぞ」
「いえ、大丈夫です。それよりも……」
「んー? どうしたんだ?」
 バルログは太い眉根を寄せた。
「ここから灯台頂上までワープします。その分精神力をだいぶ消費してしまいますので、頂上にいるものの存在の相手はお任せしたいのですが
、よろしいでしょうか?」